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フローラの話6

 

 目覚まし時計のけたたましい音で目が覚める。時計は午前7時をさしていた。いつものように顔を洗って髪を整え、化粧をして身支度をする。昨日作った夕飯の余りを冷蔵庫から取り出す。それからフライパンに卵を一つ割って目玉焼きを作る。インスタントのみそ汁の袋を破いてお湯を注ぐとすぐに朝食が出来た。朝食を食べながら朝のテレビ番組で天気予報と番組の最後の星座占いを見終えると食器の片付けをして家を出る。

 ゲームのシナリオライターとして念願の会社に就職できた私は日々充実した毎日を送っていた。


 シナリオライターとして毎日、ストーリーはもちろんキャラクターのデザイン、詳細な性格やその背景や生い立ち、セリフやゲームの分岐点などありとあらゆる事を作成しなければならなかった。毎日やらなければならない仕事はいくらでもあって多忙を極めていたが仕事はとても楽しかった。今回私が携わっている製作予定の企画は乙女ゲームだった。

 私は今の会社に就職が決まるまで就職活動をしながらゲームのシナリオのアイディアや登場するキャラクターのデザインなど様々な事を日々考えていてそのすべてのアイディアを詳細にノートに書き留めていた。


 そのため既にアイディアが出来上がっていたので後は企画としてまとめ上げるだけだった。

 ディレクターとの打ち合わせや、企画会議など忙しく毎日が過ぎていく。


 家に帰れば作成しているキャラクターの生い立ちや性格を詳細に練り上げていく作業に没頭していた。そこまで詳細に設定する必要はないと言われていたが私は特に攻略キャラクターの見えない部分の性格やゲーム上明らかにはされない趣味嗜好など事細かく作り上げていった。その方がずっとキャラクター一人一人に私自身愛着がわくしキャラクターにより親しみやすさがでるのではないかと考えていた。


 情熱的な王太子アルフォンスをメインヒーローに、寡黙な騎士のアラン、独占欲が強い宰相の息子のオズワルド、見返りを求めずに尽くしてくれる侯爵子息のロイド、心優しい幼馴染、魔法使いのルルド。5人の攻略対象者を作り上げた。そこに孤児院出身の心優しく美しい少女マリアをヒロインに据えてストーリーを展開させていく。


 特に魔法使いのルルドには特別な思い入れがあった。幼い頃の大切な友達、あの日突然永遠に会う事が出来なくなったあの子をモデルにルルドを作り上げた。彼が大人になったらどんな青年になっていただろうか、あの時あの子と過ごしたたくさんの思い出を基にルルドの性格も作り上げていった。本が大好きだったからきっと家の本棚にはたくさんの本が詰まっていて、大好きな植物の研究をしながら魔法でケガや病気で困っている人を助けてあげている彼の姿を想像してみた。私はそんな想像をしながらルルドが住んでいるであろう想像した家のイラストを描き上げていた。壁一面に本に囲まれている古い家。庭には沢山の花や植物が至るところに咲いている。色とりどりの花が咲き乱れる庭はいつも四季折々の花達が競うように美しい花を咲かせている。


 ベッドに寝たきりだった漣君は外の世界をあまり知ることなく亡くなってしまった。だからきっと大きくなっていたら恋もしたかったに違いないとヒロインのマリアとの攻略難易度は一番低く設定した。

 たとえヒロインと結ばれなくてもその後幸せな人生を送る彼の姿もエピローグとして作成した。


 大人になった今、漣君があの時見せた寂しそうな笑顔の意味をふと考える事があった。

 ひょっとすると彼は自分がモデルの物語を書いてほしいとお願いをしたかったのではなく自分の事をずっと覚えていてほしかったのではないのかと思う事がある。


 それでも、私の思い上がりなのかもしれないがせっかく生まれてきた世界で短い生涯を終えた彼にせめてこのゲームの中だけでも自由に動き回る事が出来る健康な体で幸せになってほしかった。あの時言われた彼からのリクエストは全部その通りにした。


 そんな私の作り上げた乙女ゲームにもストーリーを盛り上げるため当て馬や悪役令嬢、その取り巻きとして3人の令嬢を登場させた。数ある世に出回っている乙女ゲームでは大抵そんなわき役令嬢は嫉妬からヒロインを苛め抜き悪役としてその後悲惨なバッドエンドの末路を迎える。


 私の作ったゲームに登場する3人の令嬢達は常識の範囲でヒロインに文句をいうだけにとどめたり、ヒロインをヤキモキさせる程度の当て馬役にとどめたりした。最後には令嬢3人がそれぞれの道を見つけて違う相手と幸せになってもらうシナリオにしたりもした。当て馬のソフィアなどはどんなに想っても想いが届かないアランよりずっと前から真剣に自分を見ていてくれた人物に気が付き最後は結ばれるというハッピーエンドがある。


 しかしそのままではなんの特徴のないただの乙女ゲームになってしまうので私は裏ルートに続きのシナリオを用意した。発生難易度はとても難しく設定をした。ヒロインとメインヒーローが結ばれた後の世界。通常のシナリオでは語られなった真の世界観が露わになる世界で結ばれたメインヒーローのアルフォンスと共に力を合わせ、世界の危機を救う物語だ。

 私は最後に出てくる隠しキャラ達やひいてはモブキャラにいたるまで細かく他のキャラクターを作り上げた。しかしモブキャラに一人アランの従者のキャラクターが中々しっくり作れないで悩んでいた。その時偶然遊びに来ていた弟がそんな私の様子を見かねてか、冗談交じりではあったが、自分をモデルにしても良いよ。と言ってきたので有難くそうさせてもらう事にして無事にそのキャラクターを作る事が出来た。後に彼はこのゲームが切っ掛けでスカウトをされ俳優としての地位を築き上げていく事になるとはこの時思ってもいなかった。


 ほぼシナリオとキャラクターデザインを作り終えた後、ゲームの企画書は完成間近だった。

 しかしそんな時私は突然の病に倒れてしまった。それから長い闘病生活を送る事になってしまう。


 そんな辛い闘病生活の中、あのゲームがついに完成したと私に報告が入ったのだ。

 嬉しくてわくわくしながら届いた宅配物を開けるとそこには分厚い企画書と製品のゲームが立派なパッケージに入っていて店頭で売られている状態の姿でそこに入っていた。私は企画書の中身を読み進めていくうちにだんだんと信じられない気持ちで一杯になっていった。


 悪役令嬢や取り巻き、当て馬の3人にそれぞれバッドエンドが存在しておりそのどれもが残酷で心が痛むものだったのだ。通常ルートでは悪役令嬢のロレイン以外の2人の令嬢のうち必ず誰か一人がバッドエンドになるのだ。

 裏ルートでは今度は悪役令嬢に通常ルートよりさらにひどいバッドエンドが用意されていたのだ。

 

 その上、裏ルートの設定も違っていた。何故か今まで登場したモブキャラ全員を攻略できるという設定になっていたのだった。最後はヒロインが隠しキャラと結ばれるシナリオのようだ。


 私は一人一人とても愛着を持って作ったキャラクターだったため心が痛かった。何故、誰がこんなシナリオに変えたのだろう。


 そんな時気力で闘病生活を続けていた私に追い打ちをかける出来事が起こった。ある日私の担当の医者が私の余命を告げてきたのだ。長くはない期間だった。絶望の淵に立たされて失意にさいなまれている時再びあの妙な感覚で頭がグルグルする感覚に襲われる。



 私が再び目を開けると薄暗くカビくさい部屋のベッドの上に横たわっていた。ここはどこだろうと部屋を歩き回ると部屋の隅に姿見の鏡が置いてあった。その鏡の前に行くと鏡に映っていた私は赤い髪の幼い女の子の姿をしていた。

 

 

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