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フローラの話

 この森に置き去りにされてからどれくらい歩いただろう。私はあてもなく歩き続けていた。

 どうしてここに連れてこられたのか、ここが何処だか、自分が誰なのかも分からない。

 分からない事だらけで頭の中が混乱していた。分かっている事といえば自分が女性だという事と緋色の髪だという事。

 鏡がないのでどんな顔をしているのかも分からない。


 一人きりでこの森を彷徨っている事より自分が何者なのか分からない事の方がよほど恐ろしく感じた。 

 このままこの森を彷徨い続け何も分からないうちに死んでいくのかもしれない。


 夜になり日が落ちるとさらに気温が下がり体が冷えていく。運が良い事に洞穴を見つけて入ると少し暖かかった。

 

 私は豪華なドレス姿でヒールが高い白い革靴を履いていたが既にヒールは折れ綺麗な白い色は泥で汚れていた。

 あまりに今の自分がこの森を歩き回るには相応しくない恰好をしている事が少し可笑しかった。そうして一人で笑ったら少し冷静さを取り戻す事が出来るようになった。


 まずこの森から出なければいけない。そして人を探して助けてもらおう。

 生きていく気力が少しだけ沸いた。ひとまず今日はもう寝て、ゆっくり体を休めよう。 

 明日すっきりした頭でどうしたらこの森から出られるのかゆっくり考えてみよう。そうして私は目を閉じた。


 翌日気持ちが切り替わったせいかスッキリした意識で目が覚めた。

 さて、まず何をしたらいいだろう。

 そう考えだした矢先、洞穴の奥からうなり声が聞こえた。

 何かいる……。私は息を飲んだ。音を立てないように洞窟の奥に意識を集中させると暗闇から二つの光る目が此方を見ている事に気が付いた。


 私は静かに後ずさりをしてその洞穴から出るとその場から逃げるように走り去った。しかしその瞬間何かに躓いてバランスを崩し倒れてしまう。咄嗟に倒れた事で受け身が取れず全身を叩きつけた衝撃で痛みが走る。

 その痛みで動けないでいると背後からゆっくりこちらに近づいてくる気配に気が付き恐怖でまた動けなくくなる。

 四本脚で地面を歩くそれは巨大な狼だった。


 あぁもう終わりだ。そう思った瞬間狼が牙をむき出しにしながらこちらに走ってくる。そして仰向けになった私を前足で押さえつけた。

 鋭い牙で切り裂こうとした瞬間突然狼が私の視界から消え去った。

 何が起こったのか訳が分からなかったが体を起こしてみるとすぐ隣で狼の動かない体が横たわっていた。


 とりあえず危機を脱したようで安心していると今度は遠くで声が聞こえる。


「おい、あそこに女がいるぞ!しかも若い女で上物そうだ!捕まえるぞ」


 数人の屈強な男達がこちらに近づいてくる。

 なんということだろう今度は人攫いのようだ。このままでは死んだ方がはるかにましだと思える事態が起こる。

 私はすぐに立ち上がり無我夢中で走り出した。もう靴も邪魔で脱ぎ捨てた。


 私は足の痛さも感じないほど夢中で逃げ続けた。どうやら私の足はかなり速いようだ。


 男達を何とか振り切るとさらに森の奥まで踏み込んでいた事に気が付いた。目の前にはいっそう鬱蒼とした森が広がっている。

 ここでようやく痛みで足にケガをそしている事に気が付いた。私は邪魔な長いドレスを太ももまで裂くとさらにそれを細く裂いて足の傷に巻き付けた。これで痛みも軽くなったし何より動きやすい。


 少し先を歩くと泉にでた。ここへ来てから何も口にしていなかった私は夢中でその水を飲んだ。のどの渇きと少しの空腹が収まると少し安心できた。


 そうして、少し冷静になった頭でこれからの事を考えてみる。

 余計に森の奥まで来てしまって、ますますここから出る事が困難になった。その上さっきの人攫いの様に危険な人間もウロウロしているようだ。私は一体どうしたらいいのだろうと途方に暮れる。


 ひとまず何か食べようと思い、食べられそうな物を探しに歩く。

 しばらく歩くと一本の木に果物らしいものがなっているのが目に入ったが困った事に崖に突き出した枝にその実はなっていた。


 あれをどうにか取れないか必死にその木に登りその枝の実に手を伸ばす。もう少しで手が届きそうだと思い懸命に手を伸ばすとようやくその実に手が届いた。しかしその瞬間枝が折れ私はそのまま崖から落下したのだった。


 痛くて動けない。

 おまけに頭も打ったようで意識が朦朧とする。あぁもう本当に私は死ぬのかもしれない。

 そう思いかけた時遠くから足音が聞こえた。私はまた人攫いかと思い警戒をしたが、もう死にそうな人間を攫っても得にはならないだろうと思いなおし半ば開き直ってその人物が近づいてくるのを待っていた。


 途中から慌てたように走って来る足音が聞こえる。そうして私に近づき声をかけてきた。


「ねぇ!君大丈夫!?」


 心配そうに私をのぞき込む。

 真っ黒のフードから銀髪の髪の美男子が見えて私は意識を失った。


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