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護衛の日々

 そうして、俺のゴールディ家の護衛として暮らす日々が始まったんだけど。

 正直、今までと大して変わらなかった。

 俺とメリッサの宿泊する部屋が、本家の建物になっただけだ。


「おはよー、クリス君」


「おはようメリッサ」


 俺たち用の部屋というのが用意されていて、リビングがあって寝室が二つある。

 俺とメリッサでここを使って、ちょこちょこ屋敷の中をパトロールするのだ。

 幸い、俺は召喚モンスターたちがいるから、一日中隙間なくこの屋敷を見張ることができる。

 夜は、トリーとペス、ポヨンの三交代制。

 ポヨンは窓から外に出て、周囲の空間を一時的に湖のように変えながら、屋敷の周囲を泳ぎ回っている。


 朝。

 俺たちは、寝ぼけまなこで出てきて挨拶を交わし、扉のベルを鳴らす。

 すると、ちょっと時間が経てば朝食がやって来る。


「眠そうだねえクリス君」


「うん……。夜明け頃に起きて、ぶらっと屋敷の中を周回して、また寝た。メリッサも眠そうじゃん」


「私はねえ、昨日の夜遅くまでクラリオンさんの今後の予定の話をしてて……。ふあ……」


 お互い、睡眠不足気味だ。

 交代交代で昼寝をしなくちゃな。

 だが、眠くてもゴールディ家の食事は最高だ。

 焼き立てのパンとたっぷりのバター。

 ポーチドエッグにこんがり焼かれたベーコン。

 マッシュポテトにチーズ、そして紅茶だ。


「……」


 メリッサが無言でもりもりと食べている。

 眠そうなのに、お代わりを二回やった。

 だけど、メリッサは心なしか痩せてきた気がする。

 きっとこれは、食べる以上に体を動かしているからだろう。

 ぽよぽよふわふわしたメリッサもいいけれど、今のキリッとした感じのメリッサもいいなあ。

 俺が出会ったばかりの頃の彼女は、今みたいだった。


「食べたー。食べると、眠くなってくる……」


「メリッサ、食べてすぐ横になるとからだに悪いぞー」


「うんー。じゃあ、椅子に座ったまま寝る……」


「へいへい。んじゃ、食器は俺が片しておくから。おっと、ペスお帰り」


『ガオー』


 夜明けから今まで、屋敷のパトロールをしていたペスが帰ってきた。

 彼の8つある目が全部しょぼしょぼしている。

 俺と一緒に暮らしているうちに、キメラなのにすっかり昼型になってしまったなあ。


「よし、ペス、弾丸に戻れー」


 俺がトリニティの引き金を引くと、ペスの体は光りに包まれて急速に縮んでいった。

 魔銃の銃身が折れ、その中にペスが変じた弾丸が装填される。


「ペスも大変だねえ……。あ、もうだめ。私、寝る……」


 メリッサはそう言うと、ぐう、と寝てしまった。

 早い。


「フャーン」


「おっ、オストリカは寝ないのか?」


「フャンフャン」


 メリッサの胸元から、赤猫が飛び出してきた。

 どうやらこの子は、夜にたっぷり寝たらしい。

 メリッサが寝てしまって暇らしく、俺のスネをぺちぺちしてくる。


「よし、今日はお前と一緒にパトロールするか」


 俺が手を広げると、オストリカがぴょんと跳ねて飛び込んできた。

 赤猫を抱っこしながら、俺の今日の仕事開始だ。




「おはようございます、クリスさん」


「おはようございます。今日もよろしくお願いします」


 広い廊下を歩くのだが、行き交う使用人の人たちが、次々に挨拶してくる。

 うーん、なんか照れくさい。


「ど、ども。どーも」


 俺はペコペコしながら廊下を行く。


「フャンフャーン?」


「いやなあ。なんて言うか、めちゃくちゃ緊張するんだよねえ。明らかに、俺とは住む世界が違う人達じゃん?」


「フャン! フャン!」


「え、違う? あー、まさかオストリカに叱られるとはなあ。うん、そうだよな、卑屈になったらだめだよな」


「フャーン」


 分かればよろしい、とばかりに、オストリカが俺の肩を肉球でぺちぺちした。

 なんと言うか、元気が出てくるなあ。

 今、俺のポケットにはトリーの弾丸。トリニティにはペス。

 ポヨンは外をふよふよ泳いでいる。

 みんな頑張ったり、疲れて休んだりしているのだ。

 俺もしっかりしないとな。


 俺は外に出ることにした。

 頭上では、陽の光を受けて、ポヨンが作り出した水のリングがきらきらと輝いている。

 こうして、外にいる間はポヨンが侵入者を見逃さない。

 でも、そろそろ彼も疲れてくる頃だろう。


「ポヨーン! そろそろ交代しよう!」


『ブルルー』


 俺の声を聞いて、ポヨンが下に降りてきた。

 そして、弾丸になって俺の手に収まる。

 ゆっくり休んでいてもらおう。

 空に浮かんだ水のリングは、ゆっくりと空気に溶けて消えていった。


「フャーン」


「うん、まあそうだなあ。選挙期間は、この強行軍が続くよな。グリューネはクラリオンの近くで護衛についているだろ? でも、それ以外は俺たちがなんとかしないとな。こんな風に」


 俺は振り返らず、サンダラーを抜くと引き金を引いた。


「げええっ」


 甲冑を着た男が空気から溶け出すように出現する。

 彼は肩を穿たれて、よろけて膝を突く。


「な、なんで……。俺の力は目には見えないはず……」


「なんでだろうなあ。なんか、分かるようになっちまったんだよな」


 相手は、侵入しようとした青の戦士団員。

 前までは、色々サンダラーが教えてくれていた気がしたけれど、今は俺自身が分かる。

 何度も何度も、サンダラーとトリニティで戦い抜いていくうちに、そういう感覚みたいなものが身についたみたいだ。


 俺の後から走り出してきた兵士が、動けない青の戦士団員を拘束する。

 あの団員、気配がしたんだ。

 眠くて頭がぼーっとしているからこそ、余計なことを考えなくて済む。

 なんか俺は無心で、相手がどこにいるのか、何をやってくるのかが分かるんだ。


「お手柄です! 流石はメリッサさんが見込んだ人ですなあ!」


「あ、ども……」


 でも、兵士の人が褒めてくれるのは苦手なんだよなあ。

 照れて後頭部を掻いていると、オストリカが俺の胸をぺちぺち叩いてくる。


「いや、褒められ慣れて無いのは仕方ないじゃんか」


「フャーン」


「そりゃ、メリッサは平気だろ? 彼女、通った修羅場の数が絶対違うもん。俺、ようやく迷宮とか第一階層から上がってきて、まだこの上の階層にいるのが信じられない状態だぜ?」


「フャンフャン」


「すぐ慣れるって……そんなもんかなあ。なんか、いつまでも褒められるのは苦手な気がしてきてるよ」


 俺はため息を付きながら、屋敷の周りをぶらぶらと歩き出した。

 オストリカは俺の肩の上に移動して、胸元に向かってぶら下がっている。

 これは、俺の両手を空けておくため。

 魔銃使いの俺は、最近は抜き撃ちでの戦闘をするようになっている。

 すばやく抜くには、銃はホルスターに入っている方がいいのだ。


「さあ、メリッサが目覚めるまで、ひと頑張りだ。後ろを見張っててくれよ、オストリカ」


 俺は、小さな相方に声を掛けた。

 赤猫は、「フャン!」と元気よく返事をすると、俺の肩越しに周囲をきょろきょろし始めた。

 俺は自分の頬を、ぱちんと叩く。


「よっし!」


 気合を入れ、今日も仕事に励む俺なのだった。

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