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フローラの話2


  額の上に心地良い感触を感じて私はゆっくりと目を開ける。

 ここはどこだろう。仰向けに横たわっている私の目線の先に民家の天井が見えた。私はどこかの家のベッドの上にいるようだ。

 私は森の奥で食べられそうな木の実を見つけて無理に採ろうとしたところ崖から落ちた。それから全身が痛くて動けなくなって…。その後はどうしたのだろう。確か誰かがこちらに近づいてきたのは覚えている。ふと横を向けば銀髪の青年が意識を集中させているせいか目を閉じながら私の額に手をあてていた。その手の平からは心地よい不思議な気を感じる。

 一通り気を流し終えたのか青年は瞼を開き意識がある私を見て驚いた顔をした。


「やっと意識が戻ったんだね!良かった。これで一安心だよ。かなり衰弱していたからすごく心配していたんだよ。ちなみにここは僕の家だから安心してね」


 どうやらあの時最後に見たこの青年が瀕死状態だった私を自分の家まで運んで手当をしてくれたようだった。


「ありがとう。手当をしてくれたんですね。命拾いしました」


 私はそういうと体を起こして改めてお礼を言おうとしたがうまく体を動かすことができなかった。


「いいから急に起きないで。君、あちこちひどいケガだらけでおまけに骨折もしていたんだよ。治療魔法で一通り治したけど状態がひどくてケガを治すのに時間がかかってしまってずっと寝たきりだったんだよ。だから急に動くと体に悪いよ。そうだ、ちょっと待ってて」


 そういって私に優しく笑いかけると部屋を出て行ってしまった。


 私は彼の言葉に驚いていた。私はどうやらかなり重体だったらしい。とりあえず、すぐに確認できる腕を見ると森を全力で走った時木の枝で引っ掛けた深い切り傷は綺麗に治っていた。どうやら彼は本当に治療師をしているようだ。

 でも何故貴重な治療師がこんな人気のない森の奥に住んでいるのだろうか。


 ドアのノックの音がして彼が再び部屋に戻ってきた。手にもったトレーには湯気の立つスープが入った皿とスプーンが置かれていた。


「目が覚めたらお腹が空いたでしょう」


 そういってベッドの横のサイドテーブルにひとまずそのトレーを置くと私の上体をゆっくり起こしてくれた。上体が起きると今度は私のすぐ横に丸椅子を持ってきて座りスープをすくったスプーンを私の口の前に差し出してきた。


 食べさせてくれるのだろうか。いや、しかし美青年にしかも彼の家のベッドでこのシチュエーションはかなり照れる。どうしよう…とても恥ずかしい…。そう思って躊躇していると彼はにっこり笑っていった。


「はい。口開けて。あーんしてね。しっかり食べないとダメだよ」


 私は真っ赤になりながら彼に大人しく従った。恥ずかしさをなんとか押し殺し食べさせてもらう。


 そうしていつぶりか分からない食事でお腹が満たされると少し落ち着きを取り戻した。

 冷静な頭でふと自分の体を見ると綺麗な服に着替えていた事に気が付いた。足の泥の汚れも綺麗になっていた。


「あ…あのー。着替えさせてくれたんですか?」


 そういった私の質問に彼は焦って弁解を始める。


「いやっ、その…服がボロボロで泥だらけだったから…ドレスもウエストが絞られていて治療するは体にも良くないし…。脱がせて代わりに僕の服を着せました…。あの…極力見ない様に気を付けたんだけど女性の服なんて脱がした事ないしその上ドレスって脱がせるのが難しくて…。傷にばい菌が入ると良くないからタオルで体も拭きました…。でっでも!決してやましい事はなにもしてないから!なんならもう好きなだけ殴ってください…。ごめんなさい…。」


 真っ赤になりながらチグハグになって一生懸命説明を始めた彼の姿がおかしくてつい笑ってしまった。


「はい、あなたは信用できる人だと思うので大丈夫です。必要な処置をしてもらって逆にありがとうございました。感謝しても感謝しきれないわ」


 私は心からそう思い彼にお礼を言った。

 改めて自分の今着ている服を見ると綿の白いシャツは大きくてブカブカだった。


「君を助けられて良かったよ。でもどうしてこんな森の奥に一人でいたの?他に一緒にいた人はいないの?この森は危ないのに。狼や人攫いだっているんだから」


 はい、一通り会いましたよ。なんていったらまた驚きそうなのでそこは触れなかった。


「実は何も分からないの…。馬車でここまで連れてこられてこの森に一人で置き去りにされたときから私には記憶が何もないの。自分が誰なのかどこから来たのかまったく分からないのよ…」


 そういってまた記憶がない事に恐怖を感じ自分で自分を抱きしめていた。


「そうか…。君は記憶を失ってしまったんだね。それは今まで一人で怖かったね。もう大丈夫。ここは安全だから」


 そういって彼は私の腕を優しくさすってくれた。


「じゃあさ、君が記憶を取り戻すまでここで一緒に住もうよ。あっ、もちろんやましい事は一切しないから信用して。そういえばまだ名乗ってなかったね。僕はルルドだよ。ルルドって呼んで。改めてよろしくね」


 ルルドはにっこり笑って私にそう言った。


 彼のその言葉に私は心から感謝した。彼という味方ができた事を心強く思えてこれから前を向いて頑張っていこうと思った。でもどうしたら記憶を取り戻せるのかまったくわからない。しかし彼に長く迷惑をかける訳にはいかない。そのためには一日でも早く記憶を取り戻さなければと思った。






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