其ノ三
鉄火場にそぐわない三十六を見て、清三はちらりと一瞥をくれただけであった。
しかし、何度か様子見を挟みながらも、次第に三十六が出目を当てるようになり、ついにはそれが五度六度と続くにつれ、清三は険しい表情で三十六を睨んだ。
そうなると、はじめは好きなように賭けていた仁吉も、三十六の張りに相乗りするようになる。それに他の客も続くと、清三の青白い顔が次第に険しくなり、汗を拭く手拭いに頻繁に手を伸ばす。
小半時もすると、三十六の前には百枚程のコマ札が積まれていた。
その内の三割程は、賭けの帳尻を合わせる為に賭場から出ているのだから、赤岩一家にしたら大損だ。
「次!」
賭けを促す丑松の声も殺気立って来る。
その声を遮って、三十六が言う。
「済まんが俺はこれで抜けさせて貰うよ」
「えっ、旦那もう少し続けて下せえよ」
「いや、甚六の借金の足しには十分儲けさせて貰ったしな」
「そうは言っても勝ち逃げは無えですよ」
「勝ち逃げ? そう言われればそうだが」
こういう時の一人勝ちの客は、角が立たないように酒代、飯代などと言って幾らか盆に返すのが通例なのだが、三十六にそんな気は無いようだ。
腰を上げた三十六に、丑松が声を掛ける。
「お客人、勝負は時の運。四の五の言うつもりはござんせん。ただ、この場を仕切る手前の顔を立てて、最後にひと一勝負、差しで受けちゃくれませんかね」
有無を言わせぬやくざの口上に場が静まった。
「弱ったな。だがまあ、逃げる訳にもいくまい」
三十六がふうと息を漏らして、もう一度座り直す。
「ただし、だ。承知して貰いたい事がふたつある」
三十六は指を二本立てて、丑松に言った。
「一つ、俺にも賽を振らせて貰いたい。二つ、勝負は丁半の出目でなく、出た目の和が大きい方の勝ち。この条件ならこちらも呑もう。どうだ?」
「何だって?」
「同じ土俵じゃ元々俺に勝ち目のない勝負だ。得手不得手の無い条件なら五分と五分。そちらの賽を振るのは中盆の兄さんと、壺振りとで一度ずつ、二度のうちの良い方の出目で構わん。ああ、そうだな。出目の和が同じ時は振り直しにしよう」
「いや、何でそんな‥‥」
「そいつは面白いな。受けてやれ」




