集合、魔物使いの仲間たち
メリッサが戻ってきたと聞いて、エフエクス村の人々が集まってくる。
「おうい、我が村の英雄がご帰還だぞ!」
「よく帰ってきたねえメリッサ!」
「大きくなったなあメリッサ!」
「と、隣の男はなんだメリッサ!」
中には俺を敵視してるやつまでいるぞ!
そんなわけで、大騒ぎになってしまった。
俺たちは大歓迎され、エフエクス村の名物料理でもてなされる。
野ブタの丸焼き、野うさぎの丸焼き、鹿の丸焼き……。
豪快だ。
味付けは塩とハーブ。
後は山盛りの野菜の炒めもの。
野菜と肉のスープ。
「メリッサ。量が多くない?」
「そうでもないよ? 村の人みんなで食べるのに、ちょうどくらいじゃないかな」
「大食いの村なんだなあ。そう言えば、ちょっとふっくらしている人が多いかも」
俺の感想を聞いて、村長だというおばさんがニコニコした。
「それはね、あたしらが以前いた、闇の世界は本当に食べ物が少なくて、しかも美味しくなくてねえ……。生きるために食事をするような世界だったんだよ。だけど、レヴィア様とウェスカー様があたしらを救って下さってね。こっちの世界にやって来ることができたわけさ。そうしたらどうだい! この世界は食べ物がいくらでもあるし、しかも何を食べても美味しいのさ……!! 食べ過ぎちゃうのも無理はないだろう?」
「なるほど、気持ちは分かる……」
俺も、下級の冒険者だった時は、ろくなもの食えなかったもんな。
おかげでメリッサと出会ったばかりの頃、俺の背丈は彼女と同じくらいしか無かった。
だが、メリッサと一緒になってから、美味しいものを食べる機会が増えた。
俺の背丈も順調に伸び、今ではメリッサよりも頭半分くらい大きい。
「おいしい食べ物は大事だよな!」
「クリスくん、妙に実感がこもってるねえ」
メリッサが笑った。
俺的には、何もかも、あの地下迷宮を出たあとのことはメリッサを中心に回ってるんだけどな。
きっと分かんないだろうなー。
「あ、みんな来た」
メリッサがどこか遠くを見て言った。
みんな?
エフエクス村の人たちが、料理の乗ったテーブルを持って移動し始める。
メリッサの背後の方へ。
どういうことだ?
「おーい、みんなー!」
メリッサが手を振る。
彼女の頭の上に、魔精霊のパンジャが出現し、『キュキュー』と鳴いた。
遠くに、土煙が見えた。
それはどんどん近づいてくる。
そして、上空からも大きいものが。
「ってあれ……なんだあれ!? でかい白い猿!? ドラゴン!?」
大きな猿は村の囲いを軽々と飛び越えると、俺たちの目の前に着地した。
その横に、巨大なドラゴンも降り立つ。
ドラゴンの背中からは、筋骨隆々の豚頭の巨漢も降りてくる。
「なんか明らかにモンスターっぽいのまでいるんだけど!」
「あれはオークのチョキ。成長したんだよね。昔はこーんな小さかったのに」
チョキとかいう可愛い名前のオークは、革製のパンツにジャケットを羽織り、俺の魔銃に似た、しかしもっとでかい鉄の塊を背負っている。
「ぶいー!!」
チョキは野太い声で、メリッサに何か呼びかけた。
「ウキー!」
白い大猿、ビアンコが飛び上がってはしゃぐ。
着地する度に、村の地面が揺れた。
そして、ドラゴン。
「お待ちしておりました、メリッサ様」
「人の言葉を話した!!」
腰を抜かしそうになる俺。
ここで、俺の腰から弾丸が飛び出してきた。
それは魔銃トリニティに入り込む。
「お、よーし、みんな出てこい!」
空に向けて、トリニティのトリガーを引く。
三つの銃口から、三色の輝きが放たれた。
ペス、トリー、ポヨン、三匹のモンスターが出現する。
さらに、
『キュルルー』
チューがどこからか飛び出してきた。
四匹が俺を守るように立つ。
「ほう、若き魔物使いというわけですか。彼は見た所、メリッサ様の弟子でしょうかな」
「うーん、似たようなものだけど……。あ、彼はクリスくんって言ってね。私が色々お世話したり、お世話されたりしたの」
ドラゴンの言葉に、メリッサは返答を曖昧にした。
ドラゴンはふんふん、と頷いていた。
そして俺へと向き直る。
「ああ、申し遅れました。わたくし、ネーロと申します」
ドラゴンは丁寧な口調で俺に言うと、その姿をみるみるうちに縮めていった。
あっという間に、天を衝く巨体が長身の人間の男になっている。
礼服みたいなものを着ているな。
「メリッサ様のお供としては新参ですが、こうして言葉を話せる関係上、まとめ役を仰せつかっております。我々魔物一同、あなたを歓迎いたします、クリス殿」
「ウキキ!」
白い大猿も、あっという間に小さくなる。
チョキの肩に乗るくらいの子猿になってしまった。
「ネーロ、ボンゴレは?」
「筆頭ですか。彼は、久方ぶりにご子息が戻られたので、家族サービスをするそうですが」
「マメだねえ。私よりも家族を取るかー」
メリッサ、嬉しそうな、でもちょっと複雑そうな表情。
「ボンゴレって、オストリカの父親か」
「そ。私のね、最初の魔物なの。私は彼と一緒に戦って、初めて魔物使いになれたんだよ」
「特別なやつなんだなあ……。俺もちょっと会ってみたい」
「すぐ会えるよ。多分その時は、家族勢揃いで来るんじゃない? さ、ご飯の続きにしよ。冷めちゃうよ」
メリッサは食事に戻っていった。
その後ろで、俺のモンスターたちと、メリッサが従える魔物たちが交流し始めている。
うちのメンツは、まだまだ召喚モンスターとしては新人みたいなものだしなあ。
この機会に、魔王と戦ったという先輩たちに触れて学んでおくのもいいかもしれない。
「それでね、クリスくん。この後の予定。どうやらみんな、邪神バラドンナについては知らないみたい」
村長のおばさんが、こくこくと頷いている。
「なので、村で一泊したら、明日はキーン村に行ってみよ? あ、キーン村っていうのはね。エフエクスの方と砂浜と、連合王国を結ぶ要衝にあってね……」
メリッサは地図を取り出すと、俺に肩を寄せてきて覗き込むように指示した。
うわー、距離が近いと、メリッサの体温がわかってなんだかドキドキする。
そんな俺たちを、村長は実に嬉しそうに見ているのだった。




