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フローラの話4


 しっかり体も動くようになり普通に生活ができるまで回復した。

 ルルドに世話をかけっぱなしだったので最近は家事や掃除は私が担当して行っている。


 崖の下で大怪我をして倒れていた私を見たとき破れてボロボロになってはいたが豪華なドレスを着ていた事からルルドは私を貴族のお嬢様だと思っていたようで私が掃除や洗濯、料理が出来る事にかなり驚いていた。


 私も何故掃除や料理が出来るのか不思議だったが体が覚えているようで難なくこなす事ができた。

 ルルドの家のキッチンは一通り必要な道具が揃えられているがシンプルでスッキリしていて、あまり目につく所に物が置かれていることが無く全てきちんと収納されていた。


 そしてルルドは患者や村民に食事指導をしているだけあって料理はかなりうまい。

 たまにキッチンでルルドと一緒に調理をする事があるがものすごく手際がよくていつも驚く。


 一週間に1度早朝に家を出て村に下りる。そこで空いている民家を借りて開院をして治療を行ったり往診で患者の家に足を運んだりしている。


 この深い森をどうやって安全に短時間で村まで降りているのか疑問だったが割と早い段階でその疑問は解決された。

 岩や崖など足場が悪い所でも素早く動ける馬のような人が乗れる動物がいてルルドの家の納屋でその動物は飼われていたのだ。

 鹿に似ているまん丸で真っ黒なつぶらな瞳の可愛らしいその動物は二本の立派な角があり頑丈な蹄と細くてしなやかだがしっかり筋肉がついた美しい体をしていた。

 名前はララという。りっぱな角があるが実は雌だという事に驚く。


 私の容態が回復したのでルルドは街での定期開院を再開する事にしたようだ。明日早速早朝から村に出かけるらしい。


 私はルルドが留守の間、薬草を摘む作業は知識もなく足手まといになると思い家事全般に勤しむことにした。

 ララのお世話も教えてもらいながらやってみることにした。

 馬と一緒でブラッシングをしてあげると、とても気持ちよさそうにこちらに身を任せてくれる。ララのその様子が嬉しかった。鼻面を撫でてあげると私の頬にララが自分の頬をスリスリしてくる様子はくすぐったいがとても可愛らしい


 翌日早朝にルルドはララに乗って村に下りて行った。

 私はこの間に洗濯やら細かい所の掃除など一気にこなして帰ってきた時ルルドを驚かせてやろうと思った。

 相変わらず占領している寝室のベッドのシーツをはがし桶に水を汲んできて入れると他の洗濯物と一緒に一気に洗い始めた。2時間後、屋根から庭の木の太い枝まで伸びている物干しロープが洗い終わった洗濯物で一杯になり、やり終えた達成感で気分が良かった。ルルドが帰ってくるのは夜になってからだがきっと お腹を空かしているだろうと思って夕方には調理も始めた。


 陽が沈んでしばらくしてからルルドが帰ってきた。私が起きていた事に驚いていたようでさらにテーブルの上に料理が用意されていた事にも驚いていた。


「起きて待っていてくれたの?無理しないで寝ていてもよかったのに。食事も用意してくれてありがとう。とっても嬉しいよ。かえってきて明かりがついてるっていいもんだね。とてもあたたかい気分になるよ」


 そういって外套のローブを脱ぎ部屋着に着替え終えると私の作った料理を喜んで食べてくれた。

 食べ終えるとルルドの希望で片付けを一緒にやる。なんだか新婚さんみたいだなと思いながらルルドとの穏やかな生活を送れている事に感謝した。


 ルルドは食事を終えると持って帰ってきた荷物を私に手渡してきた。


「これ君の服だよ。村で買ってきた。好みが良く分からなくて気にいってもらえるか不安だけど。いい加減僕の服じゃあ大きくて動きにくいよね」


 包みにはワンピースが数着入っていてどれも私の体のサイズにぴったりだった。


 私はここにきてからずっとルルドの服を借りていたのだった。

 私には丈が長くて膝上のワンピースのようになっていたルルドのシャツはそれでは目のやり場に困るとルルドがさらに自分のズボンを貸してくれていたが大きくて少々動きにくかった。

 たまにテーブルクロスを腰に巻き付けてスカートの代わりにしていたくらいだった。


 発見された時に着ていた服はボロボロで服の意味をなしてはいなかったので着れていなかった。しかし記憶を取り戻す手がかりとして綺麗に洗濯後保管していたのだった。


 服の他に野菜や調味料、干し肉など食料がたくさん入っていた。ルルドは村民に診療代をもらわない。そのかわり彼らから生活必需品や食料など沢山もらって帰って来るのだ。現金収入はたまに行く大きな街でお金に困っていない貴族の往診をして高い診療代をもらって生活している。


 それからしばらくルルドとの穏やかな生活は続いたが私の記憶は一向にもどらない。

 このままここでルルドに迷惑をかけて彼の生活の負担になる事はしたくなかった。私はどこか街や村に下りて一人で生活する基盤を築こうと考えていた。


 ある日の夕食時私は思い切ってルルドのその想いを告げた。


「ねぇルルド話があるんだけど…。私この家を出て行こうと思うの。いつ記憶が戻るのか分からないしこれ以上あなたに負担はかけたくないの」


 そういう私の言葉に彼は最初とても驚いていたが黙って話を聞いていた。しかし次第に暗い表情になり下を向いたまま黙ってしまった。

 そうしてしばらく沈黙が続いた後彼は決心したように顔を上げ真剣な眼差しで私を見ると口を開いた。

 いつもと違う彼の表情に私は思わすドキリとしてしまう。


「実は君の記憶がこのまま戻らなければいいとずっと思っていた。記憶がもどったら君は出て行ってしまうと思ったから…。君がいつも僕の帰りをこの家で待っていてくれる事に僕はもうずっと前から安心してしまっていた。君といるといつも楽しくてこのままずっとここにいてくれたらと願うようになってしまった。

ごめん、僕は君にここから出て行ってほしくない。僕のそばにこれからもずっといてほしいんだ…ダメかな…」


「君の名前もまだ分からないけど今まで一緒に生活してきて君がどんな女性か知っていって、困った事にどうやら僕は君を好きになってしまったようなんだ。たとえこの先記憶が戻らなくても失った記憶の代わりにはならないかもしれないけど僕はずっと君のそばにいたい」


 彼の真っすぐな言葉に私は短い返事をした。


「…はい…。私もあなたが好きでした…」


 私は彼の真剣で誠実な言葉が嬉しくて自分の気持ちを打ち明けてしまった。

 それにすぐに気が付きもうどうしていいのか分からなくなって真っ赤になって噴いてしまった。

 ふと彼が私の座っていたダイニングテーブルの長椅子にきて私の隣に座るとそっと私の手を握る。


「ありがとう。同じ気持ちでいてくれてすごく嬉しい」


 そういう彼も顔を真っ赤にして涙目になっていた。


 この日から私と彼の関係は同居人から恋人に代わった。


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