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「何故アラン様は盲信的にマリアに惹かれてしまったのか…それはマリアに魅了の力を使われたからです」


「魅了の力だって?」


「はい、そうです。しかしその話をする前に少し長い話をしなくてはいけません。

まず信じられないとは思いますが話の前提として聞いてください。私がこの世界を創りました」


アランは呆気にとられたようにフローラを見る。


「…君は記憶を無くしていたせいでどうにかなってしまったのか?」


「まぁ…その反応は普通ですよね…。私でもそんな事を言い出した相手の正気を疑いますので…」


フローラは苦笑しながらそう答えた。


「決して頭のおかしな事を言っているわけではありません。先ほどロレイン達にも説明した内容をもう一度話します。私は今いるこの世界とはまったく別の世界で生まれた記憶を幼い頃からもっていました。その別の世界の私はこの世界でいうところの恋愛物語を書いていました。

私が書いていたその物語の主人公はマリア。ルルドやロイド、殿下にアラン様。私の元婚約者のオズワルドの5人の容姿端麗な男性達とマリアの恋の物語です。最終的には主人公のマリアは誰か一人と結ばれて幸せになります。その物語に触れた全ての人が主人公マリアのように誰からも愛されて幸せになる疑似体験が出来るように私がその物語を書きました。

ソフィアやロレイン、フローラこと私はその物語を盛り上げる脇役や悪役として登場します。

そしてその物語は私の生きていた世界で販売され多くの人の目に触れる機会を得ました」


「ちょっと待ってくれ。さっきから話が唐突すぎる。理解が追い付かない。要するにこの世界は君の書いた物語の世界で私達や君までもが君が書いた物語の登場人物だという事なのか?」


アランは混乱しているものの端的に話の内容を理解した様子だった。


「そうですね。簡単にいうとアラン様の言った通りです」


「とても信じがたい話だがここまでは取り敢えず理解した」


「そして、マリアも私と同じ世界で生きていた記憶を持っていて、私の書いたその物語を読んでいたと思われます。それに、さきほど私も知ったのですが驚く事にソフィアも私と同じ世界で生きていた記憶を持っていました」


「なんだって!? マリアも? ソフィアもそうなのか!?」


「そしてここにいるカインはソフィアが前の世界で生きていた時の夫だそうよ」


ロレインが何食わぬ顔で説明を加える。


「なんだと!? カインと言ったな…。詳しく説明しろ…!」


アランは苛立ちながらカインに説明を求めるとカインはアランを睨みつけながら話を始めた。


「そのとおりです。私とソフィア様はここではない別の世界で夫婦という関係でした。その世界で生きていた時の彼女はコハルという名前で私は彼女をハルと呼んでいました。私もこのゲームの…いや…この物語を知っていました。ハルの妹がこの物語にとても熱心だったからです。彼女の実家に顔を出すたびにハルとハルの妹が熱心にこの物語の話をしているのを耳にしていまして。その内容を彼女の横でいつもぼんやりとしか聞いていなかった私の理解は大まかな内容と少しの登場人物が分かる程度です。

その物語にあまり関心がなかったハルですが妹想いの彼女はそんな妹が楽しそうにその物語の話をするのでいつも丁寧にその話を聞いていた事を記憶しています。

私達が生きていた世界の記憶が戻ったのは王太子殿下とマリアの挙式の最中だと先ほど彼女から聞きました」


「だからあの時からソフィアが少し変わったように見えたのね…。なんというか芯がしっかりして強くなったように感じたわ…そのおかげでアランに強く当たられても今まで耐える事ができたのかもしれない…。以前の彼女のままだったらきっと嫁いだ直後から精神を病んでいた可能性があるし出産前のあの一件ではきっと命を落としていたわ」


 ロレインは腑に落ちたようにそう呟くと今度はフローラが口を開く。


「きっと前世の記憶が戻った時それまで生きていたソフィア様の意識とコハルさんとして生きていた記憶がうまく融合したのよ…私は幼い頃それを体験したわ。カインさんは?」


「私も同じですね。小さい頃記憶が戻りました。そのせいで幼少期は子供らしくないとよく周りの大人達に言われていました。しかしまさかこの世界があの物語の世界だなんて思いもしていませんでした。ロレイン様に会うまでは…」


 カインが続けて話をする。


「そしてあの日、子供達を連れてロレイン様に会いにきたソフィア様に初めて会いました。彼女の仕草や動作に些細な癖を見つけてどこか懐かしさを感じた私は注意深く彼女を観察しているとすぐにハルだと分かりました。最初は嬉しくて懐かしくて声を掛けたい衝動にかられましたが、彼女がこの世界としっかり向き合って懸命にソフィアとして生きている姿を見てこのままずっと黙って見守っていようと思い直しました。もし前の世界で短い人生を終えた彼女がこの世界を否定したまま前世に未練を感じて生きていたのなら名乗りでようと思っていました」


「コハルさんは何歳で亡くなったのですか?」


 ルルドが質問する。


「彼女が25歳の時です。不幸な事故に巻き込まれて亡くなりました。それに私達の間には幼い子供が一人いたので余計に心残りだっただろうと私はずっと気に病んでいました」


「そんなに若くして…今の私達と近い年齢ですね…。ましてや幼い子を残して亡くなっていたのですね…」


 ルルドが悲しげに当惑した様子でそう言った。


「コハルとして生きていた私の妻はもうどこにもいません。私達がそれまで共に歩んできた道のりは彼女の死によって永久に閉ざされました。

 しかし彼女があなたの話をする時や近衛としてマリアと一緒にいる貴方の姿を見つける度に一瞬だけ悲しい顔をする事がずっと気にかかっていました。

 そこであの事件が起きて私の考えが変わった。この世界を受け入れて懸命に生きている彼女がまた再び若くしてその生涯を終える事はどうしても避けたかった。はっきりした形で彼女を安心させて守りたかった。だから先ほど私の正体を彼女に明かしました。とてもあなたにこのまま黙って彼女を託す事はできない。あなたが不甲斐ない姿ばかり見せるからいけないんだ!」


 カインが再びアランに厳しい視線を向けると激しい怒りを露わにした口調で強くアランに言葉をぶつけた。


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