パーティ会場大乱戦
「では行くぞ。ここだけの話、青の戦士団には人間は少なくてね。私もまた、そのようなものだ。かつて魔王オルゴンゾーラに仕えた魔族の一人さ」
バリーはそう宣言すると、マントを大きく展開する。
その中にある闇に、いくつもの輝きが宿った。
「目玉!?」
「その通り! 私のマントはゲートなのさ。現われよ、青の戦士団!」
バリーのマントの中から、青い制服に身を包んだ男たちが次々と飛び出してくる。
「やべえ!」
俺は慌てて、サンダラーを構えた。
俺に近づくにつれて、奴らは正体を現す。
それはトカゲのような怪物だったり、翼の生えた蝙蝠男だったり、首なしの騎士であったり。
「サンダラー!!」
横っ跳びしながら、魔銃を連射した。
弾丸が炸裂し、青の戦士団の連中は倒れたり、ひるんだり。
だが、数が多すぎて集中攻撃ができない!
バリーめ、全員ここに呼び込むつもりか!
ならば、俺も手数でいくまでだ。
「トリニティ! 集まれ、みんな!」
空いた片手で引き抜いた、召喚の魔銃トリニティ。
三連の銃口が輝きを放つと、ペス、トリー、ポヨンが同じ光を全身に帯びる。
パワーアップだ!
「ほい、クリス君! クラリオンさんはグリューネさんに任せて! 私は君を支援するよー!」
メリッサが俺の隣に並ぶ。
彼女が手にしているのは、もぎ取ったらしいテーブルの足。
これで、手近な青の戦士団員を一撃で殴り倒している。
「そんな強くない魔物だから助かるー。私の腕でも、全然だいじょうぶだもんね。これがゼインさんくらいの腕が必要だったら危なかったよー」
凄いこと言ってる。
あと、ゼインって誰だ?
まあいい。
青の戦士団の中に、ペスが飛び込んでいく。
巨体と、4つの頭を使って大暴れし始める。
その上空を飛ぶトリーは、猛烈な勢いで天井を掠め、衝撃波を起こして頭上を崩していく。
瓦礫になって、天井ががらがらと落ちてきた。
悲鳴を上げて、来賓の客が逃げ惑う。
これを守るのがポヨン。
強靭な泡を次々に生み出して、瓦礫を弾き飛ばしている。
「メリッサ! 一番やばいのはバリーだ! あいつをやっつけないと、次々に団員を吐き出すぞ!」
「うん、あのマントの中、魔法の扉みたいになってるのね。あれで自分のことも隠したりするんでしょ。昔、私の仲間が同じようなことしてたから!」
メリッサが、群がる青の戦士団に向かって走り始めた。
「メリッサ、一人じゃ危ない!」
「大丈夫! あれが彼の、世界に穴を開けてこっちと向こうをつなげるなら……私の仲間を呼べるから!」
「メリッサの、仲間……!? トリー! メリッサを支援!」
『ピヨー!!』
俺の指示を受けて、トリーが急降下してくる。
天井は崩され、夜空が覗いている。
星の輝きを背景に、真っ白なハーピーが青の戦士団へと飛び込む。
凄まじい勢いに、戦士団は動きを止める。
「なんてハーピーだ!」
「低級のモンスターのくせに、俺たちに匹敵するパワーだと!?」
「こっちのキメラもやばいぞ! 止めろ止めろ! 集団で囲め!」
青の戦士団にも冷静な奴がいて、ペスを集団で食い止めようとしてくる。
トリーに対しては、飛び道具を持った連中が当たるようだ。
「させないからな!! サンダラー!!」
俺はテーブルを蹴ってジャンプした。
空中から、トリーを狙う連中に向けて高速の三連射。
「うおおっ!!」
「ぐええっ!」
「ま、魔銃使いをフリーにするな! あいつは厄介だぞ!」
さらに俺は、着地と同時にペスに向かって姿勢を低くしながらダッシュ。
走りながらの連射だ。こいつを、戦士団の一人に集中!
「ぐおーっ!!」
ペスを囲もうとしていた連中の一角に穴が空いた。
「ペス、来い!」
『ガオーン!』
ペスは俺の呼びかけに応え、弾丸に戻って飛び出してくる。
これを俺はキャッチし、トリニティに装填。
「キメラが消えた!?」
「どこだ!?」
「気をつけろ、そいつは銃使いの召喚士とコンビで動く……」
「召喚!! 行け、ペス!!」
俺はトリニティをぶっ放す。
ペスは、青の戦士団の頭上で実体化する。
そして、巨体で奴らを押しつぶした。
『ガオーン!!』
「うおわーっ!?」
「くそ、召喚士とのコンビだとここまでたちが悪いのか!!」
正直、複合召喚さえできればこいつらを一掃できる気はする。
だけど、ここにはクラリオンがいるし、来賓の人たちもいるのだ。
彼らを巻き込んでしまう。
だから、じれったくても通常召喚と魔銃で戦うしか……。
そう思った時、メリッサの声が響いた。
「届いた!!」
「な、何っ!? 私のマントに手を突っ込んだだと!?」
バリーが驚く。
メリッサはバリーのマントの中の闇に手を突き入れ、力強く叫ぶ。
「繋がってる!? なら、来て、魔精霊……パンジャーっ!!」
『キューッ!!』
メリッサの叫びに応えて、甲高いフシギな鳴き声が響き渡った。
「なんだ!?」
トリニティがぶるぶると震える。
召喚の魔銃が反応するような、俺が知らない召喚モンスターが現れようとしてるのか!?
果たして、メリッサの呼びかけによって姿を現したのは、真っ青な球体だった。
綺麗な深い海の色をしたボールが、ところどころ青空のような淡い青を浮かべつつ、空を飛んでいる。
バリーのマントから出現したのは、そんな不思議なモンスターだった。
「久しぶりね、パンジャ!」
『キュッキュー!』
「久しぶりついてで悪いけど、やっちゃって!!」
『キューッ!!』
パンジャがふわり、と舞い上がる。
そしてピカピカと体を光らせる。
『ピヨ!?』
『キュ』
あ、トリーと会話してる。
トリーは分かった、というように頷くと、俺の方に飛んできた。
その背後で、パンジャが体の点滅を早める。
「まずい!! 青の戦士団、あの青い球体を総攻撃!!」
焦りの表情を浮かべたバリーが指令を出した。
「おそーい」
メリッサがニヤリと笑う。
まさに、その通りだった。
パンジャと呼ばれた青い球体は、次の瞬間、光で編まれた網をパーティ会場中に放っていたのだ。
それは、俺たちやクラリオン、賓客を避けて、青の戦士団達を的確に捕らえていた。
「う、うわあなんだこれ!?」
「触れねえ! 実体が無いのか!?」
「実体が無いのに絡みついてきて、動けねえ!!」
『キューッキュッ』
パンジャが、くるりと体をひねった。
すると、光の網も同時にくるくると撚り集められていく。
青の戦士団はごちゃごちゃとまとまりながら、悲鳴をあげる。
これは、完全に戦闘不能だな。
すげえ。
たった一発で、あれだけいた戦士団を全員行動不能にしてしまった。
これが……メリッサの召喚モンスター。
「馬鹿な……! こ、これが、勇者パーティに同行したモンスターの力だというのか!? 想像以上だ……!!」
あっ、バリーだけが光の網から逃れている。
「レオン! なぜ呼びかけに応えなかった! お前がいれば、状況は違っていたはずだ! レオン!」
俺も知る、若き青の戦士団員の名前を呼びながら、バリーが窓に向かって走る。
逃げるつもりだ!
「クリス君!」
「ああ! サンダラー! 一撃で決めるぞ!」
俺が魔銃を構えると、そいつは全身のモールドを金色に輝かせる。
よし、俺の魔力を注ぎ込む……!!
「ここは撤退する! 私がいれば、青の戦士団は幾らでも助け出す事ができる。はははは! 仕切り直しだ、メリッサ嬢! そして召喚士のクリス君!」
「仕切り直させない! 行け、サンダラー!!」
魔銃が唸りを上げた。
放たれたのは、黄金の弾丸。
それは、今まででも最高の速さで空を切り裂き飛翔する。
「むっ!? だが、私に弾丸は通じないぞ!」
バリーがマントを広げた。
その中に広がる空間に、弾丸を飲み込もうというのだろう。
だが、この弾は勝手が違った。
闇の中に炸裂すると同時に、その中で破裂したのだ。
「なっ!?」
バリーが目を見開く。
彼のマントの中が、光りに包まれる。
その光は、バリーの口や目、耳からも溢れ出す。
「ぐ、ぐわああああああっ!!」
青の戦士団団長は、叫びながら、のたうち回った。
そして、光が止んだ後、白目を剥いたバリーがそこに転がっていた。
「よ……よっしっ! やった!」
俺は、猛烈な虚脱感に包まれながらも、拳を握りしめる。
凄まじく魔力を消耗する弾丸だった。
今のは何なんだ?
だけど、実体がないっぽい相手すら倒す手段を手に入れたらしい。
それに……。
「パンジャー!」
『キュキュー』
後ろでは、メリッサが青い球体をむぎゅむぎゅして、とても嬉しそうなのだった。
足元では、オストリカが嫉妬して、「フャンフャン」言いながら彼女のズボンを引っ張っている。
メリッサもパワーアップして、青の戦士団を一網打尽。
どうやら、王選挙絡みの厄介事も、これで一段落したような気がする……。




