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陣痛が始まる。


 最初はだいたい10分置きに1分間の陣痛から始まり徐々にその間隔は短くなる。この過程を半日経て体がいよいよ出産準備に入るのだ。


 そうしていよいよ本陣痛が始まる。


 波の様に引いては押し寄せる陣痛は引いている間は嘘のように痛みが引くが陣痛中は耐えがたいほどの激痛を伴う。その激痛の最中に精一杯力む事で少しずつ胎児が下に下がって来るのだ。

 それをどれくらい繰り返したのかもう分からない。次の陣痛がくるのが怖い。心が恐怖に支配されそうになり、何度心が折れそうになったか分からない。

 しかし誰も助けてくれない。自分の気力だけでやりきらないといけないのだ。

 それでも陣痛から丸一日かかりやっとの思いで無事に出産を終える事ができた。


 心身ともに疲れ果てボロボロだったが生まれたてのわが子を胸にだくと自然と涙がこぼれおちた。

 産まれてきてくれてありがとう。そう何度も心の中で呟いた。この子たちの成長を糧にこれから生きていこうと強く心に誓った。


 産まれた子供は二人とも男の子だった。一卵性なのか二卵性なのか産まれたてなのでまだよく分からない。しかしとても可愛い事に間違いはなかった。

 幸いにも二人ともドリュバード家特有の藍色の髪の色で生まれてきてくれて一安心だった。

 やましい事など微塵もないが万が一、隔世遺伝や私の家系の髪の色で生まれていればこの子たちの処遇が心配でならなかった。



 ほどなくして両家の両親が駆け付けた。4人とも私が産気づいてから休む事なくずっと控えていたようだった。

 特に私の母は私と子供の元気な姿を見ると声をだして泣き出したのでアランの母に抱きしめられ、なだめられていた。

 父もその目にじんわりと涙を浮かべアランの父と孫が出来た喜びを分かち合っていた。

 アランの件で亀裂が入り始めていた両家だが子供の誕生で今だけはみな幸せな空気に包まれていた。


 貴族世界では子育てを乳母と呼ばれる人に任せるのが一般的だ。


 私は出産前にアランの暴言で意識を飛ばした事で両家の話し合いの末、処罰をアランに受けさせる事と私に対する謝罪として特権が与えられることになった。


 その特権の一つとして子育てはソフィアに全て委ねることとあった。


 私は当然育児を自ら行う事を決めた。ただし双子なので経産婦でもあるベルカに手助けをしてもらいながら行う事になった。

 それだけしっかりと取り決めると丸一日出産に立ち向かったボロボロの体の私は泥のように眠ったのだった。


 翌日、疲れもとれスッキリした意識で目が覚める。治療師に出産時の傷も治療してもらったので難なく歩く事が出来た。この時までこんなに治療魔法が素晴らしいと思ったことは無かった。


 昨晩だけは子供達をベルカに預けてゆっくり休んだが早速今から育児が始まる。新生児の世話は大変だがその分喜びも多い。

 子供の名前は出産が分かった時点で胃に穴が空くほど懸命に考えていた。おくるみで首を支えながら二人を両腕に抱き顔を見ているとこれらの名前が一番ぴったり合うように思った。


 長男がアルヴィス、次男はユリウスに決定した。


 ベルカにその事を伝える。


「えぇ。とても良いお名前ですね。お二人にぴったりだと思います。」


 そう言って喜んでくれた。

 

 ほどなくしてやってきたロディさんにもその事を伝えると彼もまた喜んでくれた。


 ここで私は気が付く、昨日子供が無事に産まれてからずっと廊下を行ったり来たりしている人物がいる事を。


「ソフィア様、ご気分を害されるかもしれませんが昨日からずっと廊下を行ったり来たりしているあの人物はどのようにしたらよろしいでしょうか」


 そうロディさんは苦虫を嚙みつぶしたような顔で訪ねてきた。


 私はここで処罰の第1項目を発動した。


「かしこまりました。取り押さえてつまみ出しますね」


 そういってロディさんはにっこり微笑んだ。


 処罰 1項目、ソフィアの許しがない限りソフィアとその子供達に接近する事を禁止する。これをやぶれば直ちに取り押さえ連行する事。


 しかし彼は懲りる事なくそれから何日も部屋の前を行ったり来たりしていた。


 私もいい加減にうっとおしくなり面会を受け入れた。


 険しい目つきのベルカとロディさんにがっちりと両脇を固められアランがこちらに歩いてくる。


 あぁ…アラン、なにかこう……まるで囚人みたいだわ…。

 さしずめベルカとロディさんは看守のように見える。


 「そ…ソフィア。無事で良かった。子供達を産んでくれてありがとう」

 前のような威圧的な態度とは逆に少しおどおどした様子でそう言ってきた。


 この屋敷で一番最後にやっと我が子と面会できた彼は二人を抱いて何か感慨に浸っている様子でとても感動しているように見えた。

 しかし時間になりアランは無情にもロディさんに子供達を取り上げられる。


「ロディ、頼む!もう少しだけ子供達を見ていたい。お前は父親ではないだろう!」


 アランは悲痛な声を上げる。


 「アラン様お言葉ですが私は気持ちはもう十分に父親です。心配ですのでこれでおしまいです」


 そうロディさんは無表情でアランに言い放った。


 「俺はこの子達の父親だぞ!」


 アランの悲痛な声が響き渡った。


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