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エントランス

 巨大な連なる船の上にある、海の上のカジノ。

 その四方には大きな穴が空いていて、たくさんの船を迎え入れられるようになっていた。

 ペスカトーレ号も、カジノ船の下に潜り込む。


「うおー……!」


 頭上は真っ暗じゃない。

 船のあちこちに魔法の灯りが点けられ、船を先へと導いてくれる。


「おう、この辺が空いてるな。停泊するぞ!」


 ゼインが宣言した。

 なるほど、この辺りには、船が幾つも停められている。

 どこに停めるのかは自由なようだ。


「他にもたくさん船が停泊しているのですねえ……。あちらには、ペスカトーレ号よりもずっと大きな船がいます!」


 船をロープで固定する間、アリナがあちこちを見回している。

 盛んにメモを取りながら、どんな船があるかを調べているようだ。


「あの船……骨のマークがついてますけれど、わたくしが知る限りの記録では、骸骨の旗(ジョリー・ロジャー)というのは……」


「おうおう、あいつはあれだ。ドン・ゲブトの海賊船だな。あれも封印されていた世界からやって来た連中だぜ。何度か俺とはやり合ってるんだけどな」


「海賊……!?」


 俺の知らない言葉だ。

 それってなんなのだろう。

 船にとって、盗賊行為を行う連中なのか?

 それが、カジノに来てるってことか。


「ほいっと! これで停まったよ! 錨とか使わないんだねえ。この中も、一応大きな船の中だもんね」


 メリッサが手をパンパンと払っている。

 彼女の豪腕が、見事にロープでペスカトーレ号を固定したらしい。


「じゃあ、船の留守番はパンジャに任せるね。出てきて、パンジャー!」


 メリッサの呼び声に応えて、船の後部がガタガタガタっと震えた。

 船長室の裏がパカっと開き、そこから青い球体が飛び出してきた。


『キュッキュ、キュキュー』


 任せろ、とでも言うように、パンジャが体をプルプル揺らした。

 たった一匹で、たくさんの青の戦士団をとっ捕まえてしまったこいつなら、生半可な賊なんかじゃ敵わないだろう。

 丸っこくてふわふわしているけど、これでも魔王オルゴンゾーラと戦った、召喚モンスターの一体なんだもんな。

 下手をするとこいつ、ペスやトリーよりも全然強いかも知れないのだ。


「さ、みんな、行こう?」


 真っ先に船の外に降りたメリッサ。

 壁に通路が開いており、そこからカジノへと上がっていけるようになっているのだ。


「あ、アリナさん、手を!」


 先に降りたレオンが手を差し出し、アリナの降船を手伝った。

 レオン、女子の手を取れるようになったのか。

 成長したなあ……。

 俺も俺で、さっさと船を降りる。

 そしてレオンを手伝うのだ。

 あいつ、頑張っているけれど顔は真っ赤だし、手とか震えてるしな。


「アリナ、こっちも手を!」


「ありがとうございます! わたくし、高いところから降りるのがとっても苦手なのでゆっくり……ゆっくり降ろしてくださいね……きゃっ」


 ゆっくり降ろしたのに、船べりに足を引っ掛けて見事に落っこちてくるアリナ。

 そう言えばペスカトーレ号、渡し板みたいなのが無いな……。

 不便じゃないか……?

 レオンと共にアリナを受け止めつつ、俺は考えたのだった。


「はい! はい離れて! クリスくんとアリナ、くっつくのは良くないよー」


 いつの間にかメリッサがやって来ていて、俺達からアリナを取り上げた。

 ほんと、同い年くらいの女の子をまるで赤ちゃんみたいに取り上げるよな。


「さ、行こ行こ!」


 メリッサはアリナを抱き上げたまま、通路を真っ先に歩き始めた。

 なんで彼女、むくれてるんだ?

 首をかしげる俺。

 その肩を、ゼインがポンっと叩いた。


「まあ、なんだ。頑張れ。女ってのは難しいもんだけど、メリッサはめっちゃくちゃ分かりやすいタイプだからな」


「はあ……!?」


 メリッサが分かりやすい?

 俺、メリッサが何を考えてるのか、全然わかんないんだけど。





 通路を進んでいくと、途中から他の通路とも繋がり始める。

 カジノの下には、道が無数の蜘蛛の糸みたいに張り巡らされているのだ。


「この階段を使って、カジノに入場する。ま、俺も一回しか来たこと無いんだけどな。ほれ、行くぞ」


 ゼインが真っ先に階段を上っていく。

 途中から、素材が木製ではなく金属に変わる。

 カンッ、カンッと甲高い音が響いた。


「なんか……緊張するな」


「フャン」


 俺が呟いたら、オストリカが応えた。

 階段はどこまでも続いている。

 長い、長い階段だ。

 わざとなのか照明は落とされていて、薄暗い。

 先に何があるのかもよく分からない。


「到着だ」


 終わりは唐突にやって来た。

 ゼインが、何もないように見える空間をコンっと叩く。

 あ、いや。

 何もないんじゃない。

 そこにあるのは、薄闇と同じ色をした艶のない扉だ。

 コンコン、とノックをすると、扉は一瞬の後、ゆっくりと開き始めた。


 奥に立っている者がいる。

 礼服を身に着けた大柄な男だ。

 目元を覆うマスクを付けていて、腰には細い剣を下げている。


「招待状はお持ちですか?」


「おう。戦王ゼインだ」


 ゼインはポケットから、何か小さな物を取り出してみせた。

 カラフルなコイン?


「……これはこれは。戦王ゼイン様。並びにお連れの皆様」


 男は脇に避ける。

 奥に向けて、手のひらを示した。


「ようこそ、海の上のカジノへ!」


 その言葉と同時に、通路に光が満ちる。

 目が薄闇に慣れてしまっていたので、とても眩しく感じる。


「うおー……何も見えない」


「メガネがあるから平気でした」


「くっ、僕も目をやられました……!」


「おいおいお前ら……。ここって、突然開けたすげえ光景に驚く所だろう? まあいいんだけどよ。メリッサ、こいつらいつもこうなのか?」


「うん、割とマイペースだね。でも、あの時のみんなよりはまともでしょ?」


「違いないな!」


 笑い合うメリッサとゼイン。

 まともって。

 二人が参加してた勇者パーティって、一体どういう集まりだったんだ……?


 少しして、ようやく光に目が慣れてきた。


「そろそろ、眩しくも無くなってこられましたか? ではお急ぎ下さい。後の方も詰まっていらっしゃいますので」


 礼服の男が俺たちを急かす。

 アイマスクの下の口元は微笑んでいる。

 感情を出さない人なのかもしれない。


「あ、はーい」


 結構長い時間をのんびり佇んでしまった。

 目が眩んでたのは俺とレオンだけか。

 レオンもそろそろ、目が見えるようになったようだ。

 こうなると、光に照らされたこの空間がどういう作りをしているのかがよく分かる。

 まず、天井が高い。

 恐ろしく高い。

 そして、あちこちに無数の魔法の灯りがあり、これはどうやら礼服の男の意思で点けたり消したりできるようだ。


 次に、床も壁も真っ赤に塗りつぶされている。

 横の広さは、ペスカトーレ号の舳先から船尾と同じくらいだから、結構なものだ。

 あちこちに、奇妙な装飾品が置かれている。

 ピカピカ光る捻じれた壺とか、複雑な部品で構成されていて人が入る隙間も無いような鎧とか、ギョロギョロと辺りを見回す目玉がついた骨格標本とか。


 一言で言えば、変なところだった。

 アリナが、「ほえー」と間抜けな声を上げる。


「ここ、凄いですね!? これは、わたくしの知的好奇心をビシバシと刺激してくれそうです! この先には何があるんですか!? 楽しみで楽しみで仕方ありません! さあ、どんどん行きましょう、どんどん!!」


「アリナが壊れた!」


 俺は慌てて彼女を取り押さえた。

 メリッサも無言で押さえにかかってくる。

 まだまだここは、カジノのエントランス。

 礼服の男に通されたという事は、俺達はカジノの客として認められたということだ。


「はい、じゃあゼインさん。どこに行けばいいの?」


「宿を取るか。そこを拠点にして、まずは今日はかるーくカジノに繰り出してな?」


「はいはい。それじゃあまず、アリナを落ち着かせないとね。入り口でこの様子じゃ、あとあと興奮しすぎて倒れちゃいそうだから」


 クールに状況は進んでいく。

 俺とレオンは、押し流されてしまわないよう、必死なのである。

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