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モンスターレース!

 カジノの中は、着飾った人達で溢れている。

 光と音、そして匂い。

 五感への強烈な刺激ばかりで、入って早々にクラクラして来た。


「おっ、カードデュエルやってるじゃねえか! 俺、ちょっと行ってくるわ。あ、これお前らの軍資金な」


 いつの間にか真珠を換金したのか、ゼインが俺達に結構な金額を手渡した。

 そしてそそくさと、向こうで盛り上がるカードゲームのテーブルへ向かう。

 俺たちをエスコートしてくれるんじゃなかったのか?

 とんだ不良中年だ。

 俺がムッとしてゼインの後ろ姿を睨んでいると、笑いながらメリッサに肩を叩かれた。


「いいのいいの。ゼインさん、前からずーっとああだから。あれでもまともな方なんだから」


「あれでまとも……。メリッサってさ、本当にとんでもないパーティの中にいたんだな?」


 すると、メリッサはくすくす笑って教えてくれない。


「凄いよ? 多分、実際に会ったほうが楽しいと思う。だから詳しい話は秘密ね?」


「秘密にされるほど凄い……!?」


 想像もできない。

 メリッサは俺の腕を取ると、


「さ、行こ! 面白そうなのあるかもしれないし」


 と言いながら引っ張り始めた。

 わっ、腕が、彼女の胸に当たってる。

 真っ赤なドレスは、彼女の胸元を強調するようなデザインで、いつもよりも大きくなっている気がする。

 いかんいかん、凝視したらダメだ。

 スケベだって思われる……!

 俺は全ての意志力を動員し、自らの目を彼女の胸元から逸した。


 ちなみに向こうでは、アリナに手を引っ張られ、レオンが同じような状態になっているのだ。

 ドレス姿の女の子は、レオンにとって大変刺激が強いものらしい。

 いや、あいつ、大体の女の子が刺激が強過ぎるんだろうな。


「レオンさん、カジノと言えばスロットだと聞いています! わたくしの理論で言えば、スロットは勝てる可能性が最も高いギャンブルなんです! わたくしの理論に従って賭けて下さい!」


「アリナが危ないこと言ってるー」


 メリッサは遠目に見ながら、けらけらと笑った。

 レオンは言われるままに、お金をコインに変え、それをスロットマシーンに入れているようだ。

 二人とも、すっからかんになりそうな予感しかしない。


「お飲み物でーす」


 突然、目の前にお盆が突き出された。


「うお!」


 びっくりする。

 そして、飲み物が乗った盆を持っているのが、もう水着同然の露出度が高い格好をした、ウサギの耳をつけた女の子と気付いて二度びっくり。

 うわあ、目のやり場に困る!!


「はいどうも!」


 メリッサは適当に飲み物を二つ受け取ると、ウサギ耳の女の子を追い払った。


「はい、クリスくん!」


「あ、ありがとう。なんか怒ってない?」


「怒ってない!」


 そうですか。

 いや、メリッサが怒った理由も、なんとなく想像できるんだけどな。

 それって、もしかしてヤキモチ……?

 待て、待つんだクリス。

 そこまで自分は大した奴か?

 これはやはり、もっと違う理由があって怒っているのではないか。


「クリスくん、こっちこっちー!」


「うお! メリッサ、いつの間に!」


 メリッサが離れた所に立っていて、こちらに手を振っている。

 俺が慌てて彼女を追いかける。

 それを見て、回りの大人たちがなんか微笑ましいものをみるような目を向けてきた。

 あれ?

 もしかして二人でおおはしゃぎしてるの、ちょっと場違いだったりするのか?


「ほら、こっち! 面白そうなのやってるよ!」


 メリッサに肩を抱かれて、ぐいっと引き寄せられた。

 彼女が纏った香水の匂いで、クラクラする。

 なんだなんだ!?

 メリッサ、今日は妙にスキンシップが多いんだけど。


「これ、モンスターレースだって! この下でね、モンスターが走ってるの」


「へえ!」


 俺の興味が、一気にモンスターレースとやらに移った。

 そこは結構なスペースが取られていて、レース会場を囲むベランダが設けられていた。

 コースは何段か低くなった場所にあって、楕円形をしている。

 今まさに、モンスター達が走っているところだった。


「あれは……。ケンタウロスとアンドロスコルピオだな。あとは、見たことがないモンスターが走ってる」


 モンスター達は、円形のコースをひた走る。

 コースに引かれた赤い線を超えると、会場にビーッという音が鳴り響く。

 その度に、レースを見ている人達がわーっと盛り上がったり、がっくりと肩を落としたり。


「何をしてるんだろうね? でもとっても楽しそう」


 メリッサが目を輝かせる。

 そうだな。

 俺やメリッサみたいな召喚士は、カードゲームよりもモンスターを使ったギャンブルのほうが向いているかもしれない。

 あくまでレースで、闘技場みたいに戦わせるわけじゃなさそうだし。


「おや、お二人さんモンスターレースは初めてかい?」


 俺達が食い入るようにレースを見ていたら、横にいたおじさんが声を掛けてきた。

 恰幅のいい人で、左目に刀傷がある。

 彼はその手で、チケットみたいなものをびりびり裂きながら、こちらに体を向けた。

 チケットからは、3-1なんて数字が描かれている。

 レース結果を予想したんだろうか。

 それが外れてしまったと。


「モンスターレースの遊び方は簡単。1から6までのコースに、モンスターがいる。そのモンスターのどいつが一着で、二着がどいつなのかを決めるだけだ。一応、参加するモンスターの能力によって、オッズというのが決まってな。それはほれ、向こうのボードに映し出される」


 おじさんが指差したのは、俺たちの右手側にある黒いボード。

 そこに、番号の組み合わせと、その倍率が記されている。

 レースが始まる度に、ボードに番号を貼り付けるらしい。


「あれを見て、次にどいつに賭けるのかを決めるんだ。オススメは5-6だぞ。スライムとミミックだ。大穴でなんとオッズは400倍!!」


「いやいやいや!! 当たらないだろそれ!!」


「当たる! 当たるって!! 俺を信じろ!」


「今会ったばかりのおっさんをどうやって信用するんだよ!?」


「まあ、気持ちは分かるけどねえ」


 メリッサは半笑い。

 このおじさん、負けこんでいるらしい。

 それで、一発逆転できる高倍率の賭けをしようとしているのだ。

 俺達を巻き込まないで欲しい。

 メリッサは手堅く、1-2のユニコーンとリンクスの組み合わせ。

 おれは2-4のリンクスとロードランナー。

 おじさんは、5-6のスライムとミミックを買った。

 いいのかな……。

 そして始まるレース。


 まず飛び出したのは1番のユニコーン。続いて4番のロードランナー、2番のリンクス、そして3番のダイヤウルフ。

 スライムとミミック?

 今スライムが、ようやくパドックからレース場に出た所。

 ミミックは動いてすらいない。


「うおおおおおお!! 動けスライム、ミミックー!! お前らに残りの有り金賭けてるんだよおおおお!!」


 おじさん……。

 たとえ天地がひっくり返っても、あの二匹じゃ優勝できないよ。

 結局、レースは前評判通り、ユニコーンが他をぶっちぎってゴール。

 続いてリンクス、ダイヤウルフ、そしてロードランナーだった。

 メリッサのコインが、少しだけ増える。


「当たったー! いやー、興奮するねえ」


 本命狙いだったメリッサ、手にしたコインは少なくても、頬を上気させて笑っている。

 狙いが当たると嬉しいよな。

 さて、次はどれを狙おうかな、なんて考えていた俺。

 すっかり、邪神バラドンナの事なんて頭から吹き飛んでいる。


「ねえクリスくん。これ、モンスターレースだから……君の魔物たちで参加できないかな?」


「えっ?」


 唐突に、メリッサが提案してきた。

 このモンスターレースに、俺が召喚モンスターたちを使って挑むということ……?


「そういうのってアリなの?」


「アリだぞ」


 力強く肯定したのは、おじさんだった。

 目をいやにギラギラ輝かせて、俺の肩をがっしり掴む。


「なんだ坊主! お前、モンスターを連れてたのか! そいつは速いモンスターなのか? よし、次は俺はそいつに賭けるぞ!! ついてこい! ここのオーナーは俺の知り合いでな。参加させてやる!」


 話が勝手にどんどん進んでいく!

 メリッサは楽しそうにおじさんについて行ってしまうし、これは俺も行くしか無いではないか。

 だけど、俺は召喚の魔銃トリニティを金庫に預けてきたから……。

 そう思いながら腰を叩いたら、馴染み深い感触がそこにはあった。

 いつの間にか礼服の上にガンベルトが装着されていて、トリニティが準備万端とばかり、モンスター達の弾丸をフル装填して待ち構えていたのだ。

 銃もモンスター達も、俺にレースをやれと言っているのか……?

 

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