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お世話係を始めた頃はまだ新緑の季節だったが庭の木々も暖かい陽気で青々と茂り日に日に暑さが増していく。しかし今日はあいにく雨のため外で体を動かす遊びが出来ない。そこで私は室内で出来る遊びを考えてみた。
前世で私は雨の日に子供と何をして遊んでいたのか思い出してみようとした。
ふと離宮にあるエルトシャンのこの部屋はなんて広いんだろうとつくづく思う。軽く大人数で何かの宴会が出来るくらいの広さはある。
この広さを利用して何か出来ないだろうか。
何気なく見た机の上に長方形の白い紙が一枚ある事に気がついた。何の変哲もない紙だった。
カインさんに使っていいのか聞くと問題ないようなのでついでにあと何枚かほしいとお願いをした。
彼はすぐに紙を用意してくれた。
その長方形の白い紙を目の前に置いておもむろに紙を折ると紙飛行機ができた。折っているうちにだんだんと記憶が蘇る。前世で自分は幼い頃近所の男の子たちと競うように長く飛ぶ紙飛行機を作っていたことを思い出した。友達同士アイディアを出し合いよく飛ぶ紙飛行機を作ることに凝っていた。それをみんなで飛ばしてよく飛距離を競いあっては遊んでいた。
出来上がった紙飛行機を早速飛ばしてみると真っすぐにスーっと飛んでいった。その様子を子供達が目を輝かせて見ていて、珍しくアルヴィスが一番に声をかけてきた。
「母様!なにそれ!すごい!やってみたい!」
そうして作り方を教えながら子供達3人に作ってあげると彼らは目をキラキラさせてその紙飛行機を見ていた。
子供達の後ろにいたカインさんもよく観察するように紙飛行機をじっと見ている。
「ソフィア様、それはなんですか?」
紙飛行機をじっと見ながらカインさんが不思議そうに質問してくる。
この世界に飛行機は存在しないので説明に困ってしまう。
「えーと。鳥…です!翼があるでしょう?鳥に似せてみました」
咄嗟に思いつきで鳥だと説明をした。
「なるほど、鳥なんですね」
その説明に納得してくれたようで感心したように彼は再びその紙飛行機を眺めていた。
しかしその後驚く事に彼はあっという間に作り方を覚えてしまいしかも第一作目にしてよく飛ぶ細工も加えながら紙飛行機を完成させてしまったのだった。しかもいざ飛ばしてみると飛距離も長い。
ひょっとして紙飛行機を知っているのだろうか?
私は驚いてカインさんが作ったその紙飛行機を見つめた。
「カインのはすごいね!」
ユリウスは驚きと羨望のまなざしでカインさんをみていた。その様子に彼は困ったように照れている。
子供達は最初上手く紙が折れていないせいできちんと飛ばなかったりきちんと折って仕上げても飛ばす方法が下手で飛ばなかったり苦労していた。しかし時間が経つにつれ彼らもだんだんコツをみつけて上手くなっていった。
一番うまく長く飛ばす事ができたのはエルトシャンでアルヴィスとユリウスは終始悔しがっていた。
そのうち子供達は紙飛行機の見た目や形にもこだわるようになってきて私は色々なタイプの紙飛行機を作って見せてみるとこれまた目をキラキラさせてそれらを手に取ってじっと見ていた。
幼い頃の私は飛距離とともに飛行機の見た目のかっこ良さにもこだわって作る事に凝っていたのでさっき子供達に作ってあげたその紙飛行機はそれはもう素晴らしく見た目が良い飛行機に仕上がっていた。
そしてその素晴らしくカッコいいそれはもう鳥には到底見えなくなっていた。
それはもう堂々とした飛行機だった。
「母様これは本当に鳥なの?」
アルヴィスが私が今一番聞いてほしくない質問をぶつけてきたので私はもう開き直ることにした。
「これは空を飛ぶ乗り物よ!」
そう堂々と言い放つと意外に突っ込んで質問してくる訳ではなく子供達から純粋に称賛の声をもらえた。
それから彼らは紙飛行機を改良するともっと飛ぶ事を知り真剣に思い思いに改良をくわえ気が付けば紙飛行機大会が始まっていた。
部屋では飽き足らずに長い空間がある廊下でやり始めてしまったので私は慌てて部屋に戻るように言おうとしたが賑やかな声につられてロレインがそこにやってきた。
「あら、随分楽しそうね。何をしているの?」
そういうと紙飛行機を手に取って見てロレインも廊下でエルトシャンに教わりながら飛行機を作りだして一緒になって飛ばし始めてしまった。
こうして離宮の廊下で離宮の主の許しのもと近くにいた兵士やメイドも巻き込んで盛大な紙飛行機大会が始まってしまった。
「ソフィア楽しいわね。なんだか子供の頃に戻ったみたいだわ」
そういったロレインは心から楽しそうだった。そしてなにやら日頃のストレスを紙飛行機にぶつけているようだ。
「アルフォンスの大馬鹿糞野郎がー!!こっちに仕事振ってくるなー!!」
そう思いっきり叫んで紙飛行機を飛ばすとものすごい飛距離をたたき出した。
大会の結果意外にも飛距離の記録を作り優勝したのは子供達でもなくカインさんでもなくロレインだった。
そうして雨の日は賑やかに過ぎて行った。