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エーテル・グレイス  作者: クロビー
序章 アルストラ王国編
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特務機関の仕事

 季節は秋真っ只中。風の無い夜でも少し肌寒くなってくる頃だ。


 そんな中、川崎(かわさき)(とおる)とその横に居る駒井(こまい)義明(よしあき)は夜の闇に紛れるように、三十階ある高層ビルの近くでじっと身を潜めている。


 二人はナイフと拳銃を携えており、服は黒を基調としたスーツを着用し、通信用として、可能な限り目立ちにくく作られた片耳の無線のイヤホンマイクを着用している。


「こちらフィル七、そっちの端末にデータ送ったよ。今から言うからちゃんと聞いてね」


 そう通信してきたのは川崎透の妹である川崎(かわさき)玲奈(れいな)だ。


 端末のレーダを確認すると建物の内部はほとんど赤に染まっており、何人いるのかすら分からないほどだった。


「五階までは警備は無し。六階からは各階に三人ずつ居て、その三人とは別に階段に二人ずつ配置されてる。最上階の十階には十人でボスと思わしき人物が一人。ビルには合計三十人いるよ。誘拐された子供八人は最上階の隅で気絶してる。一応言っておくけど、怪我をさせないようにしてね」

「例のない人数だな」

「相手もそれだけ焦ってるってことだね。今までの計画が全て失敗に終わってるから」

「なるほどなぁ……。とりあえず了解」


 俺は玲奈との通信を終えるともう一人、西園寺(さいおんじ)静流(しずる)と通信をする。


「こちらフィル五、ビルにいる奴ら狙えますか? 出来れば各階の三人の内一人やってもらいたいんですけど」

「この位置だと六階と七階の奴らは障害物に隠れて見えないな。八階からは辛うじて一人見える。狙ってはみるがあまり期待はするなよ?」


 西園寺静流は川崎透の居るビルの、隣のビルの屋上から目標を見つめる。


 こうして通話を終了する。

 あの人があのスナイパーライフルで外すことはないと思うが、外したときの想定もしておくべきか。

 フィル八……もとい、西園寺静流は組織内でも一、ニを争うほどの狙撃手。

 とはいえ、あくまで狙撃は狙撃。

 過度な期待はしないほうがいい。


「六階と七階は俺達だけで、八階以降はフィル八の援護が貰えるから俺達は二人を確実に仕留めるようにする」

「階段の二人も僕たちだけ?」

「そうだな。やっぱり負担多いよなぁ…。なんで俺とお前の二人だけなのか…。ま、やるしかないんだけどな」


 俺と義明は光学迷彩を起動し、刀を抜く。

 俺は超能力で身体能力・肉体強度を向上させる。


 俺が建物内にいる奴らの注意を引くために、二十六階の非常階段のドアを少しだけ開けると男がドアが開いたことに気付く。


「誰だ! ……って誰もいないな。風か?」


 非常階段のドアが開いたことにより一人が警戒するが何も見えず、すぐに警戒を解きドアを閉めに行こうとした。


 そこを注意の逸れている入り口から義明が突入し、一人を気絶させる。


「何がっー!?」


 ドアを閉めに行った敵が声を上げそうになるが、そこを俺が非常階段の方から入る。一人を殴り、銃を構えたもう一人を拳銃で肩を撃ち、義明が殴って気絶させた。


 殺さずに気絶させるのは難しいんだが、それでもこいつらを罰するのは法律だ。俺達が殺していいわけじゃない。


「よし、初手奇襲は成功だな。この調子でいくぞ」


 六階の敵を片付け、階段を上っていく。


「足音を立てないよう、慎重に行くぞ」

「了解」


 光学迷彩を起動したまま、ゆっくりと階段を上る。

 そのまま階段の見張りの後ろまで行き、俺の合図とともに見張り二人を気絶させた。


「おい、今何か音がしなかったか?」

「俺がちょっと見てくる」


 階段から音が聴こえたのか七階の奴が一人、階段の様子を見に来た。

 光学迷彩を起動しているから見つかることはないと思うが、それでも必ず見つからない保証はない。

 気絶させた二人から少し離れ、様子を見に来るやつを待つ。


「おい! 何かあったのか!」


 男は階段に向かってそう叫ぶが、何も反応は返ってこない。

 男は首を傾げると、様子を見るためか階段を降りてきた。

 俺と義明は息を殺し、男が通り過ぎるのを待つ。


「お、おい! お前ら、何があった!」


 男が倒れている二人に掛け寄ろうとしたところを、後ろから襲いかかり気絶させた。


「取り敢えずは成功だな」

「次の階の人が様子を見に来たときは、少し焦ったけどね」

「結果何とかなったから、反省は後でするぞ」


 階段を少し上って部屋の中を覗く。


「あいつはまだか?」

「みたいだな。もうすぐしたら戻って来るだろ」

「そうだな」


 様子を見に行ったやつが戻ってこないのを不思議に思っているようだが、周りへの警戒が強まっている気配はない。

 この部屋に残っているのは二人だから、俺と義明で一人ずつ気絶させればいいだろう。


 義明もそれを理解してか、俺を見て小さく頷いた。

 俺の合図とともに部屋に入り、残った二人を素早く仕留めた。


 次は八階だ。フィル八の援護があるからノンストップで駆け上がろう。


 先程と同じように階段の敵を仕留め、二十八階の敵を二人仕留める。


「一体何が……!?」


 仕留めきれていないもう一人に弾が直撃し、怯んだ瞬間に殴って気絶させた。

 この距離でも正確に肩に当てるとは流石だ。

 男の肩をスナイパーライフルで貫いた西園寺静流を称賛する。

 その後も着実に連中を仕留め、最上階の手前へと上り詰めた。


「十階には攫われた子供がいる。拳銃は使わないほうがいい」


 俺と義明は拳銃を仕舞い、十階の敵へと飛びかかり、二人仕留める。

 周りの敵は一体何が起こったのか分からず慌てる。


「待て、あそこをよく見ろ! 微妙に空間が歪んでる。光学迷彩だ!」


 敵のボスがのいる場所を指差すと他の奴が一斉に銃を放ってくる。

 しかし、銃弾は俺に飛んでくることはなく、空中で止まり、そのまま地面へと落ちる。

 フィル八の〈停止〉で銃弾を止めて、フィル六の〈解体〉で銃弾の速度を失わせる。いい連携だ。


「くそっ! 銃では駄目だ! ナイフで斬りかかれ!」


 ボスの指示でナイフを持って突っ込んで来るがそんなのは怖くない。


 俺はナイフで斬りかかって来た男を避け、逆に男をナイフで返り討ちにする。


 よし、次は誰だ。

 俺が二人、義明が二人、西園寺静流が一人仕留め、後五人残っている。一人ずつ確実に仕留めるか。

 そう考えていると、刀の持っていない左腕が吹き飛んだ。


「っ――――!」


 切断されたような腕からは血が床に飛び散り、声にならない痛みに襲われる。

 急いで超能力で体と服を元に戻すが、光学迷彩が解除され、敵の目の前で姿が露わになってしまった。


 敵は俺が子供だと思っていなかったのか、それとも腕が治ったことに驚いたのか敵は唖然とするも、俺に背筋が凍りそうなほどの殺意を向ける。


「このクソガキがぁ! 野郎共こいつを殺せ!」


 三人が俺に向かって来るがナイフを持っただけの奴なんて怖くはない。

 今一番怖いのはさっき俺の左腕を切り落とした奴だ。

 恐らく超能力者だろう。

 だが何処にもいるのか分からない。

 俺は向かって来た三人を返り討ちにしながら敵をよく観察する。


 すると、部屋の中に一人だけ動かない男が居ることに気がついた。

 そいつだけ周りのやつとは違い、武器を持っている様子が無い。

 部屋の隅にいるそいつがニヤリと笑った瞬間、今度は右脚が吹き飛ぶ。

 再び痛みに襲われ、すぐに超能力で再生させる。

 あいつか、超能力者は。

 だがどうする?

 超能力者までは距離があるし、子供達の近くに居るから俺の腕で拳銃を使うわけにもいかない。


 このままじゃ埒が明かねぇ。

 どうする……相手のほうが数的有利な以上これ以上は近づけない。

 だが動き回っていないと下手したら即死だ。


「こちらのフィル五、援軍はまだですか!?」

「こちらノーメル一。現在敵のヘリを無力化し、そちらに向かっている。暫し持ちこたえろ」


 西園寺静流は射線を遮られ、俺と義明が攻めあぐねていると、外から窓を突き破り六人の人影が現れ敵を数人無力化する。


「お前たちは既に包囲されている。武器を捨てて大人しく投降しろ!」


 第三課のリーダー、川崎(かわさき)恭介(きょうすけ)は敵に銃を向け投降するよう言う。


「いくら集まったところで俺の能力の餌食だ!」


 敵の超能力者がそう言い放ち川崎恭介に目を向け殺そうとするが何も起こらない。


「……? 何故だ、何故俺の超能力が発動しない!?」


 超能力が発動しなかったことに驚きを隠せない様子だ。男の表情は困惑と焦りが入り混じって非常に醜い顔になっている。


「お前が雇われのエーテル使いか。能力は……空間切断、だろ?」


 そういうと川崎恭介は拳銃の引き金を引き、男の頬を掠らせる。


「次は威嚇じゃ済まないぞ」

「くそっ!」


 その様子を目にした他の敵は抵抗するのをやめ、大人しく連行されていった。


「後は上に任せて、俺達は戻るぞ」


 俺と義明は川崎恭介にそう言われ、その場を後にする。


 建物の外に出ると、移動用の車が既に用意されていた。

 部隊ごとに分かれ、俺と義明の二人で車に乗ると、西園寺静流が傍らにライフルを置いて待っていた。


「二人とも、お疲れ様だな。良くやった」

「これが俺達の仕事ですから」

「そうだな。でも、無理はするなよ?」


 そんな言葉を交わしていると、車は走り出していた。

 街頭であかあかと照らされた夜の街を、車に揺られながら進んでいく。


 うつらうつらと船を漕いでいると、いつの間にか建物に到着し、車は止まっていた。

 俺は車から降りると、軽く伸びをする。


 西園寺静流とはここで分かれ、俺と義明の二人で建物の中に入り、エレベーターで上がっていく。

 疲れたなぁ。などと思いながら歩いていき、突き当りの前の部屋へと入る。


 そこには、先に戻ってきていた川崎恭介の姿があった。


「お、戻ってきたか」


 俺と義明は部屋に置かれたソファに適当に座り、肩の力を抜いた。


「さて、任務お疲れ様。フィル五、フィル六、大丈夫だったか?」

「体は大丈夫だけど精神的に疲れたな。左腕と右脚が吹き飛ぶとは思わなかったし、首とか狙われてたら即死だったんだぞ。もう少し早く来て欲しかった」


 俺は自分の義父、川崎恭介にジト目で訴える。


「うっ……それは……何というかすまんかった。あれでも急いだんだがな……」


 まぁ、親父が忙しいのはこっちでも理解してるからそこまで責めるつもりは無い。

 二人で話していると、金髪の美少女が髪を揺らしながら部屋に入ってきた。


「お兄ちゃんと先輩お疲れ様。連中はちゃんと拘束出来たし、攫われた子供たちも全員無事に保護出来たみたい」

「お〜、玲奈ちゃん。透と義明だけじゃなくてお義父さんも頑張ったぞ〜」


 親父は玲奈に優しくしてくれと言わんばかりに声をかけるが、玲奈は華麗にこれをスルー。


「先輩、もうこんな時間だしそろそろ帰らないと親御さんも心配するんじゃないですか?」

「そうだね、僕はそろそろお暇するよ。それでは、お疲れ様でした」


 義明はそう言うと部屋を出る。

 義明の親も特務機関の関係者だし多少遅いのは大丈夫だと思うけどな。真面目だなぁ。


「あれ? 玲奈ちゃん、無視しないで〜?」


 親父が玲奈に再び話しかけるもスルーされる。


「お兄ちゃんはご飯にする? お腹減ったでしょ」

「あぁ、そうするよ。それより親父、また何かやらかしたのか?」


 流石に可哀想だと思い親父に話しかける。


「いや、何もしてないよ? ただ玲奈の服を買ってきただけで……」


 いや、それが原因じゃん。

 親父の服のセンスは玲奈と合わないんだから。

 いい加減学習してくれ……。


「親父、そろそろ玲奈の服を買ってくるの止めといた方がいいと思うぞ? 玲奈ももう高校生なんだからそういうのは本人に任せたら?」

「いやだって可愛い服着てほしいし……」


 親父は玲奈にリボンやフリルが付いた服を着てほしいしらしいのだが、玲奈自身は動きやすい服がいいらしい。


「はぁ……、買ってきたものは仕方がないから着てるけど流石にちょっとウザく感じてくるよ?」

「玲奈ちゃんはお義父さんのことウザく感じてるの!? 直すから何処が悪いのか教えて――」

「そういうところがウザいの! ご飯にするから二人ともちゃんと手を洗ってね!」


 玲奈はそう言い残し、部屋を出てしまった。

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