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船旅と、メリッサの話

 海を越え、どこまでも真っ青な世界を突き進む。

 魔動船は、エンジンを時々休めないといけない。

 魔力で動いているから、俺たちが、使った分を込めなくちゃいけないためだ。

 普通の人間でも、魔力というのはあるらしい。


「じゃ、込めるよー!」


 メリッサが声を掛ける。


「おう!」「いいですとも!」「いきますよ!」


「フャン!」『ガオ』『ピヨ』『ブル』『キュルー』


 うちの場合、モンスターたちがいるからとても効率がいい。

 特に、ペスとチューは魔法を仕えるから、魔力を操るのが得意なのだ。

 剥き出しになった魔動エンジンに、みんなの手や前足を載せる。

 トリーはそのまま乗っかってるな。


 魔動エンジンは、一見して黒くて四角い箱だ。

 この箱の中、四面に魔法陣が描かれていて、魔力を外から注ぎ込むと、増幅するようになっている。

 増幅された魔力は、箱の中で反響して回り、漏れ出た魔力が船に伝わってこれを動かす。

 少しずつ魔力を漏らして、それで船を動かすわけだ。

 だから、だんだん魔力も目減りしていく。

 そうなったら、こう言う感じの補給タイムってわけ。


「ふんぬぬぬっ!」


 魔力を出すってのは、エンジンに掛けた手に意識を集中する感じ。

 そうすると、手のひらがじんわりと熱くなってくる。

 その熱は、箱に吸い取られて行く。

 すっと手のひらが冷える。

 また力んで、手のひらを熱くする。

 エンジンに吸い込まれて、手のひらが冷える。

 この繰り返しだ。


「も、もうだめですよう」


 今日も、アリナが真っ先にへたばった。

 魔力を込めるのって、とても体力を使う。魔力と体力は同じものなんじゃないかな。


『ピヨヨ~』


『キュル~』


 トリーとチューも疲れてしまったみたいだ。

 一羽と一匹、アリナの横に倒れてのびてしまっている。


「よっし、こんなとこでしょ」


 メリッサが鼻息も荒く、「おしまーい!」と宣言した。

 アリナがへばってから、お湯が水になるくらいの時間が経っている。

 流石に俺もくたくただ。

 レオンも疲れたようで、ため息をつく。

 元気なのは、メリッサとペス、ポヨン。

 オストリカは多分あれ、魔力を込めるのがよく分かってないから、遊んでただけだと思う。


「お疲れ様ー。みんな、日陰に行って休んでて。あとは私と……」


『ガオン』


「ペスでやるから」


 ペス、魔獣使いである俺を差し置いて、メリッサと一緒に作業をするだと!?


『ブルルー』


 動こうとする俺を、ポヨンがどしんとぶつかってきて止める。


『ブルル』


「休めってことか。参ったなあ。ポヨンから見ても、俺は疲れてるように見える?」


『ブル』


 仕方ない。

 ここは、冷たくてひんやりしたポヨンに寄りかかって、一休みするとしよう。


「あー、ポヨンさん、冷たくていい気持ちです~」


 アリナまでくっついてきた。

 ポヨンは人間ができているヒッポカンポスなので、これくらいでは動じない。

 俺たちはしばらく、日陰で体力回復に励んだ。

 こう、もうちょっと力をつけないとな。

 メリッサの無尽蔵な体力とまではいかないけど、せめて終わっても彼女の仕事を手伝えるくらいには……!


「クリスくん、彼女についていくのは並大抵ではありませんよ。あの体力というか、魔力量はおかしいです。メリッサさんがかつて話されていた、とんでもない使役モンスターの数々が現実だとすれば、ようやく納得できるレベルです」


 息が整ってきたレオンの話を聞いて、なるほど、と思う。

 ドラゴンや、猿の神様を従えているから、無尽蔵な魔力を手に入れているってことか。

 メリッサはやっぱり凄いな……!

 俺は本当に頑張らなきゃだめだぞ。


「よしっ! 明日からがんばる」


 俺はそう誓うと、とりあえず一眠りするのだった。




 魔力を充填したペスカトーレ号の航行は順調。

 結構な速さで、昼も夜もなく大海原を駆け抜けていく。

 俺たちももう、船の揺れには慣れたもので、疾走する船の甲板で爆睡できたりする。

 時々嵐に突っ込んで、慌てて船室に避難したり。


 何日間も、そんな海を行く日々が続く。

 海では、自分から動いて見つけないとやることなんかない。

 魔動船は速いから、釣りなんて無理だし、以前みたいにポヨンを海にはなったら、置いていってしまいそうだ。

 次なる目的地が分かったときから、メリッサ船長は気がはやっているように見える。


 それはそれとして。

 俺は網を作って、これで海面に近いところの魚を捕る方法を編み出した。

 おかげで、毎晩メインディッシュは魚だ。

 これが意外と、おかずを捕る以外に役立つのだ。


「魚が変わってきた」


 極彩色の魚ばかり捕れていたのが、青や黒といった、シンプルな色の魚に変わった。


「それ、見たことある! そろそろ近いよ、ユーティリットの大陸!」


 青い魚を見たメリッサのテンションが上がる。

 やぱり、里帰りって嬉しいんだろうな。

 思えば、メリッサもまだ、十七歳だ。

 俺より二つ上なだけだもんな。


「クリスくん、ユーティリットはね、いいところだよ! ……良くないところもあるけど、まあいいところだね。うん、多分」


「メリッサ、いきなり目が泳ぎ始めたんだけど」


 せっかくだから、メリッサから詳しい話を聞きたいな。

 俺は彼女と一緒に、舳先に背を向けて腰掛ける。

 後ろから、強い風が吹いてきて気持ちいい。


「あのさ、メリッサの故郷ってとういうところなんだ? 俺、バブイルから出たことが一度もなくてさ」


「そっか! 私は世界中巡ってたからなあ。あのね、ユーティリット連合王国ってところは、元は四つの国に分かれててね?」


 メリッサが、目を輝かせて説明してくれる。

 四つの王国があり、それぞれ、かつては平和だったらしいこと。

 らしいというのは、その頃はメリッサは王国にいなかったそうだ。

 魔王とやらに封印された世界で、彼女は生まれた。

 そして、後に勇者となるお姫様と、彼女のお供である大魔導に助けられた。


 メリッサの世界は闇に閉ざされていて、そこを支配する強大な魔族が存在していた。

 勇者と大魔導はこの魔族を倒し、メリッサの世界を解放したのだ。

 そして、彼女の故郷がこっちの世界に現れて、ユーティリット連合王国と一つになった。


「それからも色々あってね? 魔王と戦ってたら、国がみんなめちゃくちゃになっていって、無事だったのはユーティリット王国だけだったの。だって、そこには勇者になったお姫様と、魔王軍も恐れる大魔導がいたんだもの」


「へえ……。あのさ、メリッサの話を聞いてると、勇者が凄いのは分かるんだけど、大魔導はそんなに強かったのか? 魔法使いって、近づかれたら何もできないし、魔法を使いすぎると、この間の俺たちみたいにバテバテになっちゃうだろ?」


「うーん、その人、ウェスカーさんはね、そういう普通の魔法使いじゃなかったなあ。魔法使いなのに、敵とぺったりくっつくくらいのところで戦ったり、幾ら魔法を使ってもケロッとしてたり、毎回変な魔法を新しく考えたり……」


「なんだよそれ、そいつ、反則じゃん!?」


「あはは! そうだねえ、あの人は反則だった! 次の瞬間は何をするかわかんないの。だから、味方にしたらすっごく頼もしいんだよ。この人なら、どうにかしてくれるって思えた。だけど、魔王からしてみたら、こんなに怖い相手はいないんじゃないかな?」


「確かに。話を聞くだけで、敵にしたくないよ」


 ウェスカーとかいう魔法使いの話をするメリッサは、とても楽しそうだった。

 ちょっと妬けるなあ。

 幸い、向こうはメリッサを子供だとしか見てないし、勇者と結婚して娘までいるらしい。

 でも俺が思うに……。

 メリッサ、そいつのこと、ちょっと好きだったんじゃないかな?


 だったら、俺はその鈍感な奴にあったら、一発小突いてやらないとな……!

 鼻息を荒くして、拳を打ち合わせる俺なのだった。


 ……ところで、なんで魔法使いなのに、大魔導なんていう大仰な称号がついてるんだ?

 勇者パーティの魔法使いだから?

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