第一話
小学校の五年一組の教室。子供たちは大人しく先生の話を聞いている。
「さて、今回のテーマはここまで。次のテーマは」
そういうと、先生は黒板に書き始めた。
『「国の借金」9月末で1080兆円 国民1人あたり852万円』と大きく書くと児童たちにプリントを配り始めた。
プリントには、次回のテーマとその詳細が書かれていた。
「お父さんやお母さんと一緒に、テーマに沿って話し合ってきてください。ご両親が忙しくて話し合えない場合は、身近にいる身内でもかまいません」
児童たちは、プリントを見ると少しざわつく。
しばらくすると、チャイムが鳴る。
「じゃあ、本日の授業は終わります」
そう言うと、黒板の文字を消すと、先生は教室を出ていく。
児童たちは、帰る準備を始める。
そんな児童たちの一人、愛蒔エミィは丁寧にランドセルに文房具を片付ける。
エミィは、ツインテールでリボンを着けていた。背は同年代の女の子より、若干高めで、体重は若干少なめだ。そして、お人形のようにかわいかった。
「エミィちゃん。帰ろう」
エミィの友達の瑠璃が声かける。
「ちょっと待ってね」
そう言うとランドセルを背負う。
「今日の宿題いやだなぁ」
帰り道の道すがら、瑠璃が言った。
「宿題は大変だもんね」
「しかも、借金の話をすると、今日も赤字だとか、お小遣いを減らすとか、ママ言うんだもん」
エミィは首を傾げる。
「でも、今日の宿題は、経済の話で、家計の話は関係ないと思うよ」
「そうなの、どうして関係ないの?」
「えーと、パパがいつもそう言ってたから、そうかなぁって思って」
「エミィちゃんのパパ。物知りだし、優しいし、いいなぁ。エミィちゃんのパパとなら、今日の宿題すぐに終わっちゃうと思うし」
エミィは苦笑いする。
「パパだとエミィのことを甘やかすから、宿題を見ちゃダメって、ママに言われてるんだ~」
「え~。それじゃあ、宿題とか分からなかったらどうするの?」
「優しくないし、怒りんぼだし、ママよりパパの方がいいんだけど。ママが教えてくれるよ」
「へー」
二人は、瑠璃の家の前で別れる。
「ただいまー」
エミィは玄関を入ると元気よく言った。
「おかえり~」
居間の方から男性の声が答えた。
エミィが居間に行くとパパがパソコンに向かって作業をしている。声の主は、エミィのパパであった。
「パパ。何しているの?」
エミィのパパは、いつもは書斎で仕事をしている。居間でパソコンを使うことはない。
「うーん。仕事中」
何かに夢中になっている時のパパは、いつもこんな感じだ。
「どうして居間でやっているの?」
「書斎をママに貸してしまったからね」
「ママに? どうしてママがお家にいるの?」
エミィのパパは、小説家なので、仕事は自宅でする。ママは、大企業で働いていて、当然仕事は会社のオフィスでする。つまりママが、家で働くことはない。今日は特別なことがあると、エミィにもわかる。
「実はトラブルがあって、昨晩から徹夜で仕事していたようなんだよ」
「だから、朝、ご飯食べなかったんだ」
エミィは朝を思い出しながら言った。
いつも朝食は三人で一緒に食べる。
「エミィちゃんが、学校に行った後に食べたけどね」
「そうなんだ」
エミィは自分の部屋へ行く。ランドセルから宿題のプリントを出す。そしてランドセルを片付けると、また居間へ戻る。
「パパ。今日宿題が出たの」
「じゃあ、すぐに終わらせて遊ぼう」
「でも、一人じゃできないの」
「そうなんだ。じゃあ、ママに聞いてごらん。書斎にいるから」
エミィは頷くと、書斎に行く。ノックをすると返事がある。
「ママ、宿題が出たの」
ママは機嫌悪るそうに、エミィを見る。
「ちゃんと自分で考えたの?」
「ちがうの」
そう言うと、プリントを見せる。
プリントには、テーマに沿ってお父さんやお母さんと一緒に話し合うようにと書いてある。
「え、今どきの小学校はこんな宿題がでるの……」