決戦の廃棄地区
「待て、バラドンナ!!」
俺は叫びながら、崖のようになった巨大なくぼみを滑り降りていく。
仲間たちもあとに続く。
何故かアリナまで一緒に来ていて、レオンにお姫様抱っこされているな。
あれ、戦う邪魔じゃないんだろうか。
ちなみにおじさんは根性が入っていて、廃棄地区で拾った板に乗って、ペスにそれを引っ張ってもらって滑り降りてくる。
「おじさん、悪い考えに取り憑かれて国を支配しようとしていたけど、なんだかんだ言ってこの国が好きだからね。大魔導なんかに国を消させはしないよ!」
「おじさんむちゃしないでね」
鼻息も荒く宣言するおじさんと、ちょっと心配なメリッサ。
俺も心配だけど、決意が硬いみたいだし止められないなあ。
俺たちの最後の仲間が、このドッグブリーダーのおじさんか。
ということで、崖を滑り降りた俺たちに、邪神が仕向けたであろう手下が襲いかかってきた。
「バラドンナ様の邪魔はさせんぞ!」
「きしゃー!」
普通の人間に見えた彼らが、一瞬で巨大化してモンスターに変わる。
バラドンナに力を与えられているんだ。
「おじさん、すみません! アリナさんをお願いします!」
「お、おう!」
「ええっ!? レオンくん、わたくしをおじさんに預けていくんですか!?」
レオンが駆け出してきた。
「クリスくん!」
「おう。二人で一気に攻めるぜ!」
俺はレオンに頷き返し、サンダラーを抜いた。
現れたモンスターは三体。
全身に苔を生やしたような巨人と、二首の巨大な狼、それに縦に並んだ二本の角を持つ凶悪そうな馬だ。
「ええと、ヒルギガース、オルトロス、バイコーンです! 怪力と、口から炎を吐くのと、突進力が恐ろしい馬です! 注意してください! あとバイコーンには伝説があって……」
アリナがとても詳しい。
俺たちは説明を受けながら、まずは目の前に迫ったバイコーンと戦った。
奴は一瞬、俺とレオンを睨むと、呆れたように鼻息を吹いた。
なんだなんだ。
「バイコーンはユニコーンの逆……つまり、不貞を働く男性を好みます! つまりお二人は清い体の男性なので……」
「アリナさん、それは言わなくていいです!!」
レオンが突っ込んだ。
うん、必要ない情報だな!
「サンダラー!」
魔銃を連射し、バイコーンにぶち当てながら動きを止める。
そこに駆け寄ったレオンが飛び上がり、バイコーンの首筋を切り裂くように、連続での攻撃を決める。
その攻撃をやめさせようと、バイコーンが角を振り回した。
レオンがこれを受けて、後退する。
この隙に、俺は体勢を低くして走りながら、バイコーンの脇腹めがけて射撃した。
モンスターが叫び声を上げる。
おっと、オルトロスが追いついてきた。
俺はもう一丁の魔銃を抜き放つ。
「ペス! トリー! 複合召喚!」
呼び出していたペスとトリーが弾丸に戻り、即座にトリニティへと装填される。
そして放たれる、二色の光。
混じり合い、鷲の頭と翼を持つ獅子、複合召喚モンスター、グリフォンとなった。
「グリフォン、行け!」
『ケーンッ!!』
出現と同事に、超高速での突撃をするグリフォン。
オルトロスがこれをまともに喰らい、吹き飛ばされた。
俺はこの間にも、バイコーンの足に銃弾を叩き込んでいる。
二本角のモンスター馬は、たまらず転倒した。
即座にとどめを刺すレオン。
「最後はヒルギガースですね」
「ああ。だけどこいつらはまだ前哨戦だ!」
俺とレオンは、迫ってくる苔の生えた巨人に向き直った。
だがその瞬間、後ろから飛んできた瓦礫の塊がヒルギガースの頭部を直撃した。
ぶっ倒れる巨人。
「よし、命中!」
「メリッサ、大雑把な戦い方すぎる……!」
メリッサの投擲だ。
今なら分かる。
彼女、この戦い方をウェスカーやレヴィアさんを見て学んだんだな。
なんて悪い教師だ。
倒れた巨人は、グリフォンがきっちり片を付けた。
その頃にはもう、邪神たちの一段はこの巨大な穴の中心に辿り着いている。
何をする気なのかは大体想像できるけど……。
「みんな、急ごう!」
俺は仲間たちに声を掛けながら、グリフォンを弾丸に戻した。
次に召喚するのは、複合召喚スレイプニル。
たくさんの人間を一度に運べて、速度が早い八本足の馬だ。
これに乗って、邪神たちの所まで急行する。
『なんとしつこい連中だ。もうすぐわしの肉体が復活するというのに』
犬の体を借りた邪神は、振り返ると億劫そうに告げた。
「させないって言ってるんだ! それに、お前が乗り移っている魔銃は元々俺のものだ!」
『わしが取り付いた男が持っていたものだがな? あの男、最後まで自己保身のことしか考えておらなんだ。だが、奴の肉体はわしが使い、重層大陸に真の平等をもたらす一歩手前まで行った。あやつも本望であろうな』
「身勝手なことを言いやがる!」
邪神の声は不思議とよく通る。
離れているはずなのに、俺たちの所まで聞こえてくるのだ。
だが、あと少し近づけばサンダラーの射程になる。
ここからあいつをぶち抜いて……。
『もう遅い! わしは肉体をここで取り戻す! お前たちはそこで見ているがいい。なに、わしがすぐに、誰もが平等に暮らせる、一切の差異の無い世界を作り上げてやるからな! 平等の神バラドンナに任せておくが良いぞ……! ふわははははは!!』
犬が大きく口を開ける。
すると、咥えられていた魔銃がぽとりと落ちた。
銃は地面にはつかず、くるくる回転を始めて空に舞い上がっていく。
やがて、周囲の大地がグラグラと揺れ始めた。
「なんだ……!?」
「クリスくん、あれ……!」
メリッサが指差す先では、巨大な穴の底が隆起し始めている。
そこから、何かが出現しようとしているのだ。
バブイルで見た、ゴールディ家の屋敷よりもずっと大きな、何か。
それは人間のような形をしていて……。
ばさりと、背中に巨大な翼が生まれた。
『ふわははははは! ふわははははは!!』
哄笑が辺り一帯に響き渡る。
邪神が今まさに、肉体を得て復活しようとしているのだ。
「くそっ、させるかよ!」
俺はサンダラーをぶっ放すが、相手が大きすぎて効いている気がしない。
くそ、どうしたらいいんだ……!?
「あ、クリスくん、あれ」
メリッサが脱力した声で俺に告げた。
あれって……今度は何だ?
ええと、紫色の光を纏って、何かローブを着た人間の男が飛んでくる……。
「うわっ、ウェスカーじゃないか! そりゃ、これだけ派手にしてたら見つかるよなあ……」
「大魔導ですと!? こ、これはまずいぞ少年! おじさん、真剣に王国の危機だと思うんだ。大魔導に手出しさせてはいけない……!」
おじさんがぶるぶる震えながら告げた。
経験者は語るっていうやつか。
もう猶予はない。
色々な意味で、最終決戦だ……!




