遭遇、邪神バラドンナ!
ここから、週一更新くらいでやってまいります!
意外な勝負の結果に沸き立つ会場。
だが、俺は忘れていなかった。
ここに来た目的は、地下闘技場に潜んでいる邪神バラドンナを見つけ出すことなのだ。
「さっそくだけどカーバンクル……そうだな、お前の名前は、チューにしよう!」
『キュルル!』
カーバンクルのチューが、嬉しそうに俺に頬ずりする。
メリッサはそろそろ、俺のネーミングセンスに何も言う気が無くなったらしい。生暖かい目をしている。
「チュー、この中に邪神バラドンナがいるはずなんだ。分かるか?」
『キュルルー』
チューが首を傾げる。
分からないみたいだ。
いや、目や鼻を使って何かを探るのは、こいつの本分じゃ無いのかも知れない。
確かラマルフは、カーバンクルが運命を操るって言ってたな。
「チュー、それじゃあ、運命を操るってやつをやってもらっていいか?」
『キュルル!』
チューは元気よく頷くと、俺の肩から頭の上までよじ登っていく。
そして、
『キュールールー!』
元気よく叫んだのだった。
頭上から、金色の輝きが広がっていく。
俺の指先まで光が宿ったところで、それは消えてしまった。
「何だったんだ、今の?」
指先を掲げて見てみる。
ふと、その指の間から、金網の向こうが見えた。
まだ興奮冷めやらぬ観客が、わいわいと騒いでいる。
そんな彼らの間から……見覚えがある男の顔が見えた。
「ブラス!!」
間違いなく、青の戦士団の一人であるブラスだった。
あいつが、邪神が宿った魔銃を持ってバブイルから出ていった男だ。
多分、ジョージと同じ様に、あいつは魔銃に操られている。
ブラスは俺を見ると、ニヤッと笑った。
「待て、ブラス!!」
俺は金網を飛び出して、ブラスを追った。
進む先の人波が、ちょうど通りやすいように割れていく。
「ブラスですか!? クリスくん、待ってください!!」
レオンの声が聞こえるが、彼は観客に引っかかっているようだ。
俺だけが、何の邪魔もなくブラスを追いかけられる。
「待て、ブラス!!」
『ほう、カーバンクルの加護を味方につけたか! このままでは追い付かれてしまうわい。だが、儂もただただのんびりと闘技場で見物していたのではないぞ! そおれ、新たなる我が配下よ!!』
ブラスは叫びながら、魔銃を撃つ。
撃つ!?
魔銃は、それを扱う才能がなければ引き金を引いても何も起こらないはずだ。
だけど、才能が無いはずのブラスがそれを撃てるということは、あいつは全く違う何者かになってるってことだ。
待てよ、魔銃が本体なら、撃たされているのか?
「もがーっ!!」
「ぎゃおーっ!!」
ブラスの射撃に合わせて、あちこちにある檻の中から、モンスターが飛び出してきた。
観客が悲鳴を上げて逃げ惑う。
猛烈な混雑だ!
「うわー、邪魔ー!」
「どけお前らー!」
「ひえー」
メリッサにゼイン、アリナの声が聞こえるが、こりゃ、追いつくのは無理だな。
俺がやるしかない!
「行くぞ、サンダラー!!」
引き抜いた魔銃で、飛び出して来たモンスターを打ち倒す。
フクロウの頭をした巨大な熊だ。
「トリニティ!! 行け、ペス!!」
『ガオーン!!』
もう片方の手で三つの銃口を持つ魔銃を引き抜き、ぶっ放す。
光とともに、キメラのペスが飛び出し、襲いかかろうとしていたモンスターを押しつぶした。
こっちは角のある大ウサギだな。
『げえ!?』
ブラス……もとい、バラドンナが呻く。
俺の前だけ、人垣は綺麗に割れて、通りやすくなっている。
まっすぐ、速度を落とさずに突っ走るだけだ。
『キュールー!』
よし、チューの加護がお代わりだ!
俺が足を振りげたら、後ろから台車がすっ飛んできた。
おろした足が台車に乗り、俺は猛烈な勢いで加速した。
『そんなのアリか!? くそお、カーバンクルなぞ戦闘力が無いと思ってスルーしていたら、とんでもない伏兵ではないか!』
バラドンナは、群がる観客を蹴り倒し、踏み倒しながら無理やり突き進む。
彼が道を切り開くから、俺はひたすらに直進できるのだ。
ついに、邪神を突き当たりに追い詰めた。
「終わりだ、バラドンナ! ブラスを解放しろ!!」
俺は叫びながら、サンダラーを突きつけた。
奴は振り返らない。
それどころか、肩を震わせて、
『ふ……ふふふふ』
と笑っているではないか。
『カジノ船では、まあまあの手勢を手に入れられた。これでよしとしようではないか。今の勢いに乗っているお前を相手にするのは、少々分が悪い! 少なくとも、儂が本来の力を取り戻すまではな』
そう言うと、バラドンナは壁に魔銃を突きつけた。
「何をするつもりだ!?」
『知れたことよ!』
バラドンナが引き金を引く。
爆発が起こり、壁が破れた。
その向こうに見えるのは、海の光景だ。
「まずい!!」
俺はサンダラーを撃った。
その一撃は、ブラスの肉体に命中し、彼を吹き飛ばす。
絶妙な命中箇所で、かなりのダメージを与えたはずだ。
だが……この幸運は、今度は邪神にも味方してしまったのだ。
『ふはははは! さらばだ小僧!! 儂はもっと力をつけるぞ! 目指せ、完全復活! そして真に平等な、何もかも境がない平坦な世界を作ってやる!!』
海に向かって、バラドンナは吹き飛ばされ、落下していった。
すぐにその姿が、波に飲まれて消えてしまう。
普通なら、あれだけのダメージを受けて水に落ちるなんて、死んだようなものだ。
だが、相手は邪神なのだ。
バブイル上空で戦った時も、あれだけ叩きのめしたのに今回みたいに平気で復活している。
魔銃を破壊しないとダメなんじゃないか……!?
「待て、邪神め!」
俺は後を追って、穴から身を乗り出そうとした。
「ストーップ!!」
そこで、後ろから来たメリッサに抱きつかれた。
うわあ、凄いパワーだ!
「クリスくん、飛び込んだら危ないでしょー! この辺、他に陸地がない海のど真ん中なんだから!」
「だけどメリッサ、邪神が逃げてしまった!」
「追いかけるしかないよね。あいつが逃げられないところに追い詰めてやっつけるのがベストでしょ」
前向きなメリッサなのだった。
確かに、俺が海に飛び込んだら、邪神とは違うただの人間なんだから、危ないに決まってる。
冷静さを失っていたよ。
船に開けられた穴は危険だということで、すぐさま修理担当の人間がやって来た。
これで、バラドンナを追うことはできなくなってしまった。
俺に幸運を授けてくれていたチューも、頭の上でしんなりしている。
力を使い過ぎたみたいだ。
「作戦会議しよ!」
メリッサの提案を受けて、俺達は宿の部屋に集まったのだった。
「あっという間だったなあ……。あいつ、逃げることを最優先にしてやがったぜ」
感心したようにゼインが言う。
かつての魔王軍は、人間に対して絶対的な強者だったため、逃げるということは無かったそうだ。
だから、メリッサやゼインが立ち向かって、倒していくことができたと。
「バラドンナ、目指せ完全復活って言ってたじゃない? つまり、私たちが戦ったあいつは、まだまだ本調子じゃなかったってこと。で、一度負けたから、本調子になるまでは戦う気がないわけでしょ? かなりたちが悪いよ」
メリッサが憤然として、ルームサービスの焼き魚を頬張る。
「ブラスの体も完全にコントロールしていたんですよね? 彼は獣人だから、とても回復力が高いんです。クリスくんが与えたダメージも、すぐに治してしまうことでしょう。だけど、ブラスは水中で生きられるわけではないですから……」
レオンの言葉を継いで、アリナ。
「どこか陸地に向かうと考えられますね。わたくし、クリスさんのお蔭でお小遣いを増やせましたので、それでこんなものを買ったのですけれど」
アリナが見せたのは、透き通った一枚の板だった。
「あっ」
「おっ」
メリッサとゼインが声を上げる。
どうしたんだ?
「これって、世界のピース?」
「ああ、こんな綺麗な形はしてなかったが、そっくりだ」
それは、世界を描いた大きな地図のようだった。
メリッサは、世界のピースというものについて説明してくれる。
かつて、世界は魔王によって分断され、封印されていたんだそうだ。
世界を封印から解き放つ鍵が、ピース。
封印した箇所の地図を指し示した、透明なパズルの部品みたいな形をしていたんだとか。
「恐らく、お二人がおっしゃる世界のピースをモデルにして作られた地図でしょうね。かなり高かったですから」
地図は、海の真ん中に赤い印がついている。
「これがわたくしたちがいる、海のカジノです。そして、一番近い陸地は……ここ」
アリナの指が指し示したのは、大きな陸地だった。
そこには、こう、国の名前が書かれている。
『ユーティリット連合王国』




