地下闘技場のモンスター
俺とメリッサは、仲間達を次々に回収した。
カードですっからかんになったゼインと、スロットですっからかんになったアリナ、そして意外にも一人だけ堅実にコインを増やしているレオン。
「やあ、あちらは随分盛り上がっていたようですね」
レオンが実にいい笑顔を見せた。
その横で、アリナはすっかり燃え尽きている。
「ばかな……。わたくしの理論が……スロットは勝てるギャンブルのはず……」
ぶつぶつ言っているが、今は無視しよう。
「なあレオン! ちょっとコインを融通してくれよ! そいつがあればあと一勝負できるんだ。そろそろディーラーの癖が読めてきたところなんだよ! 次は絶対に勝てるから!」
「ゼインさん、すっごくダメなこと言ってるー! レオンくん、絶対貸しちゃダメだよ。ゼインさんがこういうこと言ってる時は、完全に勘違いしてる時だから」
「は、はい!」
「あっ、メリッサお前、裏切ったなー!? ……ってお前らもたくさん金を持ってるじゃないか! 増やしたんだな? よし、それを俺に融資してくれればだな」
「ダメだこりゃあ」
俺もまた、メリッサに倣ってゼインへはお金を貸さないことにする。
ペスが体を張って作ってくれたお金なのだ。
結局、年下の俺達にたかろうとしたゼインは、すっからかんのままなのであった。
「実は、地下闘技場にブラスが向かったって言う情報を得たんだ」
まずは本題を切り出す。
レオンの顔が真剣になった。
「なるほど……。地下闘技場などと言うものがあるのですね。血の匂いがする場所を彼は好んでいました。邪神に支配されながらも、まだ本能のようなものがあるのかも知れません」
「なんだ! お前ら、地下闘技場に行くのか? そうだ、その手があったよ!」
ゼインは元気だなあ。
だが、どうやら地下闘技場に詳しいようだ。
「ゼインは知ってるのか?」
「もちろん。人間同士、モンスター同士、果ては人間vsモンスターを競い合わせてな、その結果で賭けをやる場所だ。あまり紳士淑女っぽくはないギャンブルなので、地下に潜っちゃいるがな。かなりの人気だぜ。そうか、地下闘技場か!」
ゼインはうんうん、と頷いた。
「そうと決まったら早速行こうぜ! あそこはなあ、一文無しになっても逆転出来る可能性がある唯一の場所なんだよ」
「へえ、お金が無いのに逆転!?」
信じられない。
つまりどういうことだろう。
俺達は、地下闘技場へ続くという道を歩いた。
海の上のカジノは、巨大な船舶の上にあるのに、地下まであるのか。
もしかして、水底に沈んでる部分に作られた闘技場なのかもしれない。
「ここだここだ」
近づくに連れて、歓声が聞え、熱気が伝わってきた。
そこは四方から魔法の明かりに照らされた、割と広い空間だ。
中央に金網が張り巡らされた場所があり、その中で戦うようだった。
今も、人間の戦士とちょっと人間離れした緑の肌色の戦士が戦っている。
周囲には、観客が大勢。
この賑わいに比べたら、上の階なんてお上品なものだ。
なるほど、これはオーナーも無視できないわけだ。
「……ってことで、ちょっと金網の中で戦う闘士として登録してくる」
「ええっ!?」
あまりの事にびっくりした。
だが、メリッサは平然としているし、レオンは「そうでしょうね」なんて言う。
「どういうことだよ?」
「つまりですね、クリスくん。無一文になったとしても、闘技場で闘士として登録すれば、ファイトマネーが得られるわけです。恐らくゼインさんは、これを前借りして自分に賭けるつもりなのでしょう」
「うん、そうだねえ。ゼインさんなら、ほぼ勝つから賭けにもなってないんじゃない?」
「つまり、わたくし達もゼインさんに賭ければ……!!」
なるほどなあ……。
確かに、勝てる実力さえあれば、無一文から逆転できる場所だ。
それと、アリナはギャンブル止めた方がいいって。
そうこうしていたら、遠くでゼインが係員ともめているのが見えた。
なんだなんだ!?
俺達はゼインの元にやって来る。
すると、ゼインは肩を怒らせて鼻息も荒く、
「なんで俺はエキシビジョンマッチしか出られねえんだよ! そんなの、賭けにならないからファイトマネーしか無いだろうが!」
「戦王ゼインが出た時点で、オッズはもうひどいことになるんですって! 賭けにならないからダメなんです!」
あー、なるほど、分かりやすい。
つまり、ゼインは強すぎるのだ。
客寄せとしては使えるが、賭けの対象としては使い物にならない。
あるいは、ゼインに勝てるくらい強い相手がいればいいのだが……。
「ゼインさんに勝てるような人? 何人か知ってるけど、多分その人達、ゼインさんごとこの船を粉々にするよ?」
メリッサが恐ろしいことを言うのだ。
どうやら闘技場の係員はそれを熟知しているようで、頑としてゼインの出場を認めない。
結局、背に腹は換えられず、ゼインはエキシビジョンのみの参戦となった。
「しゃあねえ……。強すぎる俺を恨もう」
だが、俺は俺で勇者パーティの一員だったというゼインの力が見られることに、わくわくしている。
闘技場は基本立ち見なので、試合が良く見える場所を探して歩き回ろうと、そういう事になった。
その時だ。
俺はふと、何者かに見られているような気配を感じた。
周囲を見回してみる。
すると、闘技場参加者の景品みたいなものを集めてある場所があって、そこに小さな檻があったのだ。
『キュルルルル』
俺の耳に、甲高く細い鳴き声が聞こえてくる。
これは……。
俺の目には、檻の中にいる何者かが、青く光って感じる。
青く光るのは、友好的なモンスター。
俺が契約を結び、召喚する事ができるモンスターだ。
「一体、何がいるんだ……?」
「どうしたの、クリスくん?」
「あ、悪い、メリッサ。俺、ちょっと気になる事があって。見てくる」
「オッケー。じゃ、オストリカ。クリスくんのお供についてって! クリスくんが自分で動こうとするってことは、これって召喚できそうな魔物がいる案件でしょ?」
「フャン!」
赤猫が俺の背中に飛びついた。
今は、ブルーの蝶ネクタイをしていて、おしゃれに決めている。
そしてメリッサの察しがいい。
流石すぎる。
「まあね。ちょっと見てみたいんだ。なんか檻も小さいし、声もか細いし。保護できるようならしておきたい」
「分かるなあ。こういうのって結構、運命だったりするんだよね。頑張ってきて!」
「ああ!」
メリッサからの声援を受けて、俺はその場所へと向かう。
大勢の客を掻き分けて進んでいくと、そこには見張りが何人も立っていた。
ちょっと通れそうに無いか。
「すんません!」
「何だ?」
「そこの小さい檻から声が聞えるんだけど、それってなんですか?」
とりあえず、尋ねてみる事にする。
見張りは、「声なんかしたっけ?」と首をかしげる。
そして、
「ここは、大商人ラマルフ様の場所だ。お前に教える義理などないぞ」
などと言う。
「そんな事言わないでくれよ。そこからモンスターの鳴き声が聞えたんだ! 教えるくらいいいだろ?」
「いい加減にしろよ、お前!」
見張りがちょっと苛立って来た時である。
彼の後ろから、小柄な影が現れた。
「ほう……。こいつの声無き声を聞きましたか、この喧騒の中で」
それは、豪華な衣装に身を包んだ男だった。
肌の色は茶褐色で、目玉は真っ黒で白目が無い。触角も生えているから、普通の人間とは違うのだろう。
「ラマルフ様! こんなガキ、でたらめ言ってるだけですって」
「いやいや。この檻は、今回私が持ち込んだものの中で唯一生きている商品ですよ? それを正確に言い当てるなど、やはりただの子供ではないでしょう」
「子供って……俺は一応、十五なんだけど」
「これは失礼しました。ここには、あなたが聞いた通り、モンスターを捕えてあります。お前、これを下ろしなさい」
「へい」
見張りが、檻を手にしてこちらに向けた。
その中には、ふわふわとした毛皮のリスのようなモンスターがいた。
額には、大きな赤い宝石が埋まっている。
「それ……」
「運命を操ると言われる、大変希少なモンスター、カーバンクルです。おや、あなたはその魔銃を見るに、戦うのですね? どうです。私が連れている闘士やモンスターと戦ってみませんか? あなたが勝てれば、このカーバンクルを与えてもいい」
「むむむっ」
なんだか凄い雲行きになって来た。
俺も、地下闘技場に参加する事になるのか……!?




