朝の召喚モンスターたち
寝覚めは最高だった。
ここしばらく、船の上で寝起きしていたもんな。
ハンモックは寝心地が悪くは無いけど、とにかく揺れる。
おかげで、夢の中でまで船に揺られていたくらいだ。
ああ、地面がしっかりしてるっていいなあ。
「む……むおー」
ベッドから半身を起こして大きく伸びをする。
そうしたら、どうやら俺の覚醒に気付いたらしいモンスターたちも、次々に起き上がってきた。
『ピヨー!』
トリーがベッドの上まで飛んできて、俺の膝の上に着地した。
小さくなっていると、オウムくらいの大きさしか無い。
撫でて、という感じで頭を突き出してくるので、ぐりぐり撫で回してやる。
『ガオガオ』
ペスはベッドの脇に前足を引っ掛けている。
彼の三つの頭と、蛇頭の尻尾が一斉に俺に近寄ってきたので、大変忙しくその頭を撫で回すことになる。
『ブルルー』
「ポヨン、お前もかー!」
頭を寄せてきたポヨンを、わしわし撫でる。
『キュルルー!!』
これを見て、飛び上がって反応したのがチューだ。
彼は小さいので、俺の枕元に転がって寝ていたのだけど、みんなが俺にナデナデされるのを見て、自分もしてほしくなったらしい。
俺の手のひらに、自分からぎゅうぎゅう頭をくっつけてくる。
「分かった、分かったから! 俺は一人しかいないんだから順番な!」
『ガオーン』
『ピヨヨー』
『ブルルン』
『キュルー』
モンスターたちは、順番によいお返事をした。
物わかりがよくて助かる。
俺、契約したモンスターがみんな人間ができてるので助けられてるところがあるかも知れないなあ。
メリッサが契約してるモンスターなんか、みんなめちゃくちゃ個性が強そうで、俺は御しきれる自信がない。
いや、かと言って、うちのメンバーがメリッサのモンスターに負けてるなんてことは全然ないぞ。
俺の召喚モンスターたちは世界一だ!
俺の考えが伝わるみたいで、みんな、一斉に目を輝かせて、ぎゅっと俺にくっついてきた。
「うわー! 暑いぞー!!」
たくさんの毛玉にむぎゅむぎゅされて、悲鳴を上げる俺なのだった。
おかげで、すっかり目が覚めてしまった。
エフエクス村には井戸がない。
昔は、地下水には毒が混じっていたし、こちらの世界に移動してきた時、完全にその地下水もなくなってしまったのだそうだ。
その代わり、近くの川から用水路を引いている。
農業用水にも使われているようで、そこまで行って水を汲み、顔を洗うことになる。
うちのモンスターたちを引き連れて、顔を洗いに行ったら、村の人たちはちょっとびっくりしたようだった。
だが、怖がっている様子はない。
「ねえねえ、触ってもいい?」
逆に、子供たちが興味津々で近づいてきた。
俺はモンスターたちに聞いてみる。
「子供たちに触らせてもいいか?」
『ガオン』
『ブルル』
仲間のうちでも一番身体が大きい、ペスとポヨンが快諾してくれた。
トリーは俺の肩に載っているのが大事らしく、どんなに動いてもその位置から離れない。
これに対抗してか、チューがもう片方の肩にしがみついている。
こっちはグラグラしてて、今にも落ちそうだ。
チューはぶきっちょらしい。
「きゃー、おっきー!」
「ふわふわー!」
「あったかーい」
村の子供たちと、ペスとポヨンが遊び始める。
そこへ、またわんさかモンスターが増えた。
メリッサの登場なのだ。
「おっはよう、みんな! おっ、クリスくんもいるじゃーん」
そう言って現れたメリッサは、朝からモンスターの毛まみれだった。
どうやら俺と同じ目覚め方をしたみたいだ。
「おはようメリッサ! ……なんか今朝は、さらにモンスター増えてない? でっかいオストリカがいる」
「あ、この子?」
メリッサが満面の笑みになった。
彼女の横には、まるでメリッサを守る騎士みたいに、大柄な赤いネコ科の肉食獣が付き従っている。
彼は俺を見て、
「フヤン」
と鳴いた。
可愛らしい発音なんだけど、声はドスが効いててなかなかの迫力。
「この子がボンゴレ。私の一番最初のパートナーなんだよ!」
「それが噂の!」
すると、ボンゴレの毛の中から、見覚えのある小さい赤猫がちょこんと顔を出した。
「オストリカ! お父さんとまた会えたんだな」
「フャーン!」
オストリカは元気よく鳴くと、ボンゴレの頭を蹴飛ばしてジャンプした。
俺に抱きついてくる。
『ピヨ!?』
『キュルル!』
落ち着け二匹とも。
ちょっとくらいいいだろう?
オストリカを撫でていると、ボンゴレの足下からちょろちょろちょろっと、オストリカによく似た赤猫がやって来る。
その後ろからは、ボンゴレよりも一回り小柄なモンスターが。
あれがオストリカのお母さんかあ。
オストリカファミリー勢揃いだな。
そろそろ、子供たちよりもモンスターの方が多くなりそうな勢いだ。
いや、ちょっと多いんじゃないだろうか。
顔洗い場の用水路は、朝のもふもふ交流会場になってしまった。
「そうか、メリッサのモンスターがいつもいるから、みんな怖がらないんだな」
「そういうこと。みんなもすっかり、どういうモンスターなら怖くないかって分かってるわけ。クリスくんのお友達はみんな優しいもんね。あの子たちなら、すぐに受け入れられて当然だよ」
そう言うと、彼女はトリーの顎の下をこちょこちょ撫で、チューの頭の後ろをむにむにと揉んだ。
二匹とも、すっかりメロメロになり、気持ちよさそうに目を細めている。
さすが、先輩魔物使いだ。
ところで、そうやって俺の両肩のモンスターをいじってると、彼女との顔の距離がとても近くなるのだ。
メリッサの吐息が掛かって、俺は頬が熱くなるのを感じた。
「め、メリッサ、近……」
「あっ」
メリッサも気付いたようで、目を丸くした。
それでもまだ、モンスターをもふもふするつもりらしく、目を閉じて一心不乱にトリーとチューをいじっている。
しばらくして、ようやく彼女が離れた。
髪の隙間から見える彼女の耳が、真っ赤になっていた気がする。
なんだろう。
いや、俺もそろどころじゃない。
以前にも増して、メリッサが物理的な距離を近づけてきてる気がするなあ。
ここ最近、ドキドキし通しだ。
「さあクリスくん! 顔を洗って、朝ごはん食べたら出かけるよ!」
妙に元気なメリッサの声で、我に返る。
彼女は顔を洗い終わって、村長の家に向かうところだった。
俺たちはそこに泊めてもらっているので、朝食も村長宅でとる。
「あっ、待ってくれよメリッサ! 俺も行くから!」
俺は慌てて顔を洗い、彼女の後を追うのだ。
メリッサ、振り返りもしないでどんどん行くなんて、そんなに腹が減ってるんだろうか?




