表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

85/100

邪神の手下と、謎の豪腕お姉さん

 昼くらいに準備を終え、俺たちは旅立つことになった。

 メリッサの召喚モンスターは、大部分をエフエクス村に置いていくのだそうだ。


「フャーン」


「フャン」


 オストリカが、家族との別れを惜しんでいる。

 他に、ちっちゃいオストリカみたいなのがわいわい出てきて、みんなで顔をこすり合っている。

 オストリカの弟や妹たちだな。

 その後、赤猫はメリッサのところに戻ってきた。


「メリッサ、オストリカだけでいいのか?」


「もちろん。だって、エフエクス村を守らなくちゃいけないでしょ。世の中、邪神が出歩いてるんだから」


「そりゃそうだけど」


「それに、いざとなったらクリスくんが、世界も私も守ってくれるでしょ?」


 うわっ、いきなり上目遣いでそういう事言ってくるのは反則だ。

 俺は自分の顔が熱くなるのが分かった。

 これを見て、見送りに来ていた村の人たちがみんなでニヤニヤしているから、多分真っ赤になっていたんだろう。

 くそー、なんてことを言うのだ。

 いや、嬉しいんだけど!


 そうして、また俺たちは出発する。

 エンジンが掛かり、メリッサは一瞬振り返って村に手をふると、そのままバイクを走らせる。

 行きとは違い、随分バイクの振動にも慣れてきた。

 今回は、オストリカとチューが仲良く俺と同じサイドカーに収まっている。

 二匹並んで、揺られながら「ワワワワ」とか声を揺らして遊んでいる。

 なんか和むなあ。


 少し行くと、ハブーが見えてきた。

 行きは随分掛かった気がしたけど、帰りはあっと言う間だ。

 いや、メリッサがバイクの運転に慣れて、速度を上げているのかも?


「って、なんか煙が上がってるんだけど!」


 俺は慌ててその方向を指差した。


「あ、本当!! ハブーが何かに襲われている!?」


 メリッサも驚いた。


「クリスくん、オストリカとチューをしっかり掴まえてて! 最速で行くから!」


「分かった!」


 尻が痛くなるとか言ってる場合じゃない。

 ハブーの一大事かもしれないのだ。

 そして、今この時期に、船を襲ったりする奴なんて決まってる。

 俺が知る限り、一人しかいないのだ。


「メリッサ! ここからはバイクじゃ遅い! あいつを使おう!」


「分かった! ごめんねバイク。ここに置いていくね……!」


 途中でバイクを停めて、俺は魔銃トリニティを抜く。

 込める弾丸は、トリー。そしてポヨン。


「複合召喚……いでよ、ペガサス!!」


 思いっきりぶっ放した。

 銃口から生まれた、白と青の輝きが空で混じり合う。

 誕生したのは、大きな翼を生やした白馬だ。


『フォーン!』


 ペガサスはいななきながら、俺たちの前に降り立った。

 背中に乗るように促してくる。

 まずは俺がまたがり、メリッサに手を貸した。

 彼女が後ろに乗り込み、俺の腰に手を回してくる。

 よし、固定された!


「行け、ペガサス! 全速力!」


『フォーンッ!!』


 次の瞬間、ペガサスは静止状態から高速飛行に移っていた。

 地面を抉りながら、超高速で飛び立つ。

 空気が裂け、巻き起こった風に木々が揺らぐ。

 超高速飛行状態のペガサスは、羽ばたかない。

 翼を斜め後ろへと展開して、風を切り裂きながら飛ぶのだ。

 バイクですら、なかなか距離を詰められなかったハブーが、一瞬で近づいてきた。

 重層都市バブイルの階層を、一息の間に行き来する最速の召喚モンスターだ。

 こいつを、広い大陸で飛ばせるとここまで凄いのか!


「減速! 降りるぞ、ペガサス!!」


『フォーン!!』


 翼が広がり、急制動がかかる。

 俺は吹き飛ばされないよう、ペガサスの首にしがみついた。


 広い甲板に着地するペガサス。

 途中で、真っ黒な何か良く分からないモンスターを何匹か跳ね飛ばした。


「ギャッ!」


「グエッ」


 止まったペガサスから飛び降りつつ、俺はサンダラーを抜く。


「こいつらが邪神の手先か!」


 魔銃が轟音を上げた。

 ハブーの家々を襲っていた黒いモンスターが身体に風穴を穿たれ、吹き飛ぶ。

 こいつらは、手足が生えた魚みたいな姿をしている。

 それが、鉤爪で家の扉を引き裂き、住人を襲おうとしているのだ。


「何これ!? 昨日までは全然こんなことなかったのに!」


 メリッサが、手近なモンスターを拾った角材で殴り倒す。


「メリッサさん! クリスくん!」


 レオンの声がした。

 少し向こうで、半透明の戦士が黒いモンスターを蹴散らす。

 そこから、レオンが現れた。


「聞き覚えがある音がしたと思ったら、やっぱり戻ってきたんですね!」


「レオン、一体どういうことなんだ? どうして襲われてるんだ!」


「どうやら僕たちは、邪神を追い越してしまっていたようです。あいつはついさっきハブーの近くを通りかかり、手下を差し向けてきたんです!」


「無差別ってやつか!」


 また、新手が飛び出してきた。

 敵は、水中からどんどん出現するみたいだ。

 海を旅しながら、邪神は手下を増やしていたんだろう。

 俺は現れたモンスターに突っ込みながら、魔獣を乱射する。

 そして同時に、トリニティを構えた。


「戻れ、ポヨン! トリー、ペス、弾丸に!!」


 マーブルカラーの弾丸と、白い弾丸がトリニティに装填される。


「複合召喚! グリフォン!!」


 放たれる光が、鷲の頭と翼を持つ巨大な獅子となる。


『ケーンッ!!』


 飛翔した鷲獅子が、モンスターの群れを粉々に砕いた。

 撃ち漏らしは、俺がサンダラーで片付ける。


「やりますね、クリスくん! よりできるようになった……!」


「そうだね! クリスくんはどんどん強くなってる!」


 仲間たちが後ろを守ってくれる。

 俺はどんどん突き進むだけでいい!

 甲板の端まで走ると、上がってこようとするモンスターを射撃で撃ち落としていく。

 何匹を倒したことか。

 突然、モンスターが上がってこなくなった。


「ウウウ……! 危険な魔銃使いめ……! バラドンナ様がおっしゃった通りだった……!!」


 水中から、そんな声が聞こえた。

 俺の背筋が粟立つ。

 慌てて、後ろへ跳んだ。

 次の瞬間、水中から巨大な黒い腕が飛び出して来た。

 それは、ついさっきまで俺がいた場所を、激しく叩く。

 その腕を切っ掛けにして、姿を表す巨大な影。

 幾つもの魚が組み合わさった、グロテスクな巨人だ。


「魔銃、それとも魔獣使いか! お前はここで、この俺が殺しておく!!」


 巨人は叫びながら、俺に向けて巨大な腕を振り上げた。


「ペス! トリー! ポヨンと合わさって、三重複合……」


 対抗すべく、俺はトリニティを構えた。

 ここは、ドラゴンを呼び出すしかない!

 ちょっとはハブーに被害が出るかも知れないが……仕方ない!


 だが、その時だ。


「あら、エフエクスに行く前に変なのがいると思ったら」


 女の人の声がした。

 えっ、と思って声のした方向を見ると、砂浜からこちらに飛び移ってきた、綺麗な女性がいる。

 長い金髪が風になびいて、質素な服のスカートが翻る。


「危ない!」


「そうね。さっさと片付ける」


 彼女は腕まくりして、拳を固める。

 ……今、彼女の腕が一回り膨れ上がったような?

 そして、拳の周りがバリバリと音を立て、光り輝き始める。

 あれは……小さな稲妻……?


「そぉいっ!!」


 甲板を蹴って、彼女は飛び上がった。

 打ち下ろされる、モンスターの黒く巨大な拳に、稲妻を纏った拳を叩きつける。

 すると、信じられないことが起こった。


「ウグワーッ!?」


 モンスターの腕が、粉々に吹き飛ばされたのだ。

 女性が、巨大なモンスターに殴り勝った!

 そんなデタラメな……!


「やっぱりそうだ! レヴィアさーん!!」


 メリッサが駆け寄って来る。 

 彼女は、あろうことか角材を担いでいる。


「受け取ってーっ!!」


 メリッサは走る勢いに任せて、角材を放り投げた。

 猛烈な速度で、女性に迫る角材。

 レヴィアと呼ばれた彼女は、空中でそれをキャッチした。


「そぉーれっ!!」


 レヴィアの持つ角材が、稲妻に包まれた。

 これが、怯む巨大モンスター目掛けて投擲される。

 まるで、真横に走る雷だ。

 モンスターはそれに胴を打たれ、びくんと痙攣した。

 その直後、


「ウグ……ウグワワーッ!!」


 断末魔の叫びとともに、モンスターは粉微塵になって消え去ってしまったのだ。


「ふう……。ブランクがあったからどうかと思ったけど、結構いけるものね」


 彼女は俺の隣に着地した。

 服の両袖がビリビリに破れ、焦げてしまっている。

 うわ、筋肉がすげえ。

 それに、メリッサは今、彼女をレヴィアって……。


「あなた、魔物使いよね? もしかして、メリッサのお弟子さん?」


 ああ、やっぱり。

 この人も、メリッサの関係者なのだ……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ