アルフォンスの話2
3週間の旅行も、もう半分が過ぎた。その間に私達は色々な街に行き、たくさんの美しい風景を見た。
どの場所も初めて目にするものばかりで物珍しく素晴らしかった。
今回の旅行には在学中執拗にマリアに言い寄っていたアランは護衛として同行していない。そのことが私をとても安心させた。
マリアは当初アランに心を傾けそうになっていたので奴は他の男達よりも強力なライバルだったのだ。
そんなアランも近々行われる自身の結婚式の準備で忙しい様子だったので今回は護衛を外したのだ。
奴はあれでもドリュバード家の嫡男なのだから式の規模も大きいのだ。
港がある海岸沿いの街は貿易が盛んでとても活気があった。そこには様々なものが売られており、マリアは煌びやかでめずらしい装飾品をよく私にねだった。かわいいマリアの為ならいくつでも買ってあげたい。
夜になるとマリアに子供の件を再三にわたり説得してみたがどうしても嫌だと言って、しまいには不機嫌になってしまった。私は慌ててマリアの機嫌を直す事に必死になった。
そのうち不機嫌だった顔が突然ぱっと明るくなり、マリアはある提案をしてきた。
「そうだわ!アル、私にいい考えがあるの。ロレインにアルの他の王族と子供を作ってもらえばいいのよ。
王家の血が入っていれば問題ないんじゃないかしら」
マリアが思ってもいない事を言い出したので私は内心とても驚いた。
そんな事は考えもしていなかったからだ。
無事に婚姻旅行から帰ると私は自身の跡継ぎ問題について深く考えてみた。
まさかマリアが子供を産みたくないと言うとは思ってもいなかった。彼女との子供はきっと想像以上に可愛い事だろう。だから正直その子供を見る事ができないことにひどく落胆した。なにより自分の子供を見てみたかった。
マリアはロレインに王族の誰かと子供を作ってもらったらどうだと言った。
ドリュバード家の血さえあれば相手が王族の誰かでも、かなり問題もあるが跡継ぎにできるはずだが…。
それよりもあの美貌で完璧なスタイルのロレインが誰かの手によって汚されるのはとても嫌だった。
彼女は僕のものだという勝手な独占欲が生まれる。
もちろんマリアは愛している。とても愛しいと思うがロレインに向ける独占欲がどんな感情なのかよく分からなかった。ただロレインが他の男に抱かれているところを想像すると胸をかきむしりたくなるほどの嫌悪を覚えた。やはり彼女は誰にも渡したくない。
あの美貌だ、騎士や従者のような周りの男どもが彼女で想像して邪な事を考えているかもしれないと思うとひどく怒りを覚える。
自らロレインと子供をもうけようか…。そんな考えが頭をよぎる。
私は将来の王として子供が必要だ。マリアを裏切るわけではない。自分に必死に言い訳をしている事に気が付かなかった。
そして私は決意する。ロレインの純潔を奪う事を。
従者にロレインへ今晩訪問する事を伝えてもらう。
今夜決行しようと思う。
そして夜になりマリアには適当に理由をつけてロレインの寝室に向かう。
彼女の部屋のドアの前にたってノックをしようとした時頭の中で声がした。
『ねぇ お前はこれから何をしようとしているの?ロレインを汚すの?裏切って彼女の手を離して暗闇に置きざりにしたお前が?あの汚らわしい女に毎晩触れているその汚れた手で彼女に触れるの?彼女の悲しみや苦しみも全部知らないふりをしたくせに。そんな事ゆるさない……ゆるさないよ…』
頭の中で声が響き続けた。そのうち意識がどんどん他の何かに支配されていくような不思議な感覚を覚えてその場に立ち尽くしていた。




