表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/94

30


「カインさんの気持ちはよく分かりました。だからどうか落ち着いてください」


 ルルドは二人の間に流れているひどく険悪な雰囲気を素早く感じ取り咄嗟に仲裁に入った。


「もしもフローラがソフィア様と同じ立場にいたら私もカインさんと同じように相手を責めると思います。現にフローラの元婚約者には激しい怒りを覚えています。あの時あの場に偶然私が居合わせていなかったら彼女は間違いなく命を落としていたのだから。フローラを命の危機に晒した元々の原因を作った責任からは決して逃れる事はできない。

 それにカインさん、マリアがいる以上ソフィアさんはまだ危険な立場にいる。彼女に起きるかもしれない最悪な結末を断つ事を一番に考えましょう。ここでアラン様を責めて争っていても何も解決しません」


 カインはルルドの冷静な意見にはっとした様子で落ち着きを取り戻した。


「少々取り乱しました…。申し訳ありません。ルルドさんの言う通りですね…。フローラ様、話を続けてください」


 フローラはカインにそう言われて改めて話を進める事にした。


「ここからはまだ誰にも話をしていない部分です。ロレイン達もよく聞いてほしいの」


「この物語は通常の本のように普通に読み進める訳ではなくヒロインが行動と会話をいくつかの選択肢から選ぶ事によって誰と結ばれるのか未来が変わっていきます。誰と結ばれてもハッピーエンドで終わる物語ですが、私は一つだけハッピーエンド後の物語に進む事の出来る特別な隠しルートを創りました。

 私はそのルートに進むために必要な4つの条件を付けました。一つ目、攻略対象者全員の好感度が最高の状態である事。2つ目、指定されたアイテムを手に入れる事。3つ目、聖女になる事。最後の4つ目はアルフォンス殿下を選んで結ばれる事でした。

 マリアはその隠された唯一未来へ続くルートを強く望んでいた。そのためにそのルートに進むための一つ目の条件、攻略対象者の好感度を最高にするという目的を達成する為にマリアはあなた達5人の好感度を最高に上げる必要がありました。

 ちなみに、もうお分かりだと思いますが今の状態はマリアが先ほどの条件を全て満たして物語が終わった後のルートに入っています」


 アランとロイドはフローラの最後の方の説明にそれぞれ苦々しい表情をした。


「私が描いた物語では私が創ったキャラクター達には脇役を含め全員にそれぞれ幸せな未来を用意していました。しかし本来私が描いた物語と正式に世に出てしまった物語には何故かとても重要な違いがありました。

 それはロレインやソフィア、私の脇役令嬢3人にそれぞれ最悪な未来が用意されていたという事でした。

 私は前世の記憶が戻ってすぐに、ロレインとソフィアの未来を救うべく行動を起こしました。

 その結果本来の物語でアラン様をはじめ攻略対象者達が取る行動に大きく影響を与えて物語の内容を変えました。そのためアラン様や殿下、オズワルドの3人の好感度を上げる事がまったく上手くいかない彼女はとても焦っていました。ある日、魅了という怪しげな力を偶然手に入れてから彼女は次々とあなた達の好感度を上げていく事に成功しました。

 しかし、本来私が描いた物語のヒロインは魅了という怪しげな力は持っていませんでした。何故マリアがそんな力を持っていたのか…その力を与えた異質な存在が別にいたからです。その存在こそ今私が危惧している最大の問題なのです」


 フローラは続けた。


「その問題に触れる前にアラン様がソフィアに辛く当たった原因について説明します。その魅了の力は人の短所をその人物が大切に思っている人物に悪意としてぶつけるという副作用もありました。アラン様の場合ソフィア様がその対象になってしまい数々の愚行を行ってしまったと推測できます」


「そんな…。俺はそんな力で操られていたという事か?…」


「その短所というのはおそらく私の責任でもあるわ。私は生まれる前から既に未来の王妃としての地位が確立されていた。そのせいで物心が付く頃からすでに様々な令嬢からの妬みや嫉妬を受け続けていたわ。そんな様子を幼い頃から近くで見ていたアランは彼女達が私に向ける妬み嫉みの感情を敏感に感じていたの。

 そんな女性達の醜い部分を散々見続けてきたせいでいつしか女性に対して嫌悪感を抱くようになっていった。だから魅了でマリアを愛してしまった時、ソフィアがかつて私に醜い感情を向けていた令嬢達と被って見えた…。その結果アランは彼女に過度に辛く当たってしまったのよ…」


 ロレインは今にも泣きそうな顔をしていた。


「ロレインの責任ではないわ…私がロレインを生まれる前から未来の王妃という設定にしたせいよ。そのせいで妬みという人の負の感情を作ってしまった私の責任だわ…。そして未来の王妃として決められた運命を歩む事になったロレインを余計に苦しめたし女性不信にしてしまったアラン様にも申し訳なく思っています。そのせいでソフィアに消えない心の傷を負わせてしまったのは結果的にすべて私の責任だわ…」


 そういうと今度はフローラが曇った表情で顔を伏せてしまった。


「違います。フローラ様、ロレイン様。様々な要因があった事には変わりない…。それでも彼女を傷つける行動や言葉を選んでぶつけたのは他でもないアラン様自身です」


 カインは再び厳しい目線でアランを見た。


 ロイドはその場の重い空気とカインとアランに再燃しようとしている火種を消そうと先ほどから疑問に思っていた問いを口にした。


「でもどうしてマリアは姉さんにそんなにひどく執着しているんだろう…?」


「それがよく分からないの…。あのマリアの中身は私が創ったヒロインではない。マリアが学園に入ってきた時からソフィアを見る目にはいつも憎しみが込められていたわ」


 フローラがロイドの問いに反応するように返答する。


「きっとその理由はマリアにしか分からないわね…」

 

 ロレインがそれ以上答えを求める事が無意味だというようにそう言った。


「ロレイン様。精霊の加護を盾に好き放題しているマリアをこのまま見過ごすわけにいかないと思います。フローラを拘束して無理やり記憶を消す薬を飲ませた事やソフィア様の襲撃未遂はとても見過ごせない重大な罪だ。他にも被害者がいるかもしれない。取り返しがつかない事件が起こる前にどうにかしてマリアを捕らえる事はできないのでしょうか」


 ルルドは怒りを露わにしながらロレインに訴えた。


「今までは決定的な証拠も無かったの…。でも今は薬を盛られた事実をフローラが証言できるわね…。後はソフィア襲撃の件で例の副団長の口が割れれば証言が取れる。でもマリアは王太子妃であり精霊の加護がついた聖女でもある。彼女を虐げると精霊の怒りを買って光魔法が使えなくなるという事実は国中に知られているのよ。その彼女を捕らえるとどうなる?光魔法が使えなくなると宣言しているようなものだわ。国中でパニックが起こるわ…精霊達がいなくなった今マリアに対する事での精霊達の脅威はなくなったけどそれはきっと変わらない。強い魔力持ちでない限り精霊の存在は確認できないのだし…」


「ちょっと待ってよ! 精霊達がいなくなった?どういう事?」


 ロイドが半ば取り乱しながら説明を求めた。


「その通りなんだ。少し前から精霊達が完全に姿を消した」


 ルルドが平然とそう答えた。


「え!? どういう事なの? ルルドさん! だってあなたはさっき光魔法を使っていたじゃないか!精霊達がいないのにどうして治療が出来たの!?」


 ロイドはとても信じられないというようにルルドに詰め寄ってさらに説明を求めた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ