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ある少年の話


 いつもと同じように俺は木によじ登りフローラの部屋の窓に小石をぶつける。

 もう幾度となく繰り返した行為だ。

 いつものように彼女が窓を開けてくれるのを待った。でもその日その窓を開けてくれたのは何故かシェリーだった。


「どうしてシェリーがこんな時間にここにいるんだ?」


「あぁダリス…。どうしましょう…。お嬢様がいないの…。何かあったのかしら…」


 オロオロと落ち着かない様子だ。今にも泣きそうな顔でシェリーがいう。


「居ないって…。どういう事だよ!」


 その言葉に思いきり頭を殴られたような衝撃を覚える。

 俺はここ数日のいつもと違う雰囲気のフローラを思い出して何かとてつもなく嫌な予感を感じたが、それでも不安な気持ちを打ち消すように明日には何事もなく戻ってくるさと自分に必死に言い聞かせた。


 毎晩あの部屋の窓に小石をぶつける。今日はきっと窓を開けてくれる。毎晩そうやって期待をした。どれくらいその行為を繰り返しただろう。そんな俺を見かねたシェリーが必死に止めて俺はやっと彼女がいなくなった現実を突きつけられた。

 最後に会ったあの晩、少し寂しそうに笑っていたフローラを思い出す。

 そういえば、いつか自分の行方を探りにオズワルドが俺を訪ねてくると言いながらあの手紙を俺に託してきた。

 あの時はオズワルドに対するイラ立ちで頭がいっぱいで気が付かなかったが、まるでここから居なくなる前提で話をしていた事に今頃になって気が付く。

 自分の身に何か起こる事を知っていたんだ。あの手紙を俺に託しながら彼女は何を思っていたのだろう。


 最後に寂しそうに笑っていた意味やあの時のフローラの言葉に俺はしっかり気が付くべきだった。

 そうしたら何か変わっていたのかもしれない。後悔で押しつぶされそうになる。

 お願いだ。これが夢なら早く覚めてくれ。フローラの笑った顔がまた見たいんだ。守るって約束したのに…。俺は何も出来なかった。

 自分が惨めで情けなくなって地面に拳を叩き込み続けた。気がつけば俺の手は赤く染まっていた。

 

 この日からずっと俺の心の奥底には鉛のように重く沈む忘れられない感情が残った。


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