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 結婚後一度も笑いかけられず会話らしい会話もない。それでも跡取りはもうけないといけない。

妻である以上嫌でもアレンとの行為は拒めない。

 夜は月に二回義務的な行為を行い、終わると無言で出ていくというアランの態度は変わらなかった。



 記憶が戻る前の、アランに強く恋い焦がれている状態のままだったならこれまでの散々な仕打ちに心が壊れていたかもしれない。

 プラス25歳経験値がある分多少打たれ強くなっていたせいか何とかやってこれたように思う。

 でも時々、突然ボロボロと泣きだしてしまうのは私の意識ではない。純粋な想いのままのソフィアの意識がそうさせているように思う。


 そうして結婚してから三か月後めでたく懐妊したのだった。


 新しい命が宿った事に私はなんとも言えない大きな喜びを感じ素直に喜んだ。

 無事に出産出来れば、もうあの痛くて悲しい行為はしなくて済むのだと思うと私はひどく安堵した。

 婚姻契約書には産まれた子供の性別を問う箇所は書かれていなかったので順調にいけばこれで打ち止めだ。


 もうアランと良好な関係を築いていく事は諦めよう。これからは我が子の成長を楽しみに生きよう。

 子供が成長して私を必要としなくなったらこの家を出て、街で静かに生きていこう。そんな生活の中で茶飲み仲間のような気を許せるパートナーを見つけて共に生き、人生を静かに終われるようなそんな人生なら私はとても幸せだ。

 こうして私はこれからの人生設計をひっそり掲げたのだった。


 安定期に入り治療師という光魔法の使い手で前世の世界でいうところのお医者さんにみてもらうとお腹の子供は双子という事が判明した。


 双子という事実に私はかなり焦る。

 この世界は重度でもケガは魔法で治る。

 病気でも臓器を交換しないと完治しない重度な病は治せないが軽度のものは魔法で治せた。

 治療師がいるので医療技術は魔法だよりになっている。西洋医学のような患部にメスを入れて治療する方法は存在しないので麻酔技術や輸血技術もない。


 そこで妊娠出産だ。病気でもケガでもない妊娠出産は魔法で治療できないのだ。 

 治療は全て魔法だよりになっているため出産だけ医療技術が低いが産婆さんのような出産の介助をしてくれる人は存在する。

 しかしやはり出産死亡率が高いのがこの世界の現状だ。


 もっと悪い事に、例えばスプーンより重いものを持った事がないという令嬢がたくさんいる。

 主に身の回りの事はメイドが行いあまり自分の事は自分でしないのである。

 そして長く歩いたり走ったりしない。要するに体を動かす事など皆無な生活なのである。


 さらに妊娠するとお腹の子供を最も大切にするのが当たり前なので、妊婦にお腹の子供のため栄養をつけさせようと何でもたくさん食べさせる。確かに普通の状態よりカロリーは必要で栄養は大事だが塩分糖分の取りすぎは危険だ。

 更に万が一転んで流産しないようにベッドの上の生活を余儀なくされ部屋から出してもらえないのだ。その結果難産を引き起こす確率が高くなる。


 私の妊娠は、通常でも高い死亡率がもう一人お腹にいることでさらに2倍になるのだ。

 死亡しなくてもこのままでは難産になってしまう。

 今世こそは子供の成長を見たい。死んでたまるかと心に誓うのであった。


 無事に安定期を過ぎると無理をしない程度の適度な運動ではそうそう流産しない事を前世の知識と経験で知っていた。

 翌日からなんとか回りの目を誤魔化しながらウロウロ屋敷を歩いたり庭に出て散歩をしたり体を動かした。


「おい!なにをしている!」

 いつものように庭の散歩をしていると私の後ろから怒鳴り声が聞こえた。


「ごきげんよう アラン。天気がいいので庭の散歩をしているところよ」


 平然を保つようにそう答えた。


「お前は今自分の腹に子供がいるのを忘れているのか!それとも私の子供など産みたくないのか!お前には母親になる自覚はないのか。とにかく部屋から出てくるな!」


 乱暴に腕を掴まれ引っ張られる。その痛さで顔を顰めるとアランは不快そうに私の顔を見てベルカを呼びつけると私を引き渡して立ち去っていった。


「お嬢様、大丈夫ですよ」


 そういうとベルカは私をやさしく抱きしめてくれた。

 

 このままでは本気で軟禁されてしまう。出産は苦痛を伴う大仕事のうえ双子の出産だ。


 難産になれば子供も苦しいし私も苦しい。

 部屋に帰された私は悩んだ末、意を決してベルカに相談することにした。

 緊張しながらゆっくりと口を開く。


「ベルカ、今からいう事は信じてもらえないかもしれないけど聞いてほしい」


 医療技術が高い世界の前世の記憶がある事、その事で妊婦において適度な運動とバランスの良い食事がいかに大事かを知っていてこのままでは自分が危険な事。乙女ゲーム云々は今はあまり関係がないので省く事にした。

 必死に分かってもらおうと話しているとベルカがやさしく笑った


「大丈夫ですよ、お嬢様が嘘を言っていない事くらい長い付き合いの私は分かります。だいたいお嬢様は分かりやすいのですよ。嘘をついていたらすぐにわかりますから。そのお話信じます。お嬢様とお腹の御子の命を守るため全力で協力します。私に任せてください」


 そう心強い言葉をもらうと泣いてしまった。この世界は生きにくい。

 でもこうして信頼して支えてくれる人がいるのはとても心強かった

 その日から適度に部屋中を歩き回ったりアランが居ない時を見計らって庭を散歩したり気分転換をした。 

 優秀なベルカは持ち前のコミニュケーション能力を発揮し他の使用人ともうまく連携をとりながらアランと鉢合わせしないように完璧に動いてくれた。


 食事も部屋に運んでもらう事にしたのでアランに私が何を食べているのか知られる心配はない。


 こうして私は完璧にアランを避ける事に成功したのだった。


 塩分や糖分は低めだが、さすが侯爵家の料理人である。どれも旨味があってとても美味しい。

 更によく洗った食材に加熱調理をしてもらい生の食べ物は避けてもらった。

 切った中身にも色がついている野菜を適度な量で積極的に食べた。この世界でよく飲まれている紅茶も一切止めてもらった。


 つわりがひどい時もベルカに何のにおいが嫌か説明をすると配慮してくれた。とてもありがたい事だった。

 たまにロディさんがやってきてはあの大好きな美声で歌を聞かせてくれたり、たわいもない会話で穏やかな気持ちにさせてくれた。

アランと全く会わずに済んでいる生活はストレスを受ける事なく快適そのものだった。




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