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ジョージの誤算!?

「ふざけんな! やってられるかよ!!」


 冒険者の店から、凄い怒声が響き渡った。

 第二階層から、俺たちが帰ってきたばかりのことだ。


「はあ!? ちょっと仕事させただけで魔力切れになりやがって! お前が軟弱なのが悪いんだろうが! こっちは高い給料払ってるんだよ!」


 この声はジョージだ。

 またあいつ、ろくでもないことをやらかしたのか。


「ま、だいたい想像つくけどね。クリス君と同じようなやり方で、新しく入れた魔銃使いをこき使ったんでしょ」


「なにか分かるのか、メリッサ?」


 メリッサは答えず、目配せだけしてくる。

 俺たちは冒険者の店に入っていくと、ジョージのパーティが揉めている最中だった。

 メリッサの言う通り、ジョージ相手に啖呵(たんか)を切っているのは魔銃使い。

 あれは確か、それなりに腕が立つ冒険者だったはずだ。

 それが、どうしてジョージに激怒しているんだ?


「魔銃はな、あんな風に使うものじゃねえんだよ! 魔力を弾丸に変えて撃つんだ! 無駄玉を撃たせられたら、数回の戦闘で魔力も空っぽになる! あんなクソみたいな命令聞けるか!」


「なんだと!? この間クビにしたクリスですらできたんだぞ! お前は上級冒険者だろうが! できねえとか、サボってんのか!」


「うるせえ! ジョージ! おめえは何も分かってねえ!! 魔銃ってのはなあ!」


 おうおう、喧嘩してる。

 でも、喧嘩の内容が理解できないな。


「クリス君。あのジョージっていうおじさん、君をめちゃめちゃに酷使してたんでしょ? 一日中魔銃を撃たせて牽制させてたとか」


「あ、ああ。俺にはそれくらいしかできないってジョージが言ってたから」


「魔銃って、魔力を弾丸として使う武器なのよ。だから、使うほどに使い手の魔力が削られていくの。そんなの、一日中撃ち続けたりできるわけないでしょ?」


「そうなの……?」


 ダリアがうなずく。


「そりゃそうよ。魔銃は魔力さえあれば誰にでも扱えるけれど、使い手の魔力量がもろに弾丸の使える量に影響するのよ。クリスみたいに召喚したり、バカスカ撃ったりは普通できない」


 つまり……?


「クリス君は、魔力量も並外れてるのよ。ううん、ずっと酷使されてて、いつの間にか魔力の量が桁外れのレベルに成長していたと言うべきかな? そこんところは、癪だけどあのジョージとかいうののおかげかもね? ま、普通だったら魔力枯渇で死んでるけど」


「し、死んで……!?」


 洒落にならない。

 メリッサいわく、俺が死ななかったのはたまたま、生まれつき魔力の量が多かったからだけかも、とか。

 死にかねないことを仲間になる魔銃使いに強制したジョージ。

 そりゃあ、切れられて当然だ。

 魔銃使いは、他の冒険者たちもいる前で、辞表を殴り書きし、ジョージに叩きつけた。

 こうなると、パーティリーダーは相手を思いとどまるよう説得するくらいしか、できることはない。

 当然、怒り狂ったジョージがそんなことをするはずもなく……。

 彼のパーティの魔銃使いはまたいなくなってしまったのだった。


「おいおい、聞いたか? ジョージのやつ、とんだ非常識だ」


「あんな有様で、上の階層の冒険者になろうとしてたのかよ」


「一生あなぐら探索がお似合いだぜ」


「絶対、あいつの下では働きたくないな」


 あちこちで、この事を肴に盛り上がる冒険者たち。

 ジョージはこれを聞いて、赤くなったり青くなったりだ。

 そこで、あいつは俺を見つけたようだ。


「お、おお! いいところに来たなクリス! 今なら、なんのペナルティもなく戻ってこれるぞ! 特別に許してやるから戻ってこい!」


「誰が戻るかよ! 俺はあんたから離れて、今は自由なんだ!」


「な、なんだとぉ!? てめえ、俺にあれだけ世話された恩を忘れやがって……! そうだ! その魔銃は俺がくれてやったもんだ! 戻ってこないって言うなら返せ!」


 めちゃくちゃなことを言ってきた。


「それに聞いてるぜ。お前、どうやら召喚士とやらになったそうじゃねえか……! 俺のパーティにいたころには、その才能を隠してやがったんだな!? ちくしょう、誰も彼も俺をバカにしやがって……!!」


 歯ぎしりをするジョージ。

 すると、彼の前にメリッサが歩み出た。


「ちょっと!」


「ヒェッ」


 ジョージが股間をおさえて後退(あとじさ)った。

 どうやらトラウマになってるみたいだ。


「なんかめちゃくちゃ言ってるじゃん! 今度は本気で蹴っ飛ばしてあげてもいいんだけど!」


「や、やめろ~」


 弱々しいジョージの悲鳴。

 すっかりメリッサが苦手になったのだろう。

 俺はここで、一つ思いついた。


「そんなに魔銃が返してほしいなら、返してやるよ。俺、この魔銃で召喚したんだから、特別な魔銃だぜ」


 そんな事を言って、ジョージに魔銃を放り投げたのだ。

 あいつはそれを聞くと、顔中を笑みにして銃をキャッチした。


「そうか! つまりこいつを使えば、俺も召喚……!」


 俺の手から離れた時点で、魔銃のシリンダーからは召喚の呪文が消えている。

 どうやら、俺が使おうと思う時に呪文が浮き上がるようだ。

 それなら、あの魔銃でなくても構わないんだろう。


「へへへ、悪いなクリス! こいつで俺も、また成り上がってやるとするぜ!」


 ニタニタ笑いながら、ジョージたち一行は迷宮へと向かっていくのだった。

 そもそもジョージは、召喚どころか魔銃が使えなかったはずだけどな。


「あー、あれはいざという時に、ひどい目にあうやつだ」


 メリッサが振り返った。

 俺の胸を指先で小突く。


「クリス君も人が悪いなあ。君の召喚って、銃じゃなくて君自身の能力なのに」


 そう言いながら、クスクス笑う。


「これくらいいいだろ? あと、実はお願いが……」


「うん、分かってるよ。新しい魔銃もオーダーしに行かないとね。そのお代金は、貸しといてあげる」


 太っ腹なメリッサなのだった。

 そのうち、俺もどーんと稼げるようになってお返ししなくちゃ。


「気を取り直して……飲むとしますか!!」


 ダリアの宣言に、俺達は快哉(かいさい)を上げた。

 どんどん運ばれてくるビールのジョッキに、肉料理を中心に並んでいく食事の数々。


「あれ? メリッサ、酒は呑まないの?」


「私、本格的に食べる時はお茶にするの。アルコールで舌が鈍ったら悔しいじゃない? つまりこれは……私が全力で食べるということ!」


 そう宣言すると、メリッサは猛烈な勢いで肉料理を平らげ始めた。

 彼女、体は大きくないのに、大人の男であるハンスやヨハンよりも大食いだ。

 運ばれてくる料理の半分くらいは、メリッサが一人で片付けてしまう。


「でも、クリスが召喚士だっていう話、知られてたね」


 ビールをちびりちびりと舐めながら、リュシーが言う。

 光の神ユービキスは、聖職者の飲酒を許している。だから、リュシーは酒だって自由に飲めるのだ。

 ただ、彼女が酒に弱いだけだ。


「そうだな。秘密にするって話だったんだけど……」


 冒険者の店の長、ガッドは口が固そうだったし、彼の上司は王家なわけで、俺の事情を周囲にばらすとは思えない。


「冒険者ってのは、どこからか情報を聞きつけてくるもんだからな。恐らく、お前が召喚を行ったところを見てた奴がいたんだろう」


 盗賊のヨハンがそう言うと、説得力がある。

 そして、俺が召喚士だってことがバレると、ちょっと面倒なことになる。


「おい、クリス。お前すげえじゃねえか。召喚士って言えば、伝説の職業だろ? 冗談だって取るには、ジョージの野郎の態度があまりにも真剣すぎた」


「ちょっとここで召喚して見せてくれよ」


 ほら。

 他のパーティから、俺にそんな声がかかる。

 だが、俺は魔銃が無いと召喚ができない。

 彼らの言葉をどう断ったものかと考えていると……。


「あによ、あんたたち! うるさい! 私達はご飯食べてるの! 邪魔するならジョージみたいに股間蹴って天井にめり込ますわよ!!」


 メリッサが、ガオーッ吠えた。

 これを見て、冒険者の男たちは震え上がった。

 彼女の容赦なさと、大の男を天井に突き刺すパワーを目にしていたからだ。


「あひた!」


 もぐもぐと料理を頬張りながら、メリッサが俺に指を突きつけた。


「な、なんだ?」


「んぐっ。明日ね。銃を探しに行こう。一気に第四階層まで登るからね」


「よ……四階層!?」


 昨日今日と、初めて第二階層まで行っただけで興奮冷めやらぬ俺だ。

 それが、第四階層なんて、まさに天の上の世界だ。


「おっ、デートか? クリス、お前も隅におけねえなあ!」


 ヨハンが小突いてくるが、気にならない。

 俺の頭の中は、まだ見ぬ第四階層のことでいっぱいになっていた。

 やばい。

 今夜はドキドキして絶対眠れない。

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