遭遇、二人目の勇者パーティメンバー
流石に上半身裸で歩き回るのはどうかなと思ったのだけど、珊瑚礁の島に暮らす男の人達は、割と上半身が裸の人が多かった。
来ていても、荒い繊維で造られた風通しのいいシャツくらい。
女性も、最低限だけ胸元を覆っている人が多かったりで、目のやりどころに困る。
「うっ……! クリスくん、僕にはあまりにも刺激が強すぎて……!」
「気をしっかり持て、レオン! あれは別に嫌らしい目的じゃなくて、ここが暑いからあんな格好してるだけだぞ!」
そう。
珊瑚礁の島は暑かった。
四方を海に囲まれているから、潮風が吹き、暑いと言っても不快なものではない。
ここで暮らしていたら、暑いだけではなく、開放的な気分になるのも分かる気がする。
「おや? あんたたち、外から来た子だろ?」
いきなり声を掛けられた。
メリッサよりちょっと年上のお姉さんだ。
肌の色は小麦色で、真っ黒な髪を長く伸ばし、赤い花を髪飾りにしている。
やっぱり露出度が高くて、胸元と腰回りしか隠していない。
レオンが真っ赤になって地面を見ている。
「ああ、そうだけど」
いきなり外国の人間だと言われて、俺はちょっとびっくりだ。
レオンが使い物にならなそうなので、交渉役は俺だ。
「やっぱり。この島の人はみんな顔見知りだし、別の島の人だとしても肌が白すぎるもんね。観光? 案内してあげようか」
親切な申し出だ。
俺もレオンも、この島のことは全くわからない。
分かるはずのメリッサが、砂浜で話し込んでしまってるから、俺たちだけで行動することになったのだ。
「じゃあ、お願いしていいですか?」
「任せて! わたしはキアナ。君たちは?」
「俺はクリスです。で、こいつが」
「ぼ、僕はレオンです!」
自分で答えられたな。
偉いぞレオン。
だけど、本当に彼の女性が苦手なところは克服させないとな、と思う俺である。
だって、俺たちの仲間には女の子が二人もいるのだ。
「じゃあね、ここが、この海王島の中心。マリンタウンね」
この場所のことを教えてもらった。
海王と言えば、勇者パーティの一員。
メリッサに聞いた話では、人魚の女性で、あらゆる属性魔法をマスターした世界最強の魔法使いの一角だとか。
この間起こった邪神の反乱も、海王一人で鎮圧できるようなレベルらしい。
恐ろしいなあ。
「……って、もしかして海王ってこの島にいるの?」
そう言えばさっき、海王は子育て中だと聞いたような。
「うん、いるよ? 海王様はね、戦王様と結婚して子育てしてるの。あー、いや、正確には違うかな。海王様がいるのは海の底で子育て中で」
「海の底ぉ!? ……あ、人魚か!」
「……そうか、人魚までこの辺りにいるんだった……! 何も着ていなかったらどどどどどど」
「落ち着け、レオン!」
レオンの白い背中をペチッと叩いた。
ハッと我に返るレオン。
こいつ、この島では単独行動させられない。
極めて危険だ。
生きて島を出られまい。
「じゃ、じゃあ、別の所に案内してくれないですか」
「はいはーい。って言っても、この島にはマリンタウンと畑しかないんだけどね? 畑行く?」
「おう!」
ということで、案内された俺たちは、マリンタウンを越えて畑へと向かって行った。
「そう言えばクリスくん。すっかり南国に来たテンションで忘れていたのですが、僕らの目的は本来、邪神を追うことだったはずでは……」
「そうだった! うちの女子二人が使い物にならんからな。俺たちが仕事しないと!」
世間話中のメリッサと、砂浜の生物に夢中のアリナ。
くっ……。
うちの女子たち、何気にポンコツなのでは……?
「あのさ、キアナ。俺たち、追いかけている奴がいるんだけど」
「へえ、追いかけてるの? それ、どういう人なの?」
「えーと……、ほら、レオン!」
「ええっ、ぼ、ぼ、僕ですか!? えっとですね、あのですね、ぶぶ、ブラスっていう男で、こう、柄が悪くてすごく目つきが悪い男なんですけど……背丈はこのくらいで、ええと、痩せ型で、腰に魔銃をぶら下げてて……」
「んー。わたしは覚えてないなあ」
キアナが首を傾げた。
「そうか、覚えてないかあ」
ちょっとがっかり。
レオンは一仕事終えて、しおしおになっている。
おい、しっかりしろレオン。
だが、一人で女子に質問できたな。
がんばった。
「ああ、でも、わたしは知らないけどあの人なら知ってるかも」
「あの人?」
「戦王ゼイン様。最近は畑仕事に凝ってるみたい」
事もなげに言って、彼女は歩き出した。
周囲の家は途切れて、椰子の木と道路だけになる。
その左右に、畑が広がっていた。
何人かの人が仕事をしていて、同じくらいの人が日陰で休んでいる。
仕事をしている人も、のんびりとやっているみたいだ。
「なんだか、あまり畑仕事をしているという感じではないですね……」
クリスが思わず呟いた。
キアナは当然、という顔をする。
「当たり前でしょ。こんな暑いのに、ずっと働いてたら倒れちゃう。半分だけ仕事をして、半分はお休みするの。それに、日が傾いたら仕事は終わり。あとはご飯を食べてお酒を飲んで、楽しく大騒ぎする時間」
「へえ。なんかのんびり暮らしてるんだなあ」
「もちろん。人生ってずっと続くのよ? あくせくしたって始まらないわ。無理せずのんびり、楽しく暮らすのが一番」
珊瑚礁の島は、独特の時間感覚だ。
バブイルよりも、ずっとゆっくり時間が流れている。
重層王国は、経済とかしがらみとか、そう言うものでがんじがらめだった。
こんなにのんびりして暮らしてなんていられなかったもんな。
「俺、この島のノリ結構好きかも」
「あ、確かにクリスくんやメリッサさんにマッチしてそうですよね」
「あー、メリッサも確かになあ」
「ついたよー」
話している間に到着したようだ。
そこは、海が見える畑。
畑には青々と草木が茂っていて、黄色い果実が成っていた。
そして、果実を収穫する男が一人。
「ゼイン様ー!」
キアナが声を掛けると、男が振り返って手を振った。
のっしのっしとこっちにやって来る。
でかい。
俺よりも、頭二つぶんくらい大きいんじゃないか?
上半身に簡単なシャツを着ているのは、畑の葉っぱで体を切られないためだと思う。
「いよう、キアナ! どうだ? 俺と楽しくやる気になったかい?」
「わたしとしては悪くないと思うんだけどねー。海王様に嫉妬されたら困るでしょー。島ごと沈められちゃう。っていうかゼイン様が沈められちゃうんじゃない?」
「違いない! わはは! ってことで今のは冗談だ」
男はそんな話をしながら、キアナのお尻の辺りをぽんぽん叩いた。
うわあ。
だけどキアナも嫌がってないみたいだった。
「で、こいつら、何だ? 俺の客?」
「そうそう。外国から来たばかりの子たちで、案内してたんだよ」
ゼインは俺たちを見ると、少しかがみ込み、目線を合わせてきた。
「はじめましてだ、坊主たち。俺はゼイン。戦王なんて呼ぶやつもいるが、まあただの戦士だな。今は海王マリエルの旦那ってわけだ」
「あのゼインなんですか!?」
レオンが反応している。
「なんだレオン、詳しいのか?」
「知らないんですか!? 戦王ゼインと言えば、あらゆる武器を使いこなす世界最高の戦士です! 魔法使いや神懸かり、魔物使いに混じり、ただの人間でありながら魔王オルゴンゾーラと戦い、勝利したと言われる人ですよ!」
「へえー。メリッサから名前しか聞いたことないや」
レオンが物知りなので、感心していると、ゼインが俺の肩を掴んできた。
「えっ、お前、メリッサの知り合いなのかよ? へえー、メリッサがこの島に来てるのか。久しぶりだなあ……」
うおっ、すごい力だ。
「ああ。俺たち、メリッサともうひとりと一緒に旅をしてるんだ。でさ、追いかけてる奴がいるんだけど」
「よし分かった。面白そうな話じゃねえか。手を貸してやる」
話の内容を何も話してないのに、すごい速さで安請け合いされたぞ!?
「ちょっと、ゼイン様!! 海王様に島を守っていてって言われたんじゃないの!?」
「あ、あー、そうだったな。じゃあ、珊瑚礁の島を出るまでの間は色々と協力してやるよ。あ、いや、マリエルと相談して出来ることならちょっと遠出してもいいな」
ゼインは一人でぶつぶつと言うと、俺とクリスの肩をポンと叩いた。
「よし、行くぞ。キアナ、畑仕事はこれで終わりだ。違うやつに引き継いでおいてくれよ」
「はいはーい。暇な人に声かけとくよ」
「さあさあ。我が盟友、メリッサに会いに行くんだ。案内してくれよ少年たち!」
「強引な人だなあ……!」
ということで、俺たちは彼に促され、逆戻りすることになったのだった。




