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 フローラとオズワルドを乗せた馬車はあっという間に見えなくなった。

ルルドは泣きじゃくる二人の子供達を抱き寄せる事しか出来なかった。


子供達を抱きしめながらあの時聞いた、オズワルドの忠告を思い返していた。あの言葉の意味を理解するならば、これから自分が何をしなければいけないのか今すぐ決断しなければならなかった。しかしそれ以前にあの男の言葉を信用していいものだろうか。慎重に見極めたいが時間がない。しかも、憎いあの男に最愛の妻を奪われたショックとこれから起こりえる事態を想像すると不安でたまらなかった。そんな今の自分に冷静な判断が出来るようには到底思えなかった。


「ルルドさん、あの時奴に何を言われたんだい?」


 ルルドはソフィアの父にそう聞かれて、オズワルドの忠告の内容を話すべきが迷った。今の自分の力と判断能力でどうにかできるか不安だらけだった。しかし、もうこれ以上この家に迷惑はかけられない。ルルドは決断した。


「はい…。それが言葉の意味を理解できませんでした…。よく分からないのです」


 ルルドは嘘をついた。きっと本当の事を言えば、優しいアルバンディス侯爵を更に巻き込んでしまうだろうと思った。なんとしてでもここから最善の策を見つけてこの危機を乗り越えようと自分に言い聞かせる。


「そうか…。奴はなにを言いたかったんだろうな」


「それより今、ロレイン様にフローラ嬢が奪われた事で早馬を飛ばしている。彼女からの連絡を待とう」


「はい…」


 消え入るようなルルドの返事に覇気は感じられなかった。


「大丈夫だ。気をしっかり持ちなさい。フローラ嬢はきっと無事にあなたの元に帰ってくるさ。ロレイン様から連絡があるまで部屋で子供達と休んでいなさい」


 ルルドは子供達の手を引き、部屋に向かって歩きながらこれから自分がやるべき事を必死に考えていた。

 こうしている間にも事態は恐れている方向に動くのではないか、そんなジリジリと焦る気持ちに襲われる。


 部屋に着くとこれからやるべき事に向けてすぐに動く事を決めた。

 机に置いてあった紙とペンでソフィアの父と母にお礼と黙って出て行く事への謝罪の手紙を書いた。それからすぐに荷物をまとめて馬房にいるココとララの元に向かった。二頭に子供達を乗せようとした時、ちょうど馬を見に来たユリウスに見つかってしまった。後ろにはアルヴィスとエルトシャンもいた。その後に付いてきたロイドとカインにもあっさりと発見されてしまう。


「ルルドさん、一体何をしているだ!どこへ行こうとしているんだ!」

 

 ロイドに問い詰められ、ルルドはどう返答しようかと考えあぐねていた。

 すぐにソフィアの父がその場に駆け付けると執拗に問い詰められたルルドは白状せざるを得なかった。


「さぁ、どうして出て行こうとしたのか聞いてもいいだろうか」


「…はい…。あの男に言われたんです。先ほどは嘘をつきました。申し訳ありません」


「一体あの男になんと言われたんだ!?」


 ソフィアの父は急き立てるようにルルドに尋ねる。


「次はモーリガン家がすぐに子供達を奪いに来る、だからしっかり守れとあの男に言われたんです」


「なんだって!? 何故今までその事を黙っていたんだ!」


「これ以上こちらにご迷惑をかけるわけにはいきません! ここからできるだけ離れた場所で身を隠そうと思っていました」


「君は何をいっているんだ。この一大事にそんな事を気にしていてはだめだ。この子達の安全を一番に考えないと、しっかり守らないといけないんだろう! あんな家に連れて行かれたら碌なことにならないのは分かり切っているんだから。第一、行く当てはあったのか!? それにあの男が言っていたのは一理ある話だ。信憑性は非常に高い話だと思う」


「申し訳ありません…。無力な自分が情けない…」


 ルルドは悲痛に顔を歪ませながら項垂れてしまった。ソフィアの父に叱咤されて、いかに自分が無謀な事をしようとしていたのか思い知ったのだ。


「ロレイン様に飛ばした早馬が戻ってきたんだ。大至急、事の確認をする、連絡を待つようにとの事だ。だが早く子供達を他の場所に移さなければ危険だ!急場凌ぎではあるが私に当てがある。すぐに用意をするから少し待っていてくれ」


「何から何までありがとうございます」


「いいんだよ。今はこの窮地を乗り越える事だけを考えよう」


 ほどなくして業者用の質素な荷馬車がやってきた。


「さぁ、これに乗り込んで!フローラ嬢の事はロレイン様にまかせなさい。君はこの子達を全力で守る事だけ考えるんだ。さぁ行きなさい!」


「私も一緒に行こう。御者は任せてくれ。ロレイン様からエルトシャン様の護衛を命じられているが緊急事態の時はあなた達の警護に着くように言われているんだ」


 ソフィアの父の後ろからカインが現れて護衛を申し出た。


「でも、王子様は誰が守るの?」


 アンリが心配そうにカインに尋ねる。


「信頼できる私の部下を数人つけているから大丈夫だよ」


「そうなんだ、じゃあ、大丈夫なんだね。カインさんが来てくれると僕は嬉しい」


 アンリがニコリと笑う


「そうか。全力で守るよ」


「カインさん、ありがとうございます!感謝します」


 ルルドはカインに礼を言う。


 アルバンディス家を出てしばらく順調な旅だった。しかし、ほどなくして道の真ん中を陣取っている数人の騎馬兵の姿が遠くに見えた。


「まずい。あの紋章はモーリガン家の者だ。こんなに早く動くなんて…!俺が注意を引き付けておくからその間に道のわきの茂みから逃げるんだ! その先の道で合流しよう。早く行ってくれ!」


 カインがルルド達にそう叫ぶとルルド達は荷馬車から降りる。生い茂る草をかき分けて茂みに入っていった。

 懸命に草を払いのけ前に進むことだけを考えた。遠くから兵士達の声が聞こえる。


「おい!止まれ! 中を確認させろ!」


カインは言われる通り荷馬車を止める。兵士たちは荷馬車を瞬時に取り囲み荷台の幕を乱暴に開け目的の人物達が居ないか、くまなく探し始めた。


「おい!どこに隠した!?」


「さぁ。何の事だかさっぱり分からない。何を探しているんだ?そもそも、その荷台には最初から何もない」


 カインが兵士とやり取りしている声はもう随分遠くに聞こえる。


 ルルドはアリスを背負いながら暫く茂みをかき分けて歩き続ける。アンリは小さい体で必死に歩いて彼の後を付いてくる。どれくらい時間がたっただろうか。もう追手は来ないだろうと安心したときだった。 後ろから複数の馬の足音が聞こえた。


「おい。そこの男。止まれ」


 そう後ろから声をかけられてると、瞬く間に兵士達に取り囲まれた。


「この子供達で間違いないな。おい、そこの銀髪の男、私達と来い。子供達は丁重に保護をしろ。その男共々屋敷に向かうぞ」


リーダーの男が部下の兵士達に指示を出す。兵士の一人がルルドを乱暴に後ろ手で縛り上げる。


「これでは犯罪者扱いじゃないか! 私に一体なんの罪があるというんだ!」


「いいから来い!」


 そういうと兵士達はルルドを子供達から乱暴に引き離すと彼の両脇をがっしりと掴み強引に連れて行く。


「父さん!」


 背後でアリスの泣きじゃくる声とアンリの叫び声が聞こえる。


「おい!あの子達をどうする気だ!私はあの子達の父親だ!」


「おい、誰かこの男を黙らせろ」


 リーダーの兵士が他の兵士に命じる。ルルドは突然後ろから強く殴られるとそのまま意識を失ってしまった。


 体を固い何かに打ち付けた酷い衝撃で目が覚めると暗い石畳の上に倒れていた。よく見ると鉄格子の中にいる。後ろ手で縛られたままの状態だったが何とか起き上がり子供達の姿を探すが自分以外に姿は見えない。真っ暗で見えないがこの空間のどこかに二人がいるのかもしれないと必死に二人の名前を呼び続ける。


「アリス! アンリ!」


 暫く二人の名前を必死に叫ぶが全く反応がない。


「くそっ…!」


 真っ暗なこの空間に少しずつ目が慣れていく。

 今まで気が付かなかったがどこからか荒い息使いが聞こえてくる。


「誰かいるのか!?」


 よく目を凝らしてみると向かいの独房の中に横たわっている人物が見える。

 その様子から早急の治療が必要だと瞬時に判断できた。


「大丈夫か!返事をしろ!どうにかしてここから出れないのか! 早く治療しなければ!」


 ルルドは鉄格子の扉がどうにか開かないかと何度か体当たりするが無駄だった。それでも必死に向かいの人物に必死に呼びかける。


「おい!しっかりしろ!」


 よく見るとその人物に見覚えがあった。

 あの日失踪したロディの姿がそこにあったのだ。


「あなたはもしかして…。ロディさんか!? 一体何があったんだ!? おい! しっかりしろ!誰か!誰かいないか!僕は治療師だ!早く彼の治療をさせてくれ!」


 暗い空間にルルドの悲痛な声だけがこだましていた。


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[気になる点] なんか外国語の小説をグーグル翻訳に突っ込んだみたいな…… のがところどころだったのが70部位から全てに……
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