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フローラの話8


 私は彼が指をさした方向にあるその中庭に向かった。

 そこで慎重に辺りを探してみるが誰もいない。

 そうしているうちに中庭の隅がなんだか妙に気になって自然と足がそこに向かっていた。

 吸い寄せられるように歩いていくと突然足元からズルっと滑って窪んだ空間に落ちてしまった。


 滑り落ちた先で落ちてきた方向を見上げると大人ならすぐに這い上がれるくらいの深さだった。しかし子供の姿の私はこの空間から上がることができなかった。

 しばらくどうしたものかと考えていた。改めて落ちたこの空間を見ると結構な広さがあって一面草と木々に覆われている。しかしよく見ると子供の目線でなければおそらく分からないような小さな通り道が出来ている事に気がついて私はすぐにその道を行く事にした。

 

 たどり着いた先には古い小さな木製の扉があった。私は思い切ってそのドアを開けてみると鍵はかかっておらず意外とすんなり扉を開く事が出来た。

 中はどうなっているのか気になって入ってみると6畳ほどの広さの空間で石畳の床の上に厚手の敷物が敷かれていてさらにその上には積み上げられている本の山がいくつもあった。

 一番上の本を一冊手に取りパラパラめくって読んでみた。それは冒険小説だった。

 読み進めるうちに意外に面白くて読みふけってしまったがそのうち疲れていたのかだんだん眠気に襲われていく。どれくらい時間がたったのかよく分からない。はっきりしない意識のなか誰かの声が聞こえた。

 

「ねぇ…!大丈夫!おーい。起きろ~!」


 私の体を誰かがしつこくゆすっている。


「…。誰?もう少し寝かせてよ…」


 私が再び眠りに落ちようとすると再び揺さぶり起こされる。


「寝るなって!もう!君だれ?どうしてここにいるの?ソフィアも起こすのを手伝ってよ!」


「…。ソフィア…?」


 私はその名前を聞いて飛び起きた。


「あぁやっと起きたのか」


 飛び起きた私の目の前にはお人形のように整った顔で濃紺の髪をした女の子がいた。その隣にはこれまたとても可愛らしい顔で心配そうに私を見つめているアッシュグレーの髪にヘーゼルの瞳の幼女がいた。


「あなた達は…。私はフローラ・モーリガンというわ。お茶会に来たんだけど気分が悪くなってしまってどこか休める場所を探していたら迷ってしまったのよ。そうしたらそこの窪みに落ちてしまったの」


 あなた達に会いたくて探していたなどと、とても言えなくてとっさに言い訳をしていた。


「あそこから落ちたの?僕はロレイン・ドリュバード。見た感じケガはしていないようだけど痛い所はない?」


 ロレインは心配そうに私を見る。その隣でソフィアも心配そうにしていた。

 

「大丈夫。痛い所はないよ」

 

 私は心配そうにしているロレイン達を安心させるためにその場で腕を振ったり足踏みをしたり体を素速く動かしてみせた。

 

「ケガがなくて良かったわ。私はソフィア・アルバンディスよ。よろしくね」

 

 そう言ってニコっと笑っている彼女達はどう見ても可愛らしい天使そのものだった。


 ゲーム上ではキャラクター達の幼少時代は登場しないので生い立ちや背景は文書として作成したがデザイン画は作成しなかった。こうして幼い彼女達が今目の前にいて動いていて話をしている。私はどんな有名人に会ったときよりもおそらく今一番感動していた。なんて可愛いらしい姿なの!?もう今にも泣きそうだった。

「あぁ…。目の前に天使が二人もいるわ…」


 しばらくデレっとした、だらしのない顔で彼女達を眺めてしまった。


「ねぇ…。君大丈夫?やっぱり落ちたとき頭でも打ったの?」


 ロレインが心配そうに私を見ながら言う。


「だっ、大丈夫よ!」


 ロレインの言葉でハッとして平常心を取り戻すと元気に返事をした。


「ねぇこの部屋はなんなの?」


 私はロレインに尋ねる。


「ここ、僕の秘密の部屋なの。毎日毎日大人のいう事を聞いて嫌になったらここにきて本に没頭するんだよ。そうしたらまた頑張ろうって気になってどうにか毎日やり過ごしているよ」


 そうだ。ロレインは冒険小説が大好きだった。そのため、本に登場する様々な世界に興味をもっていた。 しかし外の世界に出る事は決して許されなかったのだ。大人になってもそのままずっと彼女はこの国から出る事は叶わない。いつか彼女が外の世界を目にする事ができたらどんなに喜ぶことだろう。

 

 私はそこでしばらく彼女達と話をした。ロレインは相変わらす男児のようなしゃべり方だがさっぱりして真っすぐな性格だった。

 ソフィアは物静かで大人しい性格だった。あまり自分から話をするタイプではないが心優しい穏やかな性格のようで穏やかな笑顔で私達の話を聞いていた。

 

 私は何としてでも彼女達をあの残酷な結末のバッドエンドから回避させたいと再び強く思っていた。

 それぞれ想う相手とは結ばれないかもしれないが彼女達自身の幸せをつかんでほしかった。


 ロレインと別れた後ソフィアと一緒に会場に戻るとソフィアの母親が彼女を探していた。どこに行っていたのか問われると、二人で王宮内で迷い彷徨っていると偶然ロレインと出会い助けられたと話した。 ソフィアの母親はしばらく何やら考えているようだった。

 ソフィアとロレインの母親は学生時代親友同士だった。しかしささいな事がきっかけでお互い思い違いをしてしまい不仲になっているのを私は知っていた。

 ソフィアの母親は後日ロレインの母に出紙を出しロレインにお礼を伝えてほしい旨を手紙に書いて届けるとこの機会をきっかけに、長年の二人の思い違いは解消され母親同士の交流がまた始まったようだった。それからほどなくしてソフィアはゲーム上の設定よりかなり早くアランと出会う事になる。


 ヒロインには申し訳ないがアランやアルフォンス以外で攻略を頑張ってほしいなぁなんてのんきな事をこの時はまだ考えていたのだった。


 帰りの馬車の中であの継母の機嫌はすこぶる良かった。


「お前、やればできるじゃない。この調子で次もしっかりやるのよ」


 私は継母にそういわれて結局この女の言う通りに動いてしまった事に舌打ちをしたい気分になった。

 帰って部屋に帰されると改めて自分の部屋を見回してみる。

 北側にあるせいか昼間は陽が入らなく薄暗かった。日が暮れた今は一層寒々しい印象を与える。

 質素なベッドと小さなイスとテーブルが一組あるだけでそれ以外は特に何もない。


 メイドにドレスを脱がされる前に素早くあの石をベッドの中に隠すと案の定すぐにメイドがドレスを脱がせにこの部屋にやってきた。ドレスを回収するとメイドはそのまま無言で部屋を出ていく。下着姿のままにされた私は置いてあった麻の粗末なワンピースに着替えた。


  私はさっき隠した真っ白い石を手に取りそれを眺めた。さてこれをどうしたものか…。あの少年の名前はエリオット。私が最後に作成したキャラクターだった。あのまま『アレ』に囚われたままでは彼はこのまま永遠に苦しみから解放されない。どうしたらいいのだろう…。


 ふと外を見ると辺りはもうすっかり暗くなっていた。突然部屋のドアの向こうからガタンという乱暴に何か置かれた音がして驚いた私は慌ててドアを開けると床に食事が乗せられたトレーが置かれていた。


 あぁこの部屋で食事をするのね。あの継母や父親と一緒に食べる事がなくて良かったと安心していた。

 トレーを部屋に運んで置かれてあった小さなテーブルに置くとお腹がへっていたのでさっそく食べる事にした。

 トレーにはスープとパンが乗っていてスープを一口スプーンですくって口に運ぶとすぐに違和感を覚え私はすぐにスープを口から吐き出した。腐っている!?これは食べられたものではない。仕方がないのでパンだけを食べる。パンだけは食べられるものだった。 


 そうかここでの私はこういう扱いなのかと私は咄嗟に理解した。痣がいくつも体にあったことから日常的に暴力もあるのかもしれない。私はこの家の使用人や両親に酷く怒りを覚えた。

 やられっぱなしはごめんだ。この世界で生きる為に私はここで戦っていく決意をする。

 


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