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ダリスの話10


あの女がイライラしている様子が目に入った。


「なんでまた私があの子の世話をするのよ」


そうブツブツと一人で文句を言っている。


「どうかしたの?」


この女にはまだ利用価値がある。

俺はすぐ人当たりが良い笑みを無表情な顔に張り付けると彼女に近寄って話しかけた。


「前に婚約破棄されて屋敷から姿を消した女の話をしたでしょう? 彼女が生きていたのよ。街の食堂に突然現れたそうなのよ」


「あぁ、前に言っていたお嬢様の事だね」


「それでね。あの方が言うには、すぐにでも彼女を連れ戻すらしいんだけど、屋敷に戻された彼女の世話を私が命じられて…。まぁ…、すぐに、もともと嫁ぐ予定だった相手が彼女を連れていくようだけど」


「もともとの嫁ぎ先?」


「あなたになら話してもいいわ。婚約破棄後に決まった嫁ぎ先で隣国の貴族の男よ。爵位は低いけど手広く貿易ルートを開拓していて派手に儲けているのよ。前からあの子の事がお気に入りだったみたいで、ずっと彼女に執着していたの。そして、たまたま近くに滞在していた今日、彼女が見つかった。だから今回、帰国の際、一緒に連れて帰るそうなのよね。でもね、私、その相手のよくない噂を聞いた事があって少し調べてみたのよ。そうしたら、一癖ある性癖の持ち主だったのよ。あの子にぴったりだわ。いい気味よ」

 

「どんな人物だったの?」


「えぇ。それがね、女性をいたぶって楽しむ趣向の男なのよ」


 俺は女の話に衝撃を受けた。

 そんな相手に嫁がせるなんて! 

 フローラを取り戻してすぐにまた、そんな最悪な場所に嫁がせるのかと怒りでいっぱいになった。


 連れ戻された瞬間すぐにその相手に連れて行かれるなんて。フローラを再び失うわけにはいかない。証拠が手に入るまでまだ少し時間がいる。どうすればいい?

 一刻も早くロレイン様に知らせなければならない。



 夜も深い時間になってやっとモーリガン家を抜け出す事ができた。

 俺は急いでロレイン様の元に向かう。外から見える彼女の執務室には明かりがついていなかった。フローラに会いに行っているのだろう。

 彼女が戻って来るまでどこかで身を隠していようと考えていたら見覚えのある男が近づいてくる。ノアだった。


「やっぱりいた。来ていると思った。久しぶりだな。無事で良かったよ」


「何でここにいるんだよ」


 久々に会うノアはいつも通りだった。無事でいてくれたことが嬉しかった。でも俺は、照れ隠しにわざと素気ない態度を取ってしまった。


「おいおい。何だよ。その態度は。俺はおまえの事が心配で毎日食事も喉を通らなかったのに…。ひどいなぁ」


「そのわりにやつれていないぞ?」


「あぁ。うそだよ。でも本気で心配していたのは本当だ。元気そうで安心したよ。俺は嬉しい」


 そういってわざとらしく泣くまねをしながら俺を抱きしめようとしてくる。そんなあいつを俺は呆れながらも全力で拒否するが不覚にも捕まってしまう。


「やめろよ…!」


「まぁそういうなって」


 そういうとノアは俺の髪をグシャグシャにしながらいたずらっぽく笑った。


「おまえが探していたお嬢様、やっと見つかったそうだな。ロレイン様はここ最近みないような嬉しそうな笑顔で出かけて行ったよ。そろそろ戻る時間のはずだが…。それはそうと、おまえに聞きたい事があったんだよ。オズワルドっていう名前の男を知っているか?」


「あぁ。知っているよ。いっそ忘れてしまいたいくらいどうでもいい男だけど」


「そいつを見たんだよ。王宮で」


「…はっ!? えっ!? だってあいつは一族を捨ててどこかに行ってしまったと聞いたけど…」


「王宮でマリアと話しているのを見たんだ」


「なんだって!? あいつ、まだマリアの事を…。どういう話をしていたんだ!」


「いや、マリアのことは完全に拒絶している様子だったな。不用意に近づいていけなくて会話は聞き取れなかった。でも、何か悪い予感がするんだ」


「そうか…ロレイン様には報告したんだよな。何かいっていたか?」


「あぁ。何か考え込んでいたよ」


「そうか…」


その晩遅くにようやくロレイン様が戻ってきた。


「ダリスね。待たせたわね」


「いえ、フローラは…彼女の様子はどうでしたか?元気そうにしていましたか!?」


「えぇ。とても元気そうだったわ」


「そうでしたか…それだけ聞けて安心しました…。良かった…。無事でいてくれて本当に良かった…」


 俺は知らないうちに泣いていたようだ。

 ロレイン様がそんな俺を少し困ったような優しい笑顔で見ていた。


 そんな時、不意にノックの音がした。


「来たわね。入って」


「ロレイン様、お呼びでしょうか」


 部屋に入ってきた人物はノアだった。


「えぇ遅くに悪いわね。少しお願いがあって来てもらったのよ。今晩から数日の間、マリアを監視してほしいのよ」


「はい、かしこまりました。しかし、なぜ突然…。何かあったのでしょうか?」


「えぇ…。ソフィアが…いなくなったのよ…。ロディも一緒に。あなたが前から報告してくれていたあの男。マリアと付き合っていたその男はドリュバード家騎士団の副団長だったのよ。その男がふたりと共に姿を消したのよ。行方が一向に掴めないの」


 俺は思ってもいない言葉に驚きを隠せなかった。それはノアも同様だった。

 事の経緯を詳しく聞くが想像以上に酷い内容だった。


「きっとマリアも関係していて二人は近いうちに必ず接触するわ。だからマリアの監視をお願いしたのよ」


「はい、もちろんです。あの男…! こんな形で暴走したのか! 今からすぐにマリアの監視を実行いたします」


 そういうとノアは急いで部屋を出ていった。

 ロレイン様は部屋を出て行くノアの背中を心配そうに見つめていた。

 そうして今度は俺に視線を向けると口を開く。


「それで…モーリガン家の動きはどうなの?」


「すでに彼女が王都にきているという情報を掴んでいます。フローラをすぐにでもモーリガン家に連れ戻す算段のようです。そしてすぐに隣国へ嫁がせようとしています」


「何てことなの!? まだ彼女を都合よく使うのね…」

 

 ロレイン様は怒りで震えていた。


 嫁ぎ先の男がどういう男かを説明すると彼女はさらに激怒していた。


「そんな事、絶対にさせないわ」


「もう少しであの家の裏帳簿と顧客リストが手に入れられます。ただ…。それまでフローラがあの家に連れて行かれるのを阻止しなければ…」


「フローラ達はしばらく安全な場所に移動させたわ。そこもこのままだと見つかる。フローラが連れ戻される前に何とかしないと…」



「あの…今どうしても確認したい事があります。オズワルドが王宮でマリアと会っているのを見たとノアから聞きました。なぜ、あいつは王都に戻ってきているのでしょうか」


「オズワルドね…。ノアからも、マリアとオズワルドが会っていたと聞いたわ。彼からはマリアの動向を逐一聞いているから。どうやら公爵家から呼び戻されたらしいわ。跡取りになったオズワルドの従兄が問題を起こしてね」


「そうでしたか…」


 それを聞いて俺は一つの考えが浮かんだ。今、確実にフローラを守れる唯一の方法を。

 俺はその方法をロレイン様に打ち明ける決意をした。



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