邪神復活の伏線
「三年前くらいに邪神が復活したでしょう?」
お茶を入れてくれながら、レヴィアが話し出す。
テーブルの上には、お菓子が山盛りだ。
これをリディアがもりもり食べている。
ルヴィアはじーっと俺の顔を見ている。
「どうしたの?」
「んむー」
聞いてみたら、ルヴィアは口をむにゅむにゅとさせた。
「あー、クリスくん、どこかウェスカーに似てるもんね。ルヴィア、パパに似てるから気に入っちゃったのかな?」
「ええっ!?」
素っ頓狂な声を上げたのはメリッサだ。
「絶対ウェスカーさんには似てないよー。クリスくんはもっと真面目だから」
「師匠から聞いている話だと、ウェスカーさんという方は、とにかく凄い方だとか……。クリスくんは常識的だと思いますが」
「話を伺っているだけでも、ウェスカーさんという方はとんでもない方なのですね……」
「んお? パパのおはなし?」
みんなの視線が俺に集中する。
なんだか居づらい感じだぞ。
「お、俺とウェスカーさんの話はいいから! レヴィアさん、邪神の話してなかった?」
「ああ、そうだったわね」
彼女はお菓子をひとつ摘んで、口に放り込んだ。
それをお茶で流し込むと、
「魔王を倒してからね、私とウェスカーは、リディアが生まれて、静かにくらしてたの」
「またレヴィアさんを担ぎ出そうとする国への反抗勢力とか、魔王軍残党とかたくさん騒ぎがあったはずなんだけど……。この人たちにとってはあれでも平穏に入るわけね」
メリッサのささやき声を聞いていると、恐ろしくなるな……!
「それでね、一番大きな騒ぎは、連合王国の地下から出現した巨大な邪神との戦いだったの。邪神教団が地下に潜んでいたらしくて、魔王が倒されたことで、これを復活させようと動き出したのね。で、連合王国は対処に失敗して、不完全ながら邪神が出現してしまった。そこで、私とウェスカーとリディアが出動したわけ」
「リディアちゃんまで……!」
戦慄する俺たち。
その頃って、リディアちゃん、二歳くらいじゃないか?
「で、邪神は出てきたけど、動きは鈍いしなにか考えているようにも見えないしで、さっさと倒しちゃったんだけどね。今思えば……」
そう言えば、邪神ってそんなにたくさんいるものなのか?
バブイルで見た壁画に描かれた邪神は、バラドンナだけだった気がする。
「あの邪神が、君たちの追ってるバラドンナの本体だったんじゃない?」
「あっ!!」
ハッとした。
邪神バラドンナは、どうやら魂だけの存在だ。
魂があるってことは、体も無いといけない。
仮にも神様の体なんだから、朽ちて無くなったりはしないのかもしれない。
「フャンフャン」
「みょ? ねこー」
椅子の下をパタパタ走り回るオストリカ。
ルヴィアの興味はそっちに移ったようだ。
椅子からよちよち降りようとして、ぽてっと落ちた。
「ふゃー」
「フャン」
ちょっとハラハラしたけれど、ルヴィアちゃんは落っこちたことより、オストリカが気になるようだ。
パッと立ち上がり、赤猫を追いかけ始めた。
「大丈夫よ。ルヴィア、頑丈だから。転んで石に頭をぶつけても、石の方が割れちゃうの」
「それは頑丈という次元では……?」
目をむくアリナ。
多分、この人たちはいちいち気にしていてはいけないのだ。
俺は早くも理解していた。
話をまとめていくと、レヴィアとウェスカーが倒した邪神が、バラドンナの本体であろう、という話だった。
そして、それは連合王国王都の郊外で、今は巨大な岩山のようになって存在しているらしい。
邪神はそこを目指しているのだろうと思われる。
「パパもいってるんだよねー。おみやげたのしみー!」
「おみやえー」
リディアがバンザイすると、ルヴィアも真似をしようとした。
すると、オストリカを抱っこしているので、赤猫の後頭部が顔に引っかかる。
「フャン」
「むやー」
オストリカがルヴィアに後頭部を吸われてじたばたしている。
「はい、ルヴィア、オストリカはメリッサお姉ちゃんに返そうね」
「やー」
レヴィアにオストリカを取り上げられて、ルヴィアは大変いやがった。
だが、俺たちもオストリカを置いていくわけにはいかないのだ。
必死で抵抗するルヴィアだが、レヴィアの豪腕には勝てない。
ひょいっとオストリカを取り上げられ、うわーんっと泣き出した。
うーむ。
とても賑やかだ。
こうして情報を得た俺たちは、連合王国は王都を目指し、再び旅立つことになる。
「ウェスカーがいるところはすぐに分かるわよ。外に大きな、手足が生えたソファが座ってるから」
「手足が生えたソファ!?」
また何か異常な事を聞いた気がする。
「パパったらおそらとべるのに、ソファちゃんにのっていくの、だいすきなんだよ」
気にしちゃだめだ。
情報があまりにも多すぎて、頭の中でまとめようとすると変なことになる。
「クリスくん、ウェスカーさんのことはイメージしようとしたらダメだよ。頭おかしくなるから」
メリッサもこう言っている。
とりあえず、会ったら殴る、というのは横に置いておこう。
明らかに得体が知れない人物だし、それにリディアとルヴィアのパパだもんな。
二人に悪い。
こうして、レヴィアさんたちに見送られながら、俺たちはキーン村を後にした。
王都に行くまでは、まだちょっとかかるらしい。
さすがにここは大陸だ。
縦に長いバブイルとは違い、横に広い。
「この後のことは、おいおい考えるか……」
そう呟きながら、俺はスレイプニルを走らせるのだった。




