マリアの話2
学園入学当初、私はシナリオと違うイレギュラーな展開にかなり焦っていた。
その上、孤児院出身という事で貴族令嬢達に囲まれては生意気だとか平民のくせになど寄ってたかって執拗な嫌味や悪口を言われたりしていた。しかし私はそんな事はすでに慣れていたので気にもしていなかったがいつまでも平然としている私の態度が気に入らなかったのか、ある時取り囲んでいた令嬢の一人が私の髪を思い切り掴んでハサミで切り刻もうとしたのだった。
さすがにそれには少し焦ったがなんとあのソフィアが割って入ってきて間一髪のところで私の髪は無事だった。しかし私は当て馬の分際でしゃしゃり出てきたソフィアに内心悪態をついていた。
その後令嬢達の嫌がらせは収まらず今度は教科書やノートなどを隠されるようになった。平民出身の私と授業中一緒に教科書を見てくれる心優しい令嬢子息は両隣の席にいる訳がなく私は見つかるまで懸命に探し続けていた。しかしここでもソフィアが懸命に探し物をしている私の姿を見つけて一緒に探すようになった。
無能な当て馬のくせにとやはり内心ソフィアに対して憎い気持ちがこみ上げる。
しかも私が一番気に入らないのはクラスの人気者でアランの友人でもあるカルロスがソフィアに好意をもっている事に気が付いたからだ。私は余計腹がたった。
カルロスは前世で私をこっぴどく振った男によく似ていた。性格もクラスのポジションも容姿も。それまで私は振られた事がなかったのでそれはもう屈辱的な出来事だった
そんな私に屈辱を与えたあの男に似ている彼を虜にして散々もて遊んでやろうと思っていたのだ。しかし彼は私の事を気にする事はなくいつもソフィアを目で追っている。なんでそんな何の取りえもない女がいいのか意味が分からなかった。ソフィアは当て馬役なだけあって容姿は抜群に良いがそれ以外は絶対に認めたくなかった。
しかしそんな屈辱的な生活から魅了の魔法を手に入れてようやく脱する事ができたのだ。
遅れていた好感度の獲得も順調にいっていた。
私はまず難易度の低いルルドとロイドを後回しにしてアルフォンス、アラン、オズワルドの3人に集中して攻略を行うことにした。
当初は私に全く興味がなかった3人は徐々に魅了の効果が表れはじめ私を意識するようになっていった。 3人で私を囲みそれぞれが少しでも私の気を引こうと必死な姿をみるのはとても気分が良かった。
相変わらず嫌がらせをしてくる令嬢達は彼女達の婚約者達を次々魅了して婚約破棄をさせたり悪い噂を流しては評判を落とし貴族世界で生きていけないほどにしてやった。
今頃彼女達はどこかの娼館で働いているか修道院に入れられているだろう。いい気味だ。
魅了の力はモブキャラにはとても効果があった。だからカルロスも簡単に落ちると思っていたが以外に難しかった。結局二人っきりになる機会がほとんど狙えずいつも後少しの所で魅了の術を掛ける事に失敗していた。
カルロスでなくてもイケメンはいるしなんといっても私には次元の違う超美形の攻略対象者達がいた。
今はモブより手強いこちらの3人を何とか間に合わせなければならない。
3人の攻略をメインにしてモブキャラは裏ルートで楽しもうと今の目的をはっきり定める。
一番最初に落ちたのはオズワルドだった。
知的で非常に頭のいい彼はモスグリーンの髪色でいつも気難しそうな印象の細い眼鏡をかけている。
将来自身の父の後を継ぐためいつも難しい内容の本を読んでいた。こちらも攻略対象者なだけあって非常に美形だ。
冷酷そうにみえて意外に婚約者のフローラを大事にしていた。頭の良さもあってゲーム上攻略が一番難しいキャラだった。しかしさすが魅了の魔法の力である。一週間もすれば態度が明らかに分かるくらい私に柔らかい表情をするようになった。
そうしてアルフォンスとアランも徐々に私の手の中に落ちていく。なんて気分がいいのだろう。
あのソフィアが私とアランの仲を見て泣いている。その姿を見てもっとズタズタに心を引き裂いて泣かせてみたくなった。
ソフィアが見ている前でアランに抱き着きキスをねだってみた。しかしどうしてだろう、彼はかたくなに私の願いを拒んだのだ。意味が分からなかった。他の男はすぐに私の誘いに乗るのに。その先だって。
私は堅物で真面目というアランの性格を忘れていた。思いがしっかり通じあって結婚するまでは私には何もしないと言ってきたのだ。正直つまらなかった。ソフィアをこれ以上泣かす事が出来ないしアランを堪能する事もできない。
まぁいい。アルフォンスで楽しもう。私はすぐに思考を切り替えた。
しかしソフィアのようにアルフォンスを取られたロレインは全く涙を見せなかった。完全に私をスルーしたのだ。つまらない。もっと感情を表にだしてくれれば楽しいのに。
元々抜群にいい容姿と頭の良さで私はロレインが少し苦手だった。しかしそんな彼女が悔しがったり悲しむ姿を一度見てみたかった。きっとすごく楽しいだろう。どうして私を相手にしないのだろう。思い通りにいかない事だらけで私はイライラしていた。
ふと太陽の石を首から下がっている袋からだして手に取って見てみた。ピーター君に貰ったあの時はキラキラと光り輝いていたが今はその輝きを失ったように見えた。その時の私はそんな石の変化など気にも留めなかった。
後にして思えばこの時もう少し気にするべきだったのだ。私はこの時の自分の行動を心の底からひどく後悔するはめになる。なぜ気がつかなかったのだろう。太陽の石は諸刃の剣にもなるという事を。
なぜもう少し疑わなかったのだろう。あの時会ったピーター君は本物だったのかということを。
イレギュラーな出来事や突然の幸運な出来事の裏にはもしかしたらとんでもない罠があるのかもしれないという事を…。