表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/94

22

 

 どれくらい話をしただろう。

 マリアの事、両親の事、引きこもっっていた間の話。お互い積もる話が沢山あって気が付けば窓辺には西日が射し込んでいた。以前のようにロイドとまたゆっくり話が出来た事が嬉しかった。会わなかった時間があっという間に埋まっていくような感覚だった。


 突然誰かが慌てて部屋のドアをノックする音が聞こえた。返事をすると勢いよくドアを開け入ってきたのはユリウスだった。


「母様、アンリの父様の部屋はどこ?急ぐんだ!」


 ユリウスの後ろにはアンリが泣きながら立っているのが見えた。


 私が慌ててルルド達の部屋に彼を案内するとアンリは慌てて部屋に入っていく。ロイドも何が起きたのか心配になって私についてきた。


「父さん、あの子を…。あの子を助けてあげて!僕ではまだまだ力が足りないんだ」


 あけ放たれた部屋のドアから父親にそういったアンリの顔が見えた。涙で濡れた彼の顔は悔しさで一杯だった。


 その様子を心配そうに見ていたユリウスに何があったのか尋ねる。


「メイドのサラのところのビリーが前から体が良くなかったんだけど今日はたまたま体調がよくて僕らが庭で遊んでいるのを近くのベンチで見ていたんだよ。そうしたら突然苦しそうにしてさ。アンリが魔力持ちだっていって一生懸命魔力を流しても変わらなくて今ロディが急いであの子を部屋まで運んでくれている。アルヴィスもアンリの妹と一緒にロディについていったよ」


 そうユリウスが教えてくれるとアンリはルルドと一緒に急いで部屋から出て行った。その後ろから顔色の良くなったフローラが彼らの後についていく姿が見えた。その後ろからカインさんもフローラを追う。


 「父さん、こっち!」


 アンリが案内する部屋に着くとルルドが真っ先に部屋に入っていく。意識がなく、ぐったりとベッドで横たわっているビリーの様子を見る。フローラとカインさん、ロイドと私とユリウスも部屋に入り様子を見守る。先に部屋にいたロディさんもルルドの治療を見守っている。アルヴィスはアリスの手を繋ぎながら不安そうにしている彼女に寄り添っている。

 何かが見えているのかルルドは一瞬険しい顔をしたが落ち着いて丁寧に体を見ていく。


 ルルドが苦しさの原因になっている患部を発見して手を当てるとビリーの様子は少しずつ落ち着きを取り戻していく。そのすぐ横でルルドと同じ黒いローブを着ているアンリは父の手際のいい処置を真剣に見ていた。

 ルルドの治療を終始見守っていたビリーの母親のサラは彼の容態が安定した事にひどく安心して床に座り込んでしまった。


「もう大丈夫ですよ、危険な状態は超えました。しばらく十分安静にしてください」


「ありがとうございます!」

 

 母のサラは今にも泣きそうだった。


 私はルルドの手際の良い治療にとても驚いていた。在学中も腕のよい治療師として有名だった。こうして今まで何人もの命を救ってきたのだろう。フローラもきっとそんな彼に危険な状態を救ってもらった一人なのだ。私は改めてルルドに感謝した。アンリはそんなルルドを尊敬と憧れの眼差しで見ている。父親をとても尊敬しているのが傍から見てもよく分かるほどだ。一方でアランとアルヴィスが今目の前にいる親子と違いすぎるほど対照的な関係になってしまった事に私はため息をつく。


 良好な親子関係をしっかり築けているフローラは母としても立派に思えるし心優しいルルドから傍目にも分かるほど沢山の愛情をもらえて彼女は今はとても幸せなのだろうと羨ましく思う。このまま記憶が戻らなくても十分幸せなのではないかと私には思えた。記憶が戻ったところで彼女には辛い記憶が多いように思えた。


 ふと私の横にいるフローラに目をやると今しがた治療を終えて穏やかな顔に戻って眠りについているビリーを見つめ目を見開いている。彼女の異常に気が付いた私はその場に崩れるように倒れる彼女を素早く抱き留めて体を支えると静かにその場に座らせる


「フローラ!フローラ?大丈夫!?」


 目を見開き焦点が合っていない彼女に私は必死で呼びかける。


 ルルドは彼女の異常に気が付ついて正面にきてしゃがむと同じく彼女に呼びかける。


 そのうちフローラはがっくりと頭を垂れるとしばらく動かなくなった。


 私と入れ替わるようにルルドが彼女を支えると横抱きにしてフローラの顔を上げ額に手を当てると魔力を流し込む。それから必死に彼女に呼びかけ続けた。


「フローラ!しっかりして!!」


 どれくらいのあいだそうしていただろう。その場にいる全員が息をのんで様子を見守っているとわずかに彼女の目が開く。

 まどろんでいるように朦朧とした様子の彼女はゆっくり目を開きこういった。


「私…。…思い出した…。私がこの世界を作ったんだ…。私の大切な友達だったあの子の為に…」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ