女神教団のお仕事?
第三階層での仕事ぶりを、ぜひ見て欲しいというドゥリエルからの言葉を受けて、俺とメリッサは魔導エレベーターから降り立った。
見渡す限りが湖の、まるごと観光地になっている第三階層。
しかし、そこにあるはずの保養施設などはことごとく壊されて跡形もない。
見えるのは、あちこちに生えた第三階層特有のヤシとか言う木と、緑が濃い草むらだけ。
「待って、クリス君! なんかいる!」
メリッサが何かに気づいたようで、木々の向こう側を指さした。
俺も目を凝らす。
そうしたら、ヤシの木が茂った辺りを抜けたところに、黒いものが集まってもぞもぞしているではないか。
「なんだ……。なんだあれ」
「よくぞ聞いてくれました! あれこそが、私たち闇の女神教団がこの地を復興するために行っているプログラムです! 具体的にはみんなで体操をして血行を良くし、それから復興作業をするんです」
「体操ねえ……」
近づいてみると、すごい数の黒ローブがいる。
「半分くらいは、地元の方ですよ! 体を冷やさないように、着る毛布としてローブを支給したんです。これなら、下は下着だけでも大丈夫ですからね! うーん、合理的」
「合理的は合理的なんだが……。すごく、すごく見た目がいかがわしくない?」
「そうでしょうか」
ドゥリエルが不思議そうな顔をした。
ちなみに、メリッサは全く動じた様子がない。
「うんうん、悪くないんじゃない? ちゃんと真っ当に社会貢献してる! 闇の女神教団が立ち上がったばかりの頃はね、もっとこう、当たり屋みたいな方法で信者を獲得して行っていたんだよね。大神官ウェスカーという悪い奴が、次々に村を傘下に収めていって」
「とんでもない奴だな……。そいつ邪神なんじゃないか?」
メリッサが口にするウェスカーという男、聞けば聞くほどとんでもないな。
きっと恐ろしく邪悪なやつに違いない。
「否定はできないね! でも悪い人じゃないよ? ちょっと頭がおかしいけれど」
「どちらにしたってろくでもないじゃないか!?」
メリッサは、へへ、ばれたか、と舌を出すと、スキップしながら黒ローブの一団目掛けて行ってしまった。
そして、しれっと一団に混じって体操を始めた。
黒ローブたちの一部は横に立ち、おかしげな歌を口ずさんでいる。
コレに合わせて体操をしているみたいだ。
確かに、ちょっとノリのいい歌だし、合わせて体を動かしたら気分がいいかもしれない。
「フャンフャーン」
オストリカがメリッサの真似をして、前足を振り回している。
「うんうん、オストリカは可愛いなあ」
俺がほっこりしていたら、ペスが俺の服の裾をちょいちょい、と引っ張る。
「ん?」
『ガオガオーン』
ペスが立ち上がり、前足で踊るような仕草を見せる。
こいつ、対抗意識を燃やしている……?
「よくできたなあ。ペスは器用だね」
『ガオン!』
満足気にペスは頷いた。
一団は一通り踊ると、満足したようだった。
「では、作業開始ー!」
黒ローブの一人が元気に声を出すと、一団は「おーっ」と返事をした。
そして、次々にローブを脱ぎ捨てる。
その下から現れたのは、見るからに元気そうな老若男女だ。
彼らは森の中から次々に、木材を運び出してくる。
これを使って、復興作業を行うのだ。
ドゥリエルは、この様子を腰に手を当て、胸を張って眺めていた。
そうして俺たちに振り返ると、
「ね?」
と笑った。
闇の女神教団が社会貢献してるでしょ? という意味だろう。
確かに、社会の役に立ってるなあ。
「これはポイント高いかもしれない」
「おっ、クリス君も闇の女神教団の良さがわかった? 女神のキータスちゃんもいい子だし、見た目が凄く怪しいだけで、中身はちゃんとしているんだよ」
「見た目だけで大きく損をしてるよね、彼ら……。黒いローブ脱げばいいのに」
ドゥリエルは、その言葉を聞いて目を剥いた。
「これを脱ぐなんてとんでもない!! キータス様の暗色の髪を表すこのローブこそが、教団員の命なんです! えっ、聖印みたいなペンダント? これはただお揃いで作っただけの飾りで……」
そうだったのか……。
とりあえず、ここを見る限りでは、彼らはゴールディが心配しているような邪神教団紛いの一団ではない。
彼らがこのローブを身に着けたまま、バブイルに受け入れられるようにしなきゃいけないってことか。
「これはちょっと大変だぞ……」
俺が考え込んでいると、メリッサがニコニコしながら肩を叩いてきた。
「うんうん、感心感心! クリス君にも闇の女神教団の良さが分かってきたみたいね。この、教義があるようで無かったり、怪しいようでいて物凄くオープンなところとかがいいんだよね。さあ、次の階層に行ってみようか!」
いや、そういうんじゃないけどな。
メリッサがいいと思ってるものが、みんなに伝わらなくて迫害されるとかはムカつくし。
俺を、迷宮の底からこんな広いところに連れてきてくれたのはメリッサだからな。
多少はお返ししないとなのだ。
だが、そんな事を口にだすのは照れくさい。
俺は口の中でもごもご言うと、歩き出したメリッサの横に並んだ。
後ろでは、壊された施設を立て直す作業が行われている。
第三階層の人も、教団の人々も一緒になって復興の従事しているのだ。
「そしてあわよくばこれを恩に感じた皆さんが改宗してくれれば……。あ、これ結構成功率が高くてですね」
「やめろドゥリエル、せっかく見直してきてるところだったのに!!」
わいわいと騒ぎながら、魔導エレベーターに向かう俺たちだった。
次に目指すのは、第二階層。
農耕が行われている場所で、現国王が属する選王侯家の管轄。
バブイル選王国の胃袋を支える、重要な階層でもある。
「ここにも……もちろん、教団の人たちはいるんだよな?」
「ええ、無論です! 第一階層から第三階層の隅々まで、すでに我が闇の女神教団は浸透していますよ!」
その話だけを聞くと、本当にろくでもない集団であるかのように聞こえる。
俺はちょっとだけ、彼らの力になろうと思ったことは正しかったのか? なんて考えてしまったのだった。




