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ユリウスを養子に出す時期を私の両親と話し合うべく近々実家を訪れる予定になっていたがその前にアルヴィスの問題が浮上してしまった。こちらを先に解決しないといけないようだ。
私はすぐさまロディさんに事情を話しドリュバード家前当主であるアランの父に会う機会を作ってもらう。
アランの父は自身の妻が病気がちである事から私達の挙式後すぐアランに爵位を譲り渡した後、静かで病の療養に適した郊外に邸宅を移して妻の看病に尽くしていた。
元侯爵当主が住んでいるわりには必要最低限の広さである邸宅にはシンプルだが品がある調度品が並べられていて居心地が良い家だった。
通された客間でしばらく待っているとアランの父が現れた。
「ソフィアよく来てくれたね。アランとの結婚生活で今も君に心労をかけている事を申し訳なく思っている。私が不甲斐ないばかりにあなたに苦労を掛け続けている事を改めて謝罪させてくれ。申し訳ない。二人の孫も立派に産んでもらって健全に育ててもらっている事にも深く感謝している」
そういって彼は私に頭を下げた。
「どうか頭を上げてください。私なりにアランとの生活は折り合いをつけておりますので以前のような心労はなくなりました。ところでお義父様。お義母様のお体のお加減はいかがですか」
私達の結婚当初からアランの母の容態は良くないと聞いていた。昔からもう一人の母の様に慕っていた彼女に私達の間にあった事で気に病ませる事が心配だった。結婚初夜から始まったアランからの仕打ちについて詳しい報告は控えていたのだ。しかしやはり前当主であるアランの父には少なからず耳に入っていたようだ。しかしあの出産前の出来事で全て明るみになってしまった。運が悪かったら私も子供も死んでいたかもしれない大事件だったのだから仕方がないのかもしれない。
彼女の病は光魔法でさえもう治せない。前世でいう臓器を移植しないと助からない状態だった。光魔法は臓器ごと交換しないといけない重い病に対しては効果を発揮しないのだ。ロレインも自身の母の事はいつも気に病んでいた。私に対する態度や心配事ばかり起こすアランに対していつもとても怒っていた。次に二人が会う時はきっとアランはロレインの怒りを買うだろう。
そんな義両親の事もあり今回のアルヴィスの件は非常に言い出しにくい出来事だった。
「私達に心配をかけないようにアランとの事も伏せていたのだろう?気を使わせて申し訳ない。妻は大丈夫だよ。最近では食欲もあるし気力もついてきた。ところで今回の急な訪問には理由があるのだろう。何かあったのかい?」
一瞬表情が曇るがすぐにいつもの彼に戻り心配そうに私の答えを待っていた。
「はい。実は話せば長くなるのですが…」
私は事実を端折って説明してはアルヴィスの真意が伝わらないと思いあの時あった出来事を丁寧に包み隠さず話した。そうして長い話が終った頃彼は一息ついて話を始めた。
「またあのマリア様か…。アラン一人しか護衛がいなかった様子をみるとお忍びで街に来ていたのだろう。王室に忠誠を誓っている我が一族であるアランも近衛であるためマリア様を放り出して君を助ける事ができなかったのだろう。だからといって人としてその行動が正しいのか情けない事に私には分からない。家族の命に代えられるものがあるのだろうか…。そうしてアルヴィスの信用を失わせた言い訳にもできない。あいつが今まであなたにしてきた仕打ちは到底許されるものではない。殺していたかも知れない我が子に今更父親としてどう示しがつくのだろう。だから今回の事は起こるべくして起こったのだよ。当然の結果だよ」
彼は顔をゆがめてそう言った。しばらくして再び話始める。
「実はあのカインは私の親友の弟子なのだよ。最大のライバルにして無二の親友だった男だ。若い頃はいつも何かにつけて競い合ってお互い剣の腕を磨いていたものだ。以前あいつのいる北の砦を訪ねた時にあのカインという兵士を見つけたんだ。うちの騎士団の誰よりも強い彼の剣をみてロレインが嫁ぐ際の護衛として来てもらいたいと強く思ったよ。だから私は恥を忍んであいつに頼み込んだんだ。カインはロレインの護衛もあるのだし彼を師として仰ぐのならその師範でもありカインよりも強いあの男に鍛えてもらう方がいいのかもしれない。一度私とアルヴィスとで話をさせてもらえないか?妻も孫の顔を見たらとても喜ぶだろう」
カインさんがロレインの護衛としてついた経緯を知り納得をしてアルヴィスとよく話し合いをするべく一度話を持ち帰った。後日アルヴィスを伴いまたこの邸宅を訪れる事になった。
その後のアランの父との話し合いでアルヴィスは北の砦のボーガン伯爵の元へ剣の修行に行く事を決意したのだった。ユリウスよりも案外はやく旅立つのかもしれない長男に私は寂しさで胸がいっぱいになってしまった。