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豪華なゴールディ領?

 第六階層は、人が住む場所という意味では最も高いところにある場所だ。

 ここから上は、第七階層だけ。

 そこには王城があって、正しくは、人が住んでいる場所ではなくなる。

 バブイルの王城とは、シンボルなんだそうで、普段は国王もそこにはいないらしい。


「なんか、さ」


「うん? どしたのクリス君。キョロキョロしちゃって」


「や。俺って、凄く場違いじゃない……?」


 そこは、第六階層ゴールディ領。

 大きな建物が立ち並ぶ場所で、人々が忙しそうに道を行き来している。

 第四階層と違うのは、誰も彼もが上等な服を着て、アクセサリーを身に着けているのだ。

 つまり、お金持ちが多い。


「そうかなあ。私はよく来るけれど、全然そういうの考えたことないな」


 メリッサは、気のせいだよと笑う。

 だけど彼女は、元々の作りがいい見た目をしてるじゃないかと俺は思うのだ。

 質素な格好をしてても、そういうファッションなんだと思える中身の良さ。

 惚れた弱みというか、贔屓目に見ている部分を差し引いても、メリッサは可愛いと思う。

 それに対して、俺なんかはどこにでもいるような赤毛のガキだ。

 この中だと一番年下だし……。


「クリスさんが何か落ち込んでいますね。もっと自信を持ったらいいのに」


「ええ。彼の実力と、成してきた事を鑑みれば、クリスという少年はバブイルの英雄と言って差し支えないでしょう。ですが、それを笠に着て傲慢に振る舞う人物であれば、メリッサ嬢は彼を好ましく思わなかったでしょうし、我が主も彼を呼び出そうとはしなかったでしょう」


「なるほど。あの自己評価が低い所も含めて、クリスさんの美点になっているという事なのですね。確かに、わたくしは彼の活躍を近くで見ていましたけれど、いざとなれば素晴らしい働きをしてくださる方です。信頼に値します」


 いきなり、アリナとグリューネが俺を褒め始めた。

 せ、背中がむずむずするなあ。


「ほーら、クリス君! みんな君のいいところはちゃーんと見てるんだから。だからどんと胸を張って! それが無理なら、ちょっとずつ自信つけよ? はいはい、この通りの奥まで行かなくちゃなんだから、ついてくる!」


 そう言いながら、メリッサは俺の手をぎゅっと握った。


「う、わわっ、メリッサ、手」


「なあーにー? もっと大胆なこと、何回もしてるでしょ。手くらいなんともないの。ほらほら、行くよ!」


 メリッサは俺の手を引いて走り出す。

 どいたどいたー、なんて言って、道行く人たちを掻き分けながら突き進む。

 この地区の人たちは、メリッサのことをよく知っているみたいだった。

 仕方ないなあ、みたいな顔をして、笑いながら道を開けてくれる。

 なんかこう、嬉しいやら恥ずかしいやら。

 結局注目されちゃってるし!

 くそー、いつか、この辺りを歩き回っても恥ずかしくない格好を手に入れるぞ!


 少し走ったところで、大通りは行き止まりになった。

 そこには、巨大な門がある。

 門の脇にも、やはり大きな門がいくつも開いていて、そこに荷物を満載にした馬車が飲み込まれていったり、あるいは色々な荷物を混載した馬車が出てきたりしている。


「ここがゴールディさんの屋敷だよ。商品の品評や取引も行われていたりするから、賑やかだけど。あとはこのお屋敷を囲むように、倉庫がたくさんあるの。これが全ての階層に行き渡る商品」


「はえー……」


 経済を支配する選王侯家がゴールディだとは知っていたが、これは、想像していたものとは桁違いだ。

 本当に、ゴールディ家だけでこの国の経済を回してしまっているのだ。

 ゴールディ領とは、バブイルでも名だたる商家の本家と、それらが所有する倉庫群、そして取引所であり、あらゆる商品を管理する経済の中枢としてのゴールディ家によって形作られているのだ。


 俺が呆然としていると、グリューネたちが追いついてきた。

 馬車でだ。


「お二人とも走っていってしまうので、びっくりしました」


 御者に手を貸されて馬車から降りつつ、アリナがむくれる。


「以前の騒動を収めた時は、わたくしも連れて行ってくれたのに。今回は手に手を取って、二人きりで逃避行ですか? それはそれでロマンチックで憧れますけど、置いていかれるのが自分となると、ちょっと面白くありません!」


「あ、なんかごめん」

 

 珍しく、ぷんぷんと怒っているアリナに、俺は謝り通しだ。

 対してメリッサは、「いやー、ごめんごめん、ついさー」とあくまで軽い。


「全くです。ご注意下さい」


 こっちは本当に怒ってるなーと分かるのはグリューネ。

 髪がちょっと逆立ってるし、尻尾がピーンと立ってる。

 あっ、隠れていた翼まで開きかけている。


「いいですか? 次の選王となるべきクラリオン様が、大切な客人を迎えるでもなく、歩かせたと周りに思われたらどうなりますか! 恥です! お二人の軽率な行動が、ゴールディ家に恥をかかせる事になります! これは由々しき事態です! 場合によっては、国王選挙にも影響するかもしれないほどの……」


「まあまあ! グリューネさんも落ち着いて、ね! つい! ついだから! ほら、ちょうどみんな揃ったわけだし、仲良く行こう?」


 グリューネがまくしたてる言葉に合間に、ズドンと切り込んでいくメリッサ。

 強い!

 内容の無い言葉の勢いだけで、グリューネを止めてしまった。

 パクパク口を動かす彼女を引っ張って、扉に入っていくメリッサだ。


「さあみんな! クラリオンさんとゴールディ家のみんなが待ってるよ! さっと報告して、楽しい楽しい夕食にしちゃおう!」


 やけにメリッサのテンションが高いなと思ったら、ゴールディ家の夕食が楽しみだったのか!

 確かに、これだけの経済力を持っているゴールディは、凄い夕食を用意してくれるに違いない。

 大きな扉をくぐると、検問所みたいなところになる。

 難しい顔をして、馬車の一台一台を調べている検問官たちの横を、しれっと抜けていくメリッサ。


「あっ、グリューネ様、メリッサ様、お疲れ様です!! どうぞどうぞ……。そちらのお二人はお連れ様で……あっ、クロリネ家のアリナ様!」


 女子三名が大物なんだよな……。

 なぜか、検問官のおじさんは俺に同情するような視線を送ってきた。

 いやあ、ご心配なさらず。

 俺は愛想笑いをしながら、そこを通り抜けた。


 扉の奥には、また道があった。

 そして、天井。

 どこまでもどこまでも続く天井と、それを支える恐ろしく太い柱がいくつも。

 しかし、なんとも賑やかな空間だ。

 たくさんの馬車が停められており、荷物が下ろされている。

 下ろした荷物は並べられて、その前には人だかりだ。


「ここで取引ね。ゴールディ家の人が直接歩き回っていて、相場を無視した不正な取引が行われていないかをチェックしているの」


「そ、そうなんだ。ていうか、この天井と柱、どこまで続いてるんだ?」


「うーん。ちょっと分かんない。かなり広いよ。勝手に動き回ったら迷子になるから注意してね。この先に魔導エレベーターが設置されているから、それを使ってお屋敷まで行くの」


「規模が桁違いだ……」


「そりゃあもう、バブイル一のお金持ちの家だもの」


「なあ、本当にこの先に進むのか? 俺、場違いな気がして仕方ないんだけど……」


「クリス君が来なきゃ意味がないの!」


 凄い押しだ。

 今日の俺は押されっぱなしだな!

 かくして俺は、魔導エレベーターに乗り込み、ゴールディの本家に踏み込んでいくのだ。

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