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フローラの話3


 意識が戻るまでずっと寝たきりの生活だった。 

 そのため筋力と体力がかなり落ちていた。一度無理にベッドから降りようとした時、足が体を支えられずそのままベッドから転がり落ちてしまった。あわてて部屋に駆け付けたルルドが助けてくれて事なきを得たが早く日常生活に戻れるように今から少しずつリハビリを始めようと思う。

 リハビリの前に念入りに足の筋肉をマッサージする。その後ベッドの脇から少しずつ足を下ろし立ってみるがやはり力が入らない。ちょうど食事を運んできたルルドが肩をかしてくれて何とか数歩あるくことに成功した。


「これからは僕もリハビリを手伝うよ。無理しないでゆっくりやっていこうね」


 そういうと私にやさしく微笑む。


 私をここへ運んで治療してくれた日からどれだけ私は彼に世話をかけているんだろう。

 ルルドには感謝しかなかった。


 彼の家は古い木造の平屋で私が今いる寝室と続き間になっている居間とキッチンその横に伸びる廊下の先に風呂場とトイレが付いている。他に部屋はないようなのでルルドは居間のソファーでいつも寝ているようだった。

 ベッドを占領している事に申し訳ない気持ちになる。


 数日してやっとルルドの支え無しでも歩けるようになった。喉が渇いたので空になった水差しに水をもらいに行こうと寝室のドアを開けて居間に入りキッチンに向かう。

 改めて居間を見ると広い部屋の壁一面に沢山の本と乾燥した植物の入った瓶がずらりとならんでおり机には開きっぱなしになった大量の古い本とすり鉢、ビーカーが乱雑に置いてあった。何かの研究でもしているかのような様子だったが私はその部屋の様子をどこかで見た事がある気がした。

 真剣に思い出そうとしてもモヤがかかったようでどうしても思い出せない。

 どこで見たんだろう。こめかみに人差し指を当てて考えこんでいると玄関から黒いフードを被ったルルドが部屋に入ってきた。


「どうしたの?何か考えごと?」


 そういうと彼は私が手に持っていた空の水差しを見つめた。


「あっ僕の事探してた?水だね。今入れるね」


 彼は私から手差しを受け取るとすぐに容器に水を入れてくれた。

 水差しを受け取る際に彼が机に置いた大きな籠には沢山の植物が入っていた。


「ああ。これ気になる?今この先の原っぱで薬草を取ってきたんだよ」


 そういうと彼は再び籠を手に持ち中身の薬草を私に見せながら言った。

 そういって薬草が沢山はいった籠を本が積まれた机に置きフードを脱ぐ。


「薬草?何に使うんですか?あなたは治療師で光魔法が使えるじゃないですか」


 光魔法で治療が行えるこの世界で薬草なんて必要なんだろうかと疑問に思った。


「固い言葉はつかわなくてもいいよ。普通に話してくれたら嬉しい。ついでにルルドって呼んでくれたらもっと嬉しいな。光魔法以外で病気やケガを治せる方法を研究しているんだよ。万が一光魔法が使えなくなるときに備えて」


 私は彼の言葉に耳を疑った。光魔法が使えなくなるなんて考えもしていなかったからだ。ルルドはどうしてそんな事を考えたのだろう。


「えっいつか光魔法が使えなくなるの?」


 どう説明したらいいのか困っているのか彼はしばらく考えて答える。


「君はこの世界のあらゆる所にいる光の精霊の存在に気が付いている?」


「いえ、私は魔力持ちではないので精霊の気配は分からないわ」


「そうか。聖女になった一人の女性が王太子妃になったその時から精霊達の様子がおかしいんだ。君は覚えていないと思うけど半年前国を挙げて盛大に王太子とその聖女が挙式をしたんだよ」


 そういう彼の表情はいつも穏やかな性格の彼にしては珍しく硬い。


「精霊達から借りている光の魔法で僕ら治療師は治療魔法を使えるんだけどその魔法の効力が落ちているんだ」


「だからもう魔法に治療を頼るのは危険な気がして。それに治療師は数が少ないんだ。この辺りみたいな辺境の村まで治療師が来ないから病気やケガをしている人が多いんだ。だから僕がたくさんの人に平等に使ってもらえるようにここで薬の研究をしている。貴重な薬草もこのあたりには多いからここに住んでるんだよ」


「麓の村で治療もするの?」


「そうだね、ここに来てもらうには色々危険だから僕から定期的に村に足を運んでるよ。緊急の時は伝言を付けた鳥を飛ばしてもらっているよ。食生活も病気の予防に大事だから指導もしているよ」


 ルルドは魔法使いでお医者さんなんだ…。魔法使いのお医者さん?

 今何か少し思い出した気がした。たしか誰かの大切な夢だった。


 誰?どんな人だった?私は自分に必死に自問していた。

 ぼんやりしたシルエットしか浮かばない。

 誰?あぁダメだ頭が痛い。ガンガンする頭を両手で抱え込み私はその場に崩れ落ちた。


「ちょっと君!大丈夫!?」


 ルルドの声が遠くに聞こえて私は意識を手放した。


 目が覚めると心配そうに私を見つめるルルドの姿があった。


「あぁ良かった!目を覚ましてくれた」


 気が付くと私は寝室のベッドの上にいた。部屋が自然光で明るいことから倒れてから少しの時間しかたっていないようだ。少し涙目になっていたルルドを見てまたもや彼を心配させてしまったと申し訳なく思う。


 この人はどうしてこんなに人が良いんだろう。こんな正体の分からない怪しい自分にこんなに親身になって心配してくれる。その上記憶喪失の訳の分からない女なんて厄介でしかないだろうに…。


「ありがとうルルド。もう大丈夫みたい。心配かけてごめんなさい」


 そういうと私はなんだか外の景色を見たくなって窓を開けて外を見てみた。

 意外な事に森の奥は深く暗いものだと思っていたが暖かい陽が差し込み色とりどりの花が咲き誇る綺麗な場所だった。木の葉が風に揺らされて葉擦れの心地いい音が聞こえる。


「外の景色、意外に綺麗でしょう?」

 いつの間にか隣にやってきた彼は私と一緒に窓の外を眺めていた。さらさらとした銀髪が風に揺れて綺麗な横顔が穏やかに笑う。ルルドの隣は心地いい。私はこの時間がずっと続くことを密かに願ってしまうのだった。



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