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ロレインの話


 朝から立て込んでいた執務を終え一息ついていた。

 側妃として王宮入りした私と入れ替わりに昨日からアルフォンスとマリアが婚姻休暇に出かけていた。

 アルフォンスの代わりに彼の執務もこなさなくてはいけないのでいつもの倍忙しい。


 窓ガラスに打ち付ける音で雨が降っていた事に気が付く。


 窓の向こうのどんよりした灰色の空を眺めながら私はあの日の事を思い出していた。


 私には生まれる前から決められていた婚約者がいた。何故生まれる前から決められていたのか知らない。 私の立場を代われる令嬢が他にいない事から私の身体は丁重に扱われ自宅の敷地から出る事を禁じられていた。そのため自宅以外の場所に行った事が無かった。


 幼い頃から本を読むのが好きで特に冒険物語が大好きだった。

 本に出てくる、行ったことがない様々な土地や街、魔物がいる洞窟など想像してわくわくしながら読みふけっていた。私もいつかこんな街に行ってみたい。あの花の匂いはどんなだろう、洞窟のゴツゴツした壁はどんな感触だろう。やがて想像する事より実際体験したくて仕方なかった。


 しかし自分の立場ではそんな自由が許されない事に衝撃を受け落胆した。どんなに望んでも出る事が出来ない見えない檻に入れられているようなそんな感覚だった。


 そのうち私はどうしたら決められた人生を変えてここから出られるのか考えるようになった。

 そうして出した答えを私は実行し始めた。

 まず男の子のような振る舞いをして一人称も私から僕に変えた。

 いつも悪戯をしては周りの大人を困らせてみた。


 『こんな粗暴な子供など王子の婚約者として相応しくないでしょ?』


 そう大人に見せつけるように振舞った。

 しかし生まれる前から決められた事は決して覆らなかった。私はほどなくして王妃教育を受けるため王宮に入れられた。

 王宮に入れられてからますます自由が利かなくなった。それでも私は態度を改めなかった。

 どんなに男の子のような話し方をしても周りの大人に悪戯をしても何も変わらなかった。

 壊そうとしても壊れない壁に私は無力を感じていた。


 そうして素行の悪い私は王宮内で周りから隠すようにひっそりと王妃教育を受けさせられるようになった。

 だから私の存在は一部の人間しか知らないし、お茶会に参加する事もなく、婚約者にも会った事がなかった。

 そんなある日のどんよりした雨の日、中庭の木の下で男の子が一人、三角座りをして泣いているのを見つけた。金色の髪にアイスブルーの瞳の綺麗な顔をした男の子だった。


 「ねぇ なんで泣いているの?」


 「……毎日毎日朝起きてから夜になって寝るまで大人のいう事をやらされて出来ないと怒られるんだ…」


 その子は泣きながらそう言った。


 「僕も毎日怒られてるよ!じゃあさ、これから毎日一緒に怒られようよ。僕ら仲間になろう」


 そういうと私はさっき厨房でくすねてきて後でこっそり食べようと思っていたお菓子をとりだし半分にして差し出した。

 その子が困った顔をしているので私はその子の前で自分の分を口に入れて食べてみせた。


 「うん、やっぱりすごくおいしい」


 そう私が言うとその子は私の手の中からお菓子を取って食べた。


 「これで仲間だね!そうそう、それね、厨房でくすねてきたやつ。お菓子が大好きな料理長が他の料理に使って余った最高級材料を使って作った料理長専用のお菓子。いつも美味しそうに食べてるのを見ていたからさっき、くすねてきたの。料理長に見られたから後で怒られる予定、だから早速一緒に怒られよう」


 ニッと笑う。


 「えっ!なんで!そんなの聞いてないよ!」


 焦ったようにその子が言う。


 「分かった、一緒だね」


 少し間をおいてそう言ってその子も笑った。 


 その日から辛い事も楽しい事もいつも二人で分け合った。そうしたらずっと楽になった。

 その後その子が自分の婚約者である事を初めて知って驚いた。


 その子と出会ってしばらしくて私は秘密の友達に会っていた。


 王宮入りして間もない頃偶然知り合ってから私の秘密の友達になった。


 「僕、自分だけが辛いと思っていた。他に頑張ってる子がいたのに…。あの子が頑張ってるのにもう自分だけ逃げない。運命を受け入れてあの子と背負っていく事にした」


 そういうと私は秘密の友達にさよならをした。


 それからあの秘密の部屋に行く事がなくなった。


 「ねぇ アル、あのダンスのステップできる?僕すぐ転ぶんだ」


 「僕も出来ないよ」


 その子が言う。


 「じゃあさ、どっちが先に出来るか競争しようよ。負けたら厨房にあのお菓子くすねに行くんだぞ!」


 「分かった!」


 そういって私達はいつも競い合うように勉強して支え合って生きていた。


 その子も冒険物語が好きだったのでお互い同じ本を読んでよく感想を言い合ったりもした。


 「いつか僕たち大きくなって結婚したらいろんな場所に行ってみよう。

仕事で国の外に行く事が出来るから世界中を一緒に見て回ろう。そしてあの本に出てきた主人公みたいにこの国を二人で守っていこう」


 「うん、わかった。約束だよ。アル。」


 やがて私達は思春期を迎え、信頼は愛情にかわっていった。

 彼に釣り合うよう、淑女になる努力をした。


 「愛してるよ。レイン。いつまでも傍にいて」


 そう言ってやさしく微笑むアルフォンスを私も愛していた。


 一人きりの静かな執務室で昨日マリアと仲睦まじく出かけていったアルフォンスの後ろ姿を思い出す。




……ねぇアル…。私達はいつから同じ夢を見なくなったの?


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