私の中の小学五年生
私が小説を書き始めたのは、小学校五年生の時だった。
小学生女子にありがちな、文房具集め。
可愛い鉛筆、消しゴム、ペンや筆箱……でも、中でも私が一番集めていたのはノートだった。
可愛いノートを見つけては、そのノートにふさわしいお話を一冊で書きあげるのだ。
鮮やかな水色のノートには、人魚の甘酸っぱい恋の話。
レモンイエローのノートには、幼馴染の中学生の上手くいかない天邪鬼な恋なんかを。
あの頃の私の作品には、技巧なんてまるでなくて、ただ、自分なりにドキドキする展開なんかを考えては、ワクワクしていたものだった。
友達にそのノートを見せるようになったのは、なぜだったのか。ちっとも思い出せない。初めは一人二人だったはずが、ノートはいつも誰かに回し読みされて、続きはどうなるのかとせっつかれた。
思えば、あれ以上に幸せな作家経験は、今までで生きてきてないかもしれない。
好奇心と純粋な優しさだけでできていた。
書いている私も、読んでいる彼女たちも未熟だったからだ。
今、久しぶりにラブストーリーを書いている。しかも、異世界もの。
私が生きてきて、異世界ファンタジーは初めて書いたのではないかと思う。
ここ数週間、私が一生懸命に思い出そうとしているのは、あの頃の私。
書くのが楽しくて、ただただ、寝る間も惜しんで書いていた。
ここをこんな風にすれば、あの子はどんな顔をするだろう。
驚く友達の顔見たさに、私はひたすら鉛筆を走らせた。
まだ見ぬ中高生の恋に、夢を見ていた。
思えば、あれは壮大なファンタジーだと、後々知ることになるのだけれど。
そう考えれば、私はずっとファンタジーを書き続けているのかしれない。
あの頃の私は、今の私を見てなんて言うだろう。
変わってないとガッカリするだろうか。
それとも、やめられないよね、と笑うだろうか。
小学五年生の私の面影を、今日も私は追う。
ねぇ、ちょっとは上手になったって言ってよ。
ねぇ、今日はうまくかけたでしょ?
ねぇ、全然思い浮かばないよ。
あの頃の私は、ちっとも返事をしてくれない。
書き出す前は、仕事でもないのに、続くだろうか。
そう思っていた私だけれど、今の所は大丈夫。
私は書くことが好きだ、それを再確認できて、この場所にとても感謝している。
上手くいかないかもしれないけど、私のエンディングに向けて、今日も書く。
独りよがりな私のストーリーを、誰か、そんな気なしに、待っていてくれたら嬉しいと思う。
あの頃の、クラスメイトたちみたいに。