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其ノ二

 中盆なかぼんは半裸に組の半纏を羽織った太り肉の男で、丑松という名のとおりの野太い声で、壺っ、と清三郎を促す。


 それを受けて清三郎が壺を振り、丁、半という客の声と共に、場にコマ札が並ぶ。


 田舎の小博奕だから客柄はそれ程悪くは無い。


 田仕事を終えた豪農の若い衆や、商家の道楽息子、部屋住みの武家の次男坊など十四、五人ばかり、大汗をかきながら盆茣蓙ぼんござを囲んでいる。


 しかし三十六は、すぐ盆に加わろうとはせず、離れた位置で、帳面に矢立で何やら書き付けながら、興味津々でその様子を見ている。


「旦那ァ。賭けなきゃ始まりませんぜ」

 止めるはずの仁吉が、鉄火場の熱に煽られ、矢も盾も堪らず、三十六の文紗の袖を引っ張る。


「様子見ったって、もういい頃合いじゃねえですか。習うより慣れろだ」

「待て待て、ようやく道理が分かって来た所だ」

「道理ったって、目は丁半の二つに一つ、これっきりでしょうや、じれってぇな」

 仁吉が手にしたコマ札をかちかちと打ち鳴らす。


「その事だがな、仁吉。さっきから見ていると、丁に張る客が多いのはどう言う訳だ?」

「分かりませんかい? 出目は九半十二丁、丁の出目が半より多いからに決まってまさぁ」


「その理屈なら、半は丁より損と言う事になるな」

「丁ばかりの盆なんて有りゃしねぇでしょう? お天道様だって、晴れの日もありゃ雨の日雪の日もあるのが当たり前。その意のままに成らねえことを当てるのが博奕の面白味ってもんでさあ」


「それも一理あるな。だが丁と半の出目に損得があると言うのはどうだろうな」

「へ? そりゃどういうこって」


「九半十二丁と言うが、全部の出目を並べて見れば」

 三十六はそう言って、帳面を床に置いて、書いた出目の一覧を見せる。


 一  一 ノ丁  一  二 ノ半

 一  三 ノ丁  一  四 ノ半

 一  五 ノ丁  一  六 ノ半


 二  二 ノ丁  二  三 ノ半

 二  四 ノ丁  二  五 ノ半

 二  六 ノ丁


 三  三 ノ丁  三  四 ノ半

 三  五 ノ丁  三  六 ノ半


 四  四 ノ丁  四  五 ノ半

 四  六 ノ丁


 五  五 ノ丁  五  六 ノ半


 六  六 ノ丁


「出目はこれで全部だな?」

「へえ、確かに九半十二丁。有りやすね」


「ところでこの出目は、二つの賽の目の和で決まるのだろうが、賽が一つしか無いときはどうする?」

「へ?」

「一つしか無い賽を二回振って、その和を出目とするなら、出目はいくつ有る?」

「な、何でそんな面倒な真似をするんで?」

「俺はこう言う間違いを正さずには居れない質でな。まあ聞け。賽の出る目を、振る順に甲、乙としよう」


 そう言って袂から、自前の賽を取り出し、手の中で二度転がし、これが甲これが乙と仁吉に見せた。その賽は目の代わりに壱から六の数が書いてあり、賭場のものよりも少し大きかった。


「それは分かりやす。でも旦那、何で賽なんか持ってるんで?」

「まあ、色々と、な」

 仁吉の問いに、三十六は笑って答えない。


「それで、だ。こうすると同じ和の時でも、二通りの出目が出来る」

 三十六が帳面をめくると、そこに甲乙に分けた出目が書いてあった。


 甲  乙     甲  乙

 一  一 ノ丁  一  二 ノ半

 一  三 ノ丁  一  四 ノ半

 一  五 ノ丁  一  六 ノ半

          二  一 ノ半

 二  二 ノ丁  二  三 ノ半

 二  四 ノ丁  二  五 ノ半

 二  六 ノ丁

 三  一 ノ丁  三  二 ノ半

 三  三 ノ丁  三  四 ノ半

 三  五 ノ丁  三  六 ノ半

          四  一 ノ半

 四  二 ノ丁  四  三 ノ半

 四  四 ノ丁  四  五 ノ半

 四  六 ノ丁

 五  一 ノ丁  五  二 ノ半

 五  三 ノ丁  五  四 ノ半

 五  五 ノ丁  五  六 ノ半

          六  一 ノ半

 六  二 ノ丁  六  三 ノ半

 六  四 ノ丁  六  五 ノ半

 六  六 ノ丁


「これで丁が十八、半が十八。とどのつまり、丁半の出目は同じ割合と言うことになる」

「へえ、成る程。確かに同じ数になりやすね。ですがこれが勝負と何か関わりがあるんで?」

「どうかな。さて、そろそろ行ってみるか、仁吉」

「そう来なくちゃ。論より証拠を見せてくだせえよ」


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