王都到着
スレイプニルはとにかく速い。
今回は、メリッサのバイクにロープをくくりつけ、スレイプニルに引っ張ってもらった。
「フャーーーーン」
スレイプニルの頭の上にくっついたオストリカが、ご機嫌で吠える。
とても危ないのだけど、この赤猫は高いところとかが好きみたいだ。
スレイプニルも、オストリカが落っこちないように気を使っている。
なるべく赤猫に風が当たらないように、首の角度を調節しているのだ。
「クリスくんの魔物たちは、オストリカのお兄さんやお姉さんみたいな感じだよねえ」
メリッサがしみじみと呟いた。
「そう言えば、俺のモンスターって、気がつくとオストリカと一緒に遊んでるよな。それって、オストリカの世話をしてるつもりだったのかな」
「きっとそうだよ。魔物はね、魔物使いに似るんだよ。みんなクリスくんに似ているから優しいの」
「そっかー……って、えぇっ!?」
思わず流すところだった。
それってつまり、俺が優しいってこと?
「メリッサ、それはええと……」
「ああ、ほらクリスくん! もう王都が見えて来たよ!」
彼女が膝立ちになり、俺の肩に手をおいて前に身を乗り出す。
スレイプニルの大きな背中で、俺たちは縦一列になって座っていたのだ。
うっ、後頭部に柔らかいものが当たる……!
俺の思考はまったくまとまらなくなってしまった。
「大きい……!」
それが、連合王国の王都を見た最初の感想だった。
バブイルも大きいけれど、あそこは重層都市だ。
縦に広くて、横の広がりは限界がある。
ここは大陸だから、そんなことはない。
王都を貫く道はまっすぐ続いていて、どこまで行けるのか見当もつかない。
それに、バブイルと比べてもずっと多い人々が道を行き交っている。
「なあメリッサ、これって、何かのお祭りの日?」
「違うよ? いつもどおり。でも、昔よりちょっと人が増えたかも。復興が終わったからかな」
「復興ですか?」
アリナがメガネを光らせた。
「そう。昔この国で革命があってね、それで王都はボロボロになっちゃったの」
「革命!? 魔王の襲撃とか、そういうのじゃないんですか!?」
レオンが驚きで目を見開いた。
そりゃあそうだ。
メリッサの話じゃ、俺たちが知らない内に、バブイルの外ではとんでもない魔王が君臨してて、世界を支配しようとしていたらしいじゃないか。
なのに、そんなのがいるところで革命なんか起こしてたのか。
下手したら人間、滅びてたんじゃないか?
「それはね、魔王の手下が王国に入り込んで、悪い政治をしてたの。だから国民が怒って革命を起こしたってわけ。それで、王国は倒れて連合王国になった」
「革命で王制が倒される……。遥かな過去に、バブイルの外でそのようなことがあったと書物には記されていますけれど……。なんで、その後に新しい王制が立つんですか!? ええと、象徴的な王制ではなくて?」
「普通に絶対王政だったと思うよ? レヴィアさん、国で一番の権限を持ってたし」
「初代君主ってあの人かよ!!」
そうだ、そう言えば、元連合王国女王って言ってた!
なんでそんなとんでもない人が、村の外れで悠々自適に暮らしてるんだ……!
いや、だから刺客を送られたりしたって話が出てくるのか。
俺たちは、王との入り口でキョロキョロした。
復興が終わった都市だと聞くと、なるほど分かりやすい。
建物がみんな新しいのだ。
道がこんなに広くて、どうやら都市の中を縦横に走ってそうなのも、そこまで考えて王都を立て直したからかもしれない。
凄いもんだ。
「お、おーい!! そこのお前たち!!」
そうしたら、慌てて兵士らしき連中が走ってきた。
大人数だ!
「な、なんだそのバカでかい馬は!! 魔物か!?」
「あ、スレイプニルそのままだった!!」
俺は慌てて、魔銃トリニティを抜いた。
「戻れ、スレイプニル!」
「ヒヒーン!」
スレイプニルは一声高らかにいななくと、光りに包まれ、ペスとポヨンに分離した。
そのうち、ポヨンはまた光になり、俺のバレットポーチに収まる。
「フャーン」
スレイプニルが戻った勢いで、空に飛ばされていたオストリカが落っこちてくる。
これを、ペスがもふもふのたてがみで受け止めた。
『ガオン』
「フャンフャン」
『キュルルルル!』
俺の懐から、チューが飛び出してきた。
今まで大人しいと思ったら、ずっと寝ていたらしい。
カーバンクルは随分寝るんだな。
そして、三匹のモンスターできゃっきゃとはしゃぎ始める。
これを兵士たちは呆然として見ていた。
「危険な魔物じゃない……のか? そう言えば、お前たちと一緒にやって来たよな」
彼らは俺、アリナ、レオンの顔を順番に見て、メリッサで目を留めた。
「……あれ? どこかで見たことが……」
「隊長。もしかして彼女、救国の英雄、初代女王の仲間、大魔導の友、メリッサでは……?」
「えっ!? だってあの娘はもっとこう、小さい……」
「あれから何年も経ってます! それにあの赤い猫!」
「おお、確かに……!! 失礼ですが、あなたは、メリッサ様で……?」
兵士の隊長が、急にへりくだった態度で聞いてきた。
「そうだよ? ここ、今ウェスカーさん来てるでしょ」
「や、やはり!! これは失礼しましたーっ!!」
兵士たちが直立不動になった。
「いや、かしこまるのはいいからさ。ウェスカーさんどこにいるか教えてもらえる?」
「は、はあ。大魔導様なら、闇の女神教団と合流し、国の大公園を借り切って酒盛りをしていますが」
なんだそれ!?
大魔導と闇の女神教団が合流って、響きだけ聞いたら悪い連中大集合みたいじゃないか。
しかも酒盛りって。
「そっかー。いやあ、変わらないねえ、あの人たちも」
メリッサはうんうん、と頷くと、俺たちに向けて振り返った。
「じゃ、会いに行っちゃおう。色んな意味で、あの人がいると便利だからさ」
「俺は何だか嫌な予感がする」
思わず、口に出してしまっていた。
するとメリッサはちょっと首を傾げて、目を泳がせた。
「……クリスくん、いい勘してる」
どういうこと!?




