誕生、覇王龍!
ドラゴンとともに突っ込んでいくと、本当の姿になったバラドンナがどれだけ大きいか分かる。
まるで、城一つがまるごと宙に浮かんでいるかのようだ。
四本の腕が、俺たちを捕まえようと振り回される。
ドラゴンだって、邪神の腕一本と同じくらいの大きさはあるけれど……。
俺たちなんか完全に豆粒だ。
「でかすぎる……! やれるのか!?」
サンダラーで牽制しながら、ちょっと弱気になる俺。
「いけるに決まってるじゃん。私が見込んだクリスくんだよ?」
そこにすかさず、メリッサがフォローを入れてきた。
ちょっとびっくりだ。
「俺……いける?」
「いけるいける!」
彼女は強く断言してくる。
「他でもない、私が君を見つけたんだもの。ずーっと君は私と一緒で、冒険してきたでしょ。クリスくんは強くなってる! これは間違いないよ!」
「メリッサに言われると、やれる気がしてくる……!」
本当にやる気になって来た。
『ええい、わしの頭上でいちゃいちゃしているでないわーっ!! わしは青少年の青春とかそういうのが嫌いなのだ!!』
バラドンナは叫びながら、手のひらを光らせた。
邪神の口からべろりと舌が出てくる。
うおっ、舌の先にも口がついてて、それが呪文を詠唱している!
「来るぞ!!」
俺が叫ぶと、ドラゴンは素早く身を翻した。
一瞬前までいた場所を、邪神の放った炎の魔法が通過していく。
なんて魔法のスケールだ。
あれは、小さな村なら一のみにされてしまうだろう。
「このっ!!」
反撃でサンダラーをぶっ放す。
魔銃の弾丸が、邪神の表面に突き刺さる。
だけど相手があまりにもでかいから、効いてるのか効いてないのか……!
『ふわっはっはっは! こそばゆいこそばゆい! ちくちくする!』
「やっぱ駄目だ! でかすぎる!」
「うーむむむ!」
俺の後ろで、メリッサが唸る。
「これは私も全力で行かないとかな……!!」
そう声が聞こえると、メリッサの手が俺の肩に置かれた。
立ち上がった気配がする。
飛んでいるドラゴンの上で立ち上がるだって!?
「危ないって!」
「落ちないように支えてて!」
「そんな無茶な!」
だけど、メリッサを落とすわけには行かないから、俺は彼女の手をぎゅっと掴む。
メリッサは片手を頭上へとかざして叫ぶ。
「みんなーっ!! 出番だよ! 全力で行くよーっ!!」
これは……メリッサに従うモンスターたちを呼んでいるんだ!
次の瞬間、ドラゴンの脇に光り輝く玉が出現した。
それはあっという間に大きくなり、そこからまず、真っ青な球体が転がり落ちた。
『キュー!』
「パンジャか!」
続いて、穴をこじ開けて緑色のドラゴンが現れた。
『お呼びに応えて、我らメリッサ様のしもべ勢揃いにございます』
この声、あの執事みたいな男か!
そして、緑のドラゴンの背中を駆け抜けて、真っ白な猿が跳躍する。
そいつはぐんと巨大化し、邪神に飛びかかった。
さらに、豚の頭をした大男が、魔銃が幾つもくっついたような装備を抱えながら邪神目掛けて連射を始める。
「ぶいーっ!!」
パンジャが光の糸を放つ。
執事ドラゴンがブレスを吐き、さらに飛び出してきたのは大型のオストリカみたいな奴で……!
「やっちゃえ、ボンゴレー!!」
「フ”ャーンッ!!」
「フャンフャン!」
オストリカが興奮して、前足を振り回している。
オストリカのパパか!
ボンゴレは、ドラゴンやパンジャ、白猿の上を飛び回りながら、その尻尾を展開した。
それはまるで、鋼の長銃が幾つも連なっているように見える。
放たれるのは、光の弾丸だ。
これが邪神の全身に突き刺さる。
『ぬ、ぬわーっ!? なんだこれはーっ!!』
焦る邪神。
いきなり敵が増えたんだから当然だよな。
メリッサの召喚モンスターたちは、邪神を穴の底へと押し込んでいく。
『ええい、邪魔だおのれらー!!』
邪神が叫びながら、四本腕を振り回した。
そこからめちゃめちゃに魔法が放たれる。
これには、メリッサのモンスターたちも堪らずちょっと下がる。
「くっそー、流石に強いなあ」
メリッサが悔しそうに言う。
彼女は凄いけど、一人じゃやっぱり難しいのだ。
俺もやらねば!
「よし、ドラゴン、突っ込め!!」
『グオオオオーンッ!!』
俺の指示に応えて、叫ぶドラゴン。
その速度を一気に加速させた。
口から放つ炎のブレスで、邪神の魔法を相殺する。
そして、邪神へと体当たりだ。
『ぬおわーっ!!』
このゼロ距離から……!
俺は銃を構えて、さっきから邪神の呪文詠唱を担当している舌目掛けてサンダラーを連射した。
びしばしと弾丸が突き刺さる。
『ぎょえーっ!! おのれ、おのれ貴様ーっ!!』
邪神が慌てて舌をしまい込んだ。
こいつ、舌が弱いのか!
『魔法など使わなくても、こうだ!』
一瞬の隙を突いて、邪神の足がドラゴンに叩きつけられた。
しまった!
ぐるぐると回転しながら、ドラゴンが蹴り飛ばされる。
俺はメリッサを咄嗟に抱きしめて、ドラゴンに押し付けた!
「きゃっ!? クリスくん!」
「絶対落ちないように、俺にしがみついて!!」
「う、うん!!」
「ドラゴン! 体勢を立て直せーっ!!」
『グオオオーンッ!!』
ドラゴンは咆哮しながら、全力で姿勢を制御する。
その背後に、執事ドラゴンが降り立った。
『手助けをしましょうぞ!』
がっちりと、俺たちを受け止める執事ドラゴン。
その背後には、パンジャが光の網を張って後退を食い止めている。
さらに、執事ドラゴンの尻尾を握って、白猿が重しになっていた。
「ありがとう!」
『なんのなんの。メリッサ様を頼みますよ、少年!!』
「えっ……あ、ああ!!」
一瞬びっくりしたけれど、俺は力強く答えた。
「く、クリスくん! もう大丈夫だから……!」
俺の腕の中で、真っ赤になったメリッサがじたばたした。
押さえっぱなしっぱなしだった!
慌てて離れる俺。
そして、これを見て邪神が激高した。
『貴様らーっ!! わしの目と鼻の先でいちゃいちゃするなーっ!! もがーっ!!』
もの凄い怒りだ。
あいつは完全に我を忘れ、さっきまでしまっていた舌をむき出しにしながら超高速で呪文を詠唱し始めている。
「今ならあいつを……! いや、でも遠いか……!?」
その時、俺の懐からカーバンクルのチューが飛び出してきた。
『キュルルーッ!』
その姿が金色の弾丸へと変わる。
「チューが弾丸に!? えっと」
『愛のパワーですな』
「黙っててネーロ!!」
赤くなったメリッサが、執事ドラゴンの鼻先をぺちっと叩いた。
『ははは、これは失礼しました。ですが、お二人の気持ちの高まりがクリス殿の力を引き出したようですよ。さあ、今です!』
「なんでお前が詳しいんだ……!? いや、でもありがたい! 頼むぞ、チュー!」
チューが変身した弾丸をトリニティに装填する。
すると、三つだった銃口が展開し、そこから大型の銃口が一つ出現した。
「いけっ! 四重複合召喚!!」
放たれた一撃は、黄金の輝きに変わる。
この輝きへ、ドラゴンが飛び込んだ。
光を通過するその体が、一回り大きくなり、金色に染まる。
『おお……その姿は……アポカリフ様……!!』
ネーロが誰かの名前を呼んだ気がした。
だけど、そんな名前は知らない。
新たな姿になったドラゴンの呼び名が、俺の脳裏に刻まれる。
「行くぞ、覇王龍!!」
『御意』
覇王龍の返答は、明確な言葉だ。
その中から、ペス、トリー、ポヨン、チューの意思が感じられる。
金色の翼が広がった。
それはひと打ちで巨体を加速させる。
ペガサス並の速度だ!
風を切り裂き、一瞬で邪神に肉薄する。
もう、覇王龍の大きさは邪神にだって負けてはいない。
『ぬおおっ!? な、なんだこれはーっ!!』
邪神の放った魔法を巨体で押しつぶしながら、覇王龍の一撃が炸裂した。
『おぎゃーっ!』
邪神の巨体が尻餅をつく。
覇王龍は、炎のブレスを放ちながら、邪神を牽制する。
龍の鼻先に、俺は駆け下りた。
標的は、未だにむき出しになり、呪文を詠唱している邪神の舌。
サンダラーを構え、全身の魔力を込めるイメージ……!
魔銃が熱く、青く輝き始める。
「行け、サンダラー! 貫けえっ!!」
叫びながら、引き金を引いた。
放たれたのは、真っ青な一直線の光。
それは覇王龍のブレスを纏い、大きな塊になって邪神へと突進した。
狙いは正確。
青い一撃は、邪神の舌を貫き、粉砕した。
『ぎ、ぎ、ぎょえええええっ!!』
邪神が物凄い形相になり、天を仰ぐ。
『こんな……こんな馬鹿なああああっ!! せっかく復活したというのに、人間ごときにぃぃぃっ!! いや、この時代の人間おかしくないかっ!? せっかく勇者どもを抑え込んだというのに、貴様が、まさか貴様があっ!!』
砕かれた舌の中から出てきたのは、見覚えがある魔銃だった。
俺が最初に使っていた銃。
こいつが全ての始まりで、そして終わりだ。
「じゃあな」
俺は魔銃に別れを告げた。
再び放たれたサンダラーの弾丸が、魔銃に炸裂する。
最初の銃は、その一撃でバラバラになった。
『ウグワーッ!!』
それが邪神の最後の叫びだった。
巨体が闇に包まれる。
闇は粉末のようになり、飛び散っていく。
邪神の最後だ……!
『愛の勝利ですな』
「ネーロ黙ってて!!」
決着ッッッ




