マリアの話3
魅了の力を手に入れてから攻略は随分簡単になった。しかしどうしてだろう多少の違いはあるが対象者の状況が若干違う気がする。
ゲーム上でもこの世界でもアランは寡黙で真面目な性格で特に女性には慎重なタイプだ。しかし違うのはソフィア以外に絶対に笑顔を見せないということだ。そもそもゲーム上ただの当て馬のソフィアがアランと婚約しているはずがない。どうしてだろう。
そんな違いはあるが魅了の力が働いて私に心が向くようになってきた。
最初こそかなり警戒していた彼だが少しずつ私に心を開いていった。そのうち完全に私に心を開くと私のいうことを疑いもしないで信用してくれるようになった。しかし恋愛は情熱的なタイプではなく燃えるような恋はしないタイプのようだった。
そのあたりはやはり情熱的なアルフォンスが私の要求を満たしてくれる良い攻略対象者だった。
他の対象者ではオズワルドは美形で頭脳明晰、あらゆる知識があり頼りになるのだが面倒な事に嫉妬深い。いつも私の気持ちがどこにあるのか気になって仕方がないようだった。
私が他の対象者と気安くしているとすぐに私の手を引いて連れ去ってしまう。そういう辺りは強引でドキリとする。
だから他の攻略者と会う時はオズワルドにわざと時間がかかるお願いをして彼を遠ざけていた。
次にロイドだ。まだこの学園の生徒ではない。私達が今二年目であるため2歳下のロイドが入学してくるのは来年だった。しかしある日まだ生徒ではない彼が姉のソフィアの忘れ物を届けるためこの学園にやってくる。その時私が床に落としたものを探していると偶然通りかかった彼が私に声をかけてきて運命の出会いをするという出会い方だ。
ロイドはとにかく相手に尽くすタイプだ。しかし決して見返りを求めない。その姿がいじらしくて可愛いのだ。でもあのソフィアの弟だ。ゲーム上ではただのモブ扱いの当て馬なのに学園での彼女は何故かモテている。面白くない。私はロイドとソフィアを割り切って考えられなくてロイドを適当に扱ってしまうがいつも捨てられた子犬のような目で私をみてくるのでそんな彼を私はいつも捨てられないでいた。
一方でルルドは一緒に学園へ入学して以来一切姿を見せてない。その理由は後になってから分かったがそもそも彼は魅了の力を使わなくてもずっと前から私の事が好きだったようなのでルルドに時間を割かなくてもルルドの好感度は容易に保てていた。そのうち私は他の攻略者の事で一杯になりはっきりいってルルドの事はすっかり忘れていた。それでもいつでもずっと私の味方でいてくれる都合のいい存在の彼が私から離れる事は無いと疑わずに思っていた。
そんな攻略者達との恋愛を楽しみながら様々なドキドキするようなイベントをいくつもクリアしていよいよ卒業する年の三年目を迎える。
この年で重要なのは聖女になれる条件を完璧に満たす事だった。
早い段階で好感度を上げる事に成功していた。悪役令嬢が悪役になっていない世界なので条件が複雑で出現させるのに苦労したイベントもあったがあらゆる手を尽くして順調にクリアした。
あとは必要アイテムだけだ。しかし何故か手に入らない。これまでもイベント発生時に何度か不思議と上手くいかない事が多々あった。しかしここで意外な事に気が付く。これまで大人しくしていたオズワルドの婚約者のフローラが私の邪魔をしている事に気がついて合点がいった。そのうえ聖女になるための必須アイテムの女神の涙という石を彼女が持っていた事が分かったのだ。何故その石の存在を知っているのか疑問だった。彼女も私と同じ転生者なのかという疑問が生まれる。そして私がヒロインである事に嫉妬して聖女になる邪魔をしているのだと考えるようになった。
それなら邪魔な彼女を罠にかけて同時に石も奪い消してやろうと計画を練ることにした。
しかし予想外にもある日相手からこちらに仕掛けてきたのだ。アランに寄り添い抱き合っているとその様子をみてソフィアが泣いていたのだ。その様子をみていたフローラが私が一人になるのを見計らって大勢が見ている前で私に文句を言ってきたのだ。
「これ以上婚約者がいる男性と二人きりになったり慣れなれしくしないでほしいのよ。泣いている子がいるのよ。オズワルドの事もそうよ私は婚約者なのよ」
穏やか口調ではあるが私にそう文句を言ってきた。しかし私は怒りで一瞬我を忘れ思い切り言い返してやろうかと思った。取られる方が悪いと。しかし大勢が見ている前でそんな醜態をさらせない。噂が広がると好感度に影響するのだ。しかしふと逆にこの状態を利用してやろうと思った。
「ご…ごめんなさい…。私婚約者がいるなんて知らなくて…。私そんなつもりはなかったの…。本当にごめんさない」
しおらしくみんなが見ている前で泣いて見せた。
そんな様子をみてフローラは分が悪くなったのを悟ったのかその場を無言で去ってしまった。
そうして一人で泣いているとアランが颯爽と戻ってきて何があったのか聞いてきた。泣いている演技を信じているのかひどく心配していた様子だった。アランを見て思いついた。ついでにいちいち私の癇に障るソフィアも消してやろうと思ったのだ。そうして私はこういってやった。
「ソフィア様が他の令嬢と私を取り囲んで私に身に覚えがない事で文句を言ってきたのよ…。他にもひどい事を沢山いわれたわ。私がいけないのよ。きっと私が彼女の気に障る事をしてしまったのだから…あなたが悲しむと思って今まで黙っていたけども…。でも心配しないで私は大丈夫だから…」
そう泣きながらいうとアランはひどく険しい顔をしていたがすぐに私を優しく抱きしめてくれた。
その後にオズワルドから昼間にあったフローラとの騒動の事を聞かれた。オズワルドから直接フローラが婚約者だと聞いた事がなかったので私はオズワルドにいってやった。
「私フローラ様にひどい事をしたわ。あなたの婚約者だなんてしらなかったから。ごめんなさい。私は貴方ともっと一緒にいてあなたの事をもっと知っていきたかったわ。悲しいけれどお別れしないとダメね…」
そうやってオズワルドを見つめ弱々しく泣いてみせる。
「ごめん、僕が君にフローラの事を話していなくて。幼い頃に両親に勝手に決められただけの婚約者なんだ。君が泣く姿はみたくない。フローラの事は何とかするから。」
そういって私を強く抱きしめた。
さて、私に夢中なオズワルドとアランはソフィアとフローラをどうするだろう。見ものだ。
暫く動きはなかったがある時オズワルドが唐突にフローラに行動を起こした。
学園のメインイベントであるダンスパーティ―の最中それは起こった。
ダンスパティ―では自身の婚約者や恋人がエスコートをして会場に入場してくるのだ。私はまだ婚約者がいなかったロイドにエスコートをしてもらい入場する。この年になってようやく入学してきた彼にエスコートをお願いすると張り切って私に上物のドレスを買ってくれた。
彼をともない会場に入ると彼をみて他の令嬢が私に嫉妬と羨望の眼差しを向けてくる。彼も対象者の一人なので非常に容姿のレベルは高い。そんな他の令嬢からの嫉妬と羨望の的になる美しいロイドと共に歩くのはとても気分が良い。
どう?良いでしょ?くやしいでしょ?そういうように令嬢達に見せつける。前世でも有名ブランドの高級バッグを買ってもらって持ち歩いてる時や高級アクセサリーを身に着けている時などの感覚に似ていて非常に気分が良い。
こういう気分が一番好きだ。
しかし会場に入るとフローラを一人にしたオズワルドが此方にきてロイドから私を奪い私と共に再びフローラのもとに戻ると唐突にフローラに言い放つ。
「お前はこの何の罪もないマリアに対してあろうことか人目が多い場所でわざと大々的に罵声を浴びせたそうだな。お前がそんなに性悪だとは知らなかった。そんなお前とは将来共に生きて行くことなど到底できはしない。今ここで婚約破棄をする。そして私はマリア以外に生涯を共にするつもりはない。たとえ彼女と結ばれなくても私は生涯を終えるまで誰とも結ばれるつもりはない」
そう言い放つと会場がどよめいた。
なるほどフローラを消すには効果的だ。これで彼女は終わっただろう。あらゆる人の噂になる。
そう私は満足気にフローラを見た。しかしどうしてだろう何故か彼女はわずかに笑みを浮かべていた。
どうして笑っていられるの?予想外の態度に私は内心焦るのだった。