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 「ソフィア様!朝ですよ!起きてください!」


 ベルカの声で目が覚める。昨晩はロイドに会った時の事を考えて中々寝付けなかった。両親に心配と迷惑をかけ続けたロイド。でもやっとなんとか自力で前を向き歩きだした彼に私の心は怒っていいのか喜んでいいのか複雑だった。今日はいよいよロイドに会いに行く日だ。

 身分を明かさずに生活しているということだったので私達も一般的な街の人達が着る装いに着替えて出かける準備をする。


「わぁ母様いつもと全然雰囲気が違うね。こっちの母様も好き」


 ユリウスがまじまじと私を見る。アルヴィスは自分の服装が気に入ったようで鏡の前でご満悦だ。


 そうこうしているうちに予定より少し早めにカインさんをはじめ護衛をしてくれる兵士達が迎えに来たようだ。玄関ホールから賑やかな声がする。ちなみにアランはいつも通り近衛の仕事に出かけていて既にこの時間邸宅にはいなかった。


 私は子供達を連れて玄関ホールまで向かうとロディさんと談笑しているカインさんを見つけた。離宮で何度も顔を合わせているので二人はもうすっかり仲が良い。二人を見るとアルヴィスとユリウスは勢いよく駆け寄っていく。

 いつもの騎士の姿ではなくギルドの冒険者のような恰好をしているカインさんは何だかとても見慣れない。一見軽装の様に見えるがマントの下にはしっかり剣帯をして剣を下げている。


 他の護衛達の格好は商人だったり旅人だったり様々な恰好でどうみても一般人のようにしか見えないがよく目を凝らしてみるとカインさん同様しっかり武装をしている事が分かる。

 

「おはようございます。カインさん。今日はよろしくお願いします」


 そういうと私は頭を下げる。


「おはようございます。ソフィア様。こちらこそよろしくお願いします」


 彼はいつものように穏やかな口調で丁寧に挨拶を返してくれる。


「さて。そろそろ時間ですがもう行かれますか?」

 

 カインさんが懐中時計を取り出すと時間を確認して私に尋ねてくる。


「はい。ではよろしくお願いします」


 私がそう答えるとカインさん達が乗ってきた商人達が納品時によく使うテント付きの荷馬車に案内されそれに乗り込み街の入り口まで移動する。

 馬車に乗り込むと事前に確認していたロイドの住所をもう一度確認するためにスカートのポケットからメモを取り出す。やはりこの住所は私が男装してよく訪ねている食堂の近くだろうか…。近くまでいって通りすがりの人にでも尋ねてみよう。


 気持ちのよい爽やかな陽気の中でも私の気持ちは相変わらず複雑だった。未だにロイドに会った時どう接していいのか分からないままだった。でも久々に会う彼がどんな風に変わっているのか楽しみでもあり早く会いたいと思う気持ちもあったのだ。


 街に着くとカインさん達護衛達は私達から少し離れて四方を囲むように歩き警護を始める。

 メモの住所を頼りに歩くとやはり見慣れたあの食堂の近くに着く。


「さてこの辺りだけど…」


 通りすがりの人に聞いてもやはりこの辺りだという。

 私はもう思い切ってあの食堂に入ってみる事にした。カインさん達には外で待っていてもらう事にした。


「いらっしゃいませ!」


 店のドアを開けると元気な明るい声がした。その声の女性は私達を席に案内するためこちらに速足で歩いてくる。

 見るとその女性は私が最後に男装で街に下りた時偶然見かけて人攫いから助けてここに連れてきたあの女性だった。

 あぁ良かった。すっかり明るくなったその女性をみて私は安堵する。


「いらっしゃいませ!こちらのお席にどうぞ」


 明るい接客で席を進めてくるが食事をしに来た訳ではない。思い切って彼女にメモの住所を聞いてみる。


「すいません、お聞きしたい事があってここに来ました。このメモの場所がどこかわかりますか?」


 私がメモを見せると彼女はそれをみてすぐに返答する。


「この住所はここですよ。うちに何か御用でしょうか?」


 おどろくことにまさにこの場所だった。どういうことだろう?


「あの…。ここにロイドという男性はいますか?」


 私は恐る恐るきいてみる。


「はい、いますよ。彼は厨房で働いています」


 彼女がなんでもないように答えるので私は驚いた。


「今呼んできますね」


 そういうと彼女はロイドを呼びにいってしまった。

しばらくして彼女の後ろから怪訝そうな顔でロイドが姿を現した。


「ロイド!」


 私はロイドの姿を見ると嬉しくて駆け寄り気が付くと彼に抱き着いていた。


「姉さん?どうして!?どうしてここにいるの?」


 ロイドは驚きを隠せないような声でそう言った。


「うん、お父様から聞いてね、元気そうで良かったわ」


「父上から…。姉さん、長い間迷惑をかけて申し訳なかった。僕は…。僕は自分が情けない…」


 そういうとロイドはうつむいたまま顔を上げなかった。


「本当はあなたに会った時色々文句を言おうと思っていたけど実際に元気になった顔を見たら文句なんてもうどうでもよくなったわ。私はあなたに会えて今何より嬉しいの」

 

 あんなに両親に迷惑をかけたロイドが腹立しかったのに、あんなに彼と対面したとき、どう接していいのか悩んでいたのに彼の懐かしい顔を見るともうそんな悩みなんて無くなっていた。私はきっとずっとロイドの事を心配していたようだ。怒りよりも安堵の方が勝ってしまった。

 私がそういうと彼は今にも泣きそうになっていた。

 幼い時よく転んだり叱られたりして泣いているロイドを大丈夫だよと言って抱きしめながら頭を撫でて慰めていた思い出が蘇る。もう随分背丈は追い越されて頭を撫でる事は出来なくなったけれどそのかわりそっと彼を抱きしめた。


 そんな私達の様子を不思議そうに見ているアルヴィスとユリウスに気が付いて私はロイドに二人を紹介する。

「ロイド、私の子供達よ。私の右にいるのが長男のアルヴィス、左にいるのが次男のユリウスよ。二卵性の双子なのよ」


「アルヴィス、ユリウス。この人は私の弟のロイドよ。あなた達の叔父さんになるわ」


「もう叔父さんかぁ…。初めましてアルヴィス、ユリウス。しかし君はアラン義兄さんにそっくりだね…。そして君は姉さんにそっくりだ。驚いたよ」


「叔父さんも僕に似ているね!」


 ユリウスが咄嗟にロイドにそういう。


「叔父さんかぁ…僕まだ若いんだけど」


 ロイドは苦笑いする。


「そんなに叔父さんがいやならさ、僕と顔が似ているから父さんって呼ぶよ」


 そういうとユリウスはニッと笑ってロイドを父さん、父さんと連呼して呼んで彼をからかっていた。


 その時後ろから店の主人が出てきた。


「ひょっとしてあなたはロイドのお姉さんかい?」


 ロイドと似ている私の顔を見ると驚いて様子でそう訊ねてきた。


「はい、そうです。初めまして。ロイドの姉です。弟がこちらでお世話になっているようでありがとうございます」

 

 本当は何度も会っていて初めましてではないのだがそう挨拶をする。


「実はこのロイドにそっくりな男と俺は友人なんだがそいつに急ぎの手紙が届いていて、その友人を探していたんだよ。そうしたら2週間前にそこにいるロイドが偶然この辺りを歩いているのをそこの接客係をしている女性のローズが偶然見つけて店に連れて来たんだよ。ローズも最初はあいつだと思い込んでいて急いでロイドをこの店に連れてきたんだがよくみたらすごく似ているけど違うんだよ。俺は驚いたよ。その手紙をすぐに渡してやりたくてロイドにあいつの事を尋ねたんだがよく聞くと名前も同じだっていうじゃないか。もう完全に親戚が兄弟だと思ったよ。でもいくら聞いても知らない、の一点張りでさ。参ったよ。更に話を聞くと今日この街に着いたばかりで家もまだないっていうじゃないか。そうこうしている間に店が混みだしてきてよ。人手不足だったもんだからひとまず厨房に入ってもらって手伝ってもらってからそのままずっと住み込みで働いてもらっているよ。ロイドのお姉さん、ロイドと容姿が似ている俺の友人のロイドを知らないかい?とにかく急ぐんだよ。約束の日は今日なんだよ!」


 私は何がなんだか混乱したまま主人の話を聞いていたが間違いなくその主人の知り合いは私の事だろう。



「約束の日とはなんですか?」


 一番の疑問を主人に質問した。少し離れた場所ではユリウスがまだロイドを父さん!と連呼して彼をからかっていた。


 その時誰かが店に入ってきた気配がしたがあまり気に留めなかった。しかししばらくして店の入り口を見ると、ロイドとユリウスの先ほどからのやり取りをとても思い詰めた顔で見ていた黒いローブの銀髪の美青年と緋色の髪の美女が二人で立っている事にようやく気が付いたのだった。




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