其ノ五
腕を折られた激痛に清三が身をよじる。
騒ぎを横目に、寒月水が手拭いを何食わぬ顔で拾って袂に入れる。
「清三、てめえ恥をかかせやがって!」
騒ぎを聞きつけて来た常造が清三を殴りつけ、下っ端に命じて奥へ引っ張っていく。
「先生、とんだ所をお見せしまして」
「お前は知らなかったと言うのか、常造」
「ここだけの話でどうか、親分にはご勘弁を」
常造が紙に袖の下を包んで握らせる。
事もなげにそれを受け取りながら、寒月水が三十六に向き直る。
「それにしても、お主には私もすっかり騙された。まさか別の賽を使うための方便だったとはな」
「あっしもすっかり騙されやしたぜ。瓢箪から駒とはこの事で」
「しかし負けたらどうするつもりだった。必ず勝つとは言えぬからな」
「まあ、それはもう良いだろう。本題は別にある」
「何だ?」
「先日ここに飾り職人が来て、負けた金のカタに、細工物の簪を置いて行ったはずだ。その簪をこれで買い取りたい。文句はなかろう」
「その事に文句はないが、少し面倒がある」
「何? 売ってしまったのか」
「いや、私がここに持っている。流すには惜しい品だったのでな。ただ、私も金を払って買ったのだ。気に入っているから、おいそれと手放す気はない」
「そいつは困ったな。そいつは誂えの品で納め先が決まっている。返して貰う訳にはいかんか? 何なら同じものを後で拵えても良い」
「まあ待て。金や物で済ますのは面白くない」
「だったらどうする?」
「事の起こりは博奕なのだから、もうひと勝負、私と勝負してもらおう」
「何だって?」
「お前は一本松に居る算術屋だな。見たことがある。だったら今度はそちらの土俵に私が出向こう」
そう言って女用心棒は座を離れた。それを合図にして盆はお開きとなった。




