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荷馬車が邸宅に着くとロディさんが私達を出迎えるため外に出てきた。しかし予想外の人数に慌てて私のところまで駆け寄ってくると事態の状況を聞きに来る。


「ソフィア様、ロイド様にお会いに行っただけではありませんでしたか?」


 ロディさんが連れてきた面々をみて驚いていた。


「ロディさん、不測の事態が起きました。以前から探していた友人が今日やっと見つかったのですが偶然がいくつも重なり誤解を招いてしまっています。私は彼らと急いで話をする必要があるんです。もしアランが帰ってきてもこの事は内密にしてください」


 私は手早く説明したが持ち前の頭の回転の速さで彼は事態をすぐに把握してくれたようだ。


「分かりました。私におまかせください」


 そういうと彼は素早く彼らに向き合うと優秀な執事の顔に戻り即座に応対を始めた。


「私はこの屋敷で主人の従者兼執事をしているロディと申します。ようこそいらっしゃいました。みなさんでお話ができるお部屋へ案内しますのでどうぞこちらへ」


 ロディさんが全員を部屋へ案内するため歩き出すと私はいつもの男装の服を取りにいき急いで着替える。

 私が到着するまでロディさんやベルカがお茶を振る舞ったり世間話をしたりして場を繋いでくれていた。

 ノックをして部屋に入ると全員驚いた顔でこちらをみていた。ロディさんやカインさんまでもが固まっている。

 そんな視線を物ともせずそのままルルドの前まで行くとかつらを取り元々の長い髪を露わにする。


「この姿の私が彼女を探していました。そこにいるロイドではありません。私と彼女は幼馴染で昔からの親友でした。しかしある出来事をきっかけに彼女は突然姿を消してしまいました。必死の捜索も空しく一向に彼女の行方が掴めなかった私は巷でしか出回っていない情報から彼女の行方の手がかりを掴むべくこの姿で街に出てあなたの奥さんを探していました。女性の姿で動くよりこちらの姿の方が安全で動きやすかったからです。そしてあの日を境に姿を消した彼女の身を案じて私が彼女を探している事を絶対に他の人間に知られたくなかったという理由もありました。あの食堂に顔を出しては遠くからきているお客さんにも情報を聞いてもらっていました。そうしているうちに何故か彼女が私の妻という設定になってしまい、何度も否定していましたが私が行方不明の妻を必死で探しているという噂が勝手に広がってしまい今に至っていました。そこでちょうど事情があり街に下りていた私の弟が私の男装姿に似ている事から私と勘違いをされたようで偶然通りを歩いていた彼が発見されあの店の店員に連れてこられたようです。そして今日私がそこにいるロイド、弟に会いにきて事前に教えてもらったロイドの住んでいる家を訪ねるとあの食堂にたどりつき今日の出来事が起こってしまったというわけです。正直何度も彼女の捜索を諦めかけました。ひょっとしたらもうこの世にいないのかもしれないと。でもこうして再び会う事ができて私は嬉しい。ルルドさん、私が早く貴方からの手紙を受け取っていればこんな事にはならなかったのです。心労をおかけして申し訳ありませんでした」

 私は丁寧にルルドに頭を下げて謝罪した。


「そういう理由だったのですね。納得しました。彼女に夫がいなくて本当に良かった。実のところ、ずっとやきもきしていました。あの…。彼女の本当の名前はなんというのでしょうか」


「彼女の本当の名前はフローラといいます」


「フローラ…フローラか!やっと本当の名前で君を呼べるよ。ずっと…ずっと知りたかったんだ」


 ルルドが愛おしそうに彼女を抱きしめる。

 フローラはルルドに抱きしめられながら自分の名前が分かって少し涙ぐんでいた。


「母さんはフローラって名前が本当なの?」


 ルルドの隣に座っていた黒いローブの男の子がそう聞いてきた。


「あぁ そうなんだって。申し遅れましたがこの子は私とフローラの子でアンリといいます。フローラの隣の子はアリスと言います」


 ルルドの隣に座っていた男の子はルルドとフローラのもっとも良い部分を受け継いだようでとても綺麗な顔をしていた。女の子はルルドに似ているが彼も相当な美形なのでとてもかわいい顔をしている。


「ロイドさん、申し訳ありませんでした。状況が分からないあなたに色々言ってご迷惑をかけました」


 今度はルルドがロイドに丁寧に謝罪する。


「いえ、大丈夫ですよ。最初はとても驚いて事態が呑み込めませんでしたが色々偶然が重なった結果でしょうから」


 ロイドは恐縮してルルドに言葉を返す。

 そうして少し場の空気が和んだところでもう一つ私はルルドに確認をした。


「ルルドさん、もう一人彼女の親友でフローラを懸命に探していた女性がいます。会わせてもいいでしょうか」

「はい、僕はかまいません。フローラ?その女性に会いたいかい?」


「ええ。もちろんよ。その方も私を懸命に探していてくれたのでしょうから」

 

 フローラがそう返答する。


「ありがとうございます」


 そういって私は彼女に近寄り立ち膝をすると座っている彼女を見つめた。


「フローラ。私よ。ソフィアよ」


 そういって私はフローラを見つめると彼女の名で呼びかけてみる。

 ほんの少し瞳が揺れた気がした。


「ロレインにも知らせたわ。彼女もいつもとても心配していたわ。今こちらに向かっているの」


「ソフィア?ロレイン?ソフィア…。ロレイン…。ソフィア…あぁダメだわ。あと少しの所で頭が真っ白になる…頭が…。頭が痛いわ」


 そういって両手で頭を抱えるフローラをルルドはやさしくそっと抱きしめる。


「落ち着いて。僕がいるから。ソフィアさん、彼女を少し休ませてあげたい」


 ルルドは心配そうに彼女の手を握りながらそう言った。


「分かりました。こちらこそ長旅で疲れている所を配慮が足りず申し訳ありません。すぐお部屋を用意します」


 慌てて駆け寄ってきたベルカに部屋の案内をお願いした。

 すぐそばでルルドとフローラの二人の子供達が不安そうに彼らを見ている。


「ルルドさん、良ければ子供達はこちらで預かりますのでフローラをゆっくり休ませてあげてください」


「ありがとうソフィアさん。助かります。それではお言葉に甘えさせていただきます」


 ユリウスがルルドの子供達にも声をかけて一緒に遊ぼうと誘いだすがアンリは母親を心配そうに見ていた。


「アンリ、お母さんは心配ないからあの子達とアリスと一緒に遊んでおいで」


 ルルドがそういうとアンリは妹と一緒にユリウスと駆け出して行った。その後をロディさんが追っていく。


「ソフィア様。私はロレイン様からフローラ様の護衛を依頼されました。私はフローラさまたちの部屋の前におります」


 カインがいう。


「あっそういえばロイド様。あの店の主人から伝言があります。ロイド様が戻るとまた混乱を招くので今日は店に戻ってこなくてもいいそうですよ」


「…はい…。まぁあの状態じゃ仕方ないか…」


「じゃぁ今日はこのままここに泊まっていくといいわ」


 私は即座にロイドへ提案した。


「ありがとう。そうさせてもらうよ」


 ロイドがそう返答する。


ルルドはベルカに案内され彼女の手を引きながら部屋を後にするとカインも続いて部屋を出ていく。


 彼らが部屋を後にするとロイドが口を開いて話し始めた。


「それにしても姉さん、久々に再会できたのにもうさっきから色々驚く事ばかりだよ。しかし男装して護衛もつけないで一人で街に出ていたなんて…。その男装姿、確かに僕によく似ている。そんな姿でどうして僕の名前使ったんだよ」


「ごめんね。あの店の主人に名前を聞かれて咄嗟に思いつかなくてロイドの名前をだしてしまったわ」


 私は悪戯がばれた時のように誤魔化して笑う。


「仕方ないなぁ姉さんは…」


 ロイドは少し呆れ気味で許してくれた。


「ところであの冒険者の格好の人はだれ?さっきから気になって仕方ない」


「彼はロレインの護衛をしているカインさんよ。私が子供達と街に下りてロイドに会いに行くと話をしたらカインさんと他の護衛さんを付けてくれたのよ」


「ロレイン様?姉さんそんなに頻繁に会えるの?」


「そうね、彼女に依頼された仕事をしによく離宮に行くから」


「そうなんだ。ロレイン様は側妃になったんだよね。彼女も辛い思いをしたんだよね、きっと…」


 ロイドは少し悲しげな表情をする。


「しかしここに来るのはいつぶりだろう。小さい頃はよく遊びにきていたから懐かしいよ。ところでアラン義兄さんとはうまくいっているの?」


「そうね…。ここに嫁いてきてから今まで彼とは色々あったわ…あの子達が産まれる直前に大きな事件があってそれ以降私は彼に見切りをつけてしまった。もう昔のように優しい彼はいないんだって思い知ったわ。だからあの子達が家をでたら私もここを去るつもりよ」


「まだ義兄さんはマリアさんを想っているの?なんてことだ…。僕が引きこもっている間に色々あったんだね。姉さんが辛い思いをしていたのに心配をかけてごめんなさい。フローラさんが行方不明だなんて事も今まで知らなかった。僕は今まで相当狭い世界にいたんだと改めて情けなくなるよ…」


「これからまた歩き出せばいいわ。大丈夫よ!私もここをでたらロイドと一緒にあの店で働こうかしら?」


「姉さん!色々大変だったんでしょう。しばらく実家に帰ってゆっくりしたらいいよ。それから先の生き方をじっくり考えてみたら?」


「あら、中々いい案だと思ったんだけどダメかしら…」

 

 ロイドはまた呆れ顔をした。



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