魔銃/魔獣使いの召喚士!
『なっ、なんとぉーっ!! 火竜を合成するだとぉっ!?』
さすがのバラドンナも、ドラゴンにはたじろいでいる。
真っ赤な鱗のドラゴンは、スレイプニルより二回りは大きい。
「これ、私も見たこと無いドラゴンだ……! 凄いよ、クリス君!」
「まさかドラゴンまで召喚してしまうとは……恐るべき才能です……!」
二人の声を受けながら、俺は手の汗を拭ってからトリニティを握りなおす。
ドラゴンが俺をジロリと見た。
俺の命令を待っているのだ。
「俺の言うことを聞くんだな」
『グオ』
「よし、ドラゴン! あいつを、邪神バラドンナをやっつけろ!」
『グオオオ────ン!!』
俺の言葉とともに、トリニティがシリンダーを輝かせた。
ドラゴンの目に光が宿り、巨体をぐるりとバラドンナに向ける。
『小癪な、まがい物のドラゴンが!! 儂はモンスターを作り出す神、バラドンナだぞ!!』
ウェンディゴとなったバラドンナは、宙に舞い上がる。
空中から、ドラゴン目掛けて攻撃をするつもりだ。
邪神が手足を振るうと、そこから衝撃波が生まれ、辺り一帯に降り注ぐ。
ドラゴンだけじゃない。
俺やメリッサやレオン、街の人たちが巻き込まれそうな無差別攻撃だ!
邪神はよほど、余裕がなくなっているようだった。
『グオ──ンッ!』
ドラゴンは一声上げると、翼を大きく広げた。
それだけで、大きな屋敷をすっぽり覆ってしまえそうな翼だ。
これが、街や俺たちを守るように展開し、降り注ぐ衝撃波を受け止めていく。
レオンやメリッサ、俺のモンスターたちをも吹き飛ばした、邪神の衝撃波。
だが、これを食らっても、ドラゴンはびくともしない。
『グオォ────!!』
逆に、吼えながら翼を前に向かって振りぬいた。
その動きで、邪神が放っていた衝撃波がまとめて打ち返される。
『ぬわああああっ!? ば、馬鹿なあ!!』
自分の衝撃波で吹き飛ばされた邪神。
慌てて翼を羽ばたかせ、俺たちから遠ざかろうとする。
「まずい! 逃がすな、ドラゴン!」
『グオグオ』
「えっ、なんだ?」
『グーオ、グオ、グオオン』
「俺に乗れって?」
『グオーン』
ドラゴンが腹ばいになり、前足で背中を指し示す。
「ジェスチャーがやたらと上手いドラゴンですね……!」
「そりゃあ、元々ペスちゃんやトリーちゃんだもの。多分、合体しても性格はそのままなんだよ」
当たり前のような顔をして、メリッサがドラゴンの背中に一番乗りする。
「フャーン!」
大興奮したオストリカが、メリッサの胸元からドラゴンへと飛び降りた。
フャンフャン鳴きながら、でこぼこしたドラゴンの背中を冒険している。
「では、僕も……!」
「よし、みんなで乗り込むか!」
俺たち全員が搭乗することになった。
ドラゴンは、ちょっと振り返って背中を確認し、俺たちの数を数えたようだ。
彼は満足げに頷くと、翼を広げながら四肢で強く大地を蹴った。
跳躍する。
一跳びで、五階建てのホテルくらいまで跳びあがる。
そこからの羽ばたきだ。
一瞬で、ドラゴンは飛行状態に移行した。
走って勢いをつけるとか、地面で羽ばたいて風を起こすとか、そんな事は全くやらない。
「凄い飛び方だっ……!!」
もちろん、背中に乗っかっているだけの俺たちには、物凄い重圧やら風圧が襲ってくる。
三人で必死にしがみつく。
俺の脇を、ころころとオストリカが転がって行った。
慌てて、俺は脚を伸ばしてオストリカをキャッチする。
「フャーン」
「ありがとうクリス君! ほら、オストリカこっちこっち!」
メリッサが俺の背中の上を這って移動しながら、オストリカを回収した。
あっ、背中にメリッサの感触が……!!
『グオーンッ!!』
俺の興奮が伝わったのか、急にドラゴンがテンションを上げた。
大きく翼で風を打ち、急加速する。
俺たちみんな、悲鳴を上げながらしがみつくので精一杯。
『な、なんだーっ!?』
あっという間に邪神に追いついたものだから、やつはびっくりして叫んだ。
しかし、追いついたはいいものの、この状態では攻撃ができない……!
「ドラゴン! 攻撃を頼む!」
『グオォーンッ!』
ということで、トリニティを使って命令だ。
ドラゴンが巨体を寄せながら、バラドンナに鉤爪を振るう。
これを、ウェンディゴも腕を振り回して撃退した。
体格差はあるが、向こうも凄いパワーだ。
並んで飛ぶような形になったから、お互い攻撃の決め手がない。
次は後ろから食いつくように指示する……!
だけど、今大事なのはこの状況でどう戦うかだ。
「よし、分かった!」
俺に重なるようにしていたメリッサが、いきなりそんな事を言った。
「な、何が!?」
「クリス君はそのまま半身起こして!」
「風で飛ばされるぞ!?」
「私が後ろから支える! こう!」
そう言うなり、メリッサが俺を背中から抱きしめてきて、めりめりと引き起こした。
うわあ、すごいパワーだ!
風が体にぶち当たる。
だけど、後ろでメリッサが支えてくれているせいか、風に吹き飛ばされる気配は無い。
「ありがとう、メリッサ! これならいける!」
俺は腰から、サンダラーを抜いた。
風圧に逆らいながら戦うので、複雑な動きはできない。
だけど、引き金だけ引ければそれで十分なのだ。
「僕が君の腕を固定します。いでよ、我が眷属……!」
レオンからのサポートも来る。
霊体の戦士たちが、俺の腕を不思議な力で固定した。
これで照準がぶれないで済む。
「行くぞ、邪神!!」
俺は叫びながら引き金を引く。
空に響き渡る轟音。
放たれた弾丸が、猛スピードでバラドンナに突き刺さった。
『ぐおおおお!! この状況で撃ってくるだと!? そんなことが出来た者は、神代にだっていなかったというのに!』
俺の連射を受けて、ウェンディゴの体が傾ぐ。
バランスを失い、邪神は落下していった。
向かう先は第一階層。
既に俺たちは、重層大陸を飛び出していたのだ。
ドラゴンは一声吠えると、バラドンナを追って降下していく。
「ドラゴン! 炎のブレスだ!!」
『グオオオオオオォォォォ────ンッ!!』
咆哮と共に、ドラゴンの口からは炎が溢れ出る。
それは、最初は風を受けて飛び散っていたが、徐々にブレスが細く引き絞られていき、収束して輝きを増す。
やがて、ゴウゴウという音をしていたそれが、キィィィィンッと甲高い音に変わった。
炎のブレスが、炎の光線になる!
それはバラドンナにぶち当たると、爆発を起こす。
『ぐわあああああ!! おのれ、おのれーっ!!』
バラドンナも負けじと、爆発の中からこちらに衝撃波を放ってくる。
邪神目掛けてまっすぐ降下中のこちらは、回避ができない。
ドラゴンが呻きながら、揺らいだ。
「ドラゴン! ブレスの力、こっちによこせ! 俺が攻撃を担当する!」
『グオン!』
俺が指示すると、ドラゴンは答えながら、その体を赤く発光させる。
ドラゴンの巨体から、俺に向けて、力が流れ込んでくるのを感じた。
その力は魔力。
俺を通して、サンダラーへと集まる。
「これでも……喰らえっ!! 炎の弾丸!!」
射撃の瞬間、音がしなかった。
銃口が輝き、凄まじい反動と共に真っ赤な弾丸を吐き出す。
俺は反動で吹き飛びかけたが、レオンとメリッサが、俺の体を必死に繋ぎ止める。
少し遅れて、轟音が響き渡る。
弾丸が空を裂き、ドラゴンを追い越して一直線。
落下していくバラドンナに到達して、炸裂した。
『ウオオオオオオ──!! 儂が、儂の体があああああっ!!』
空中で、邪神の体が真っ赤に赤熱する。
それが大きく膨れ上がり、バラドンナは凄い目つきで俺を睨んだ。
『これで終わりではないぞ、召喚士ぃぃぃっ!!』
「俺は、魔銃使いだ!」
バラドンナが爆発した。
その全身が黒い粒子になって、空気に溶けていく。
中から、キラキラ光りながら少し大きな塊が落下していった。
俺はその塊に見覚えがある。
「あれ? あれは……俺が使ってた魔銃……」
魔銃はそのまま、風にあおられ、海の中へと没していった。
「…………」
しばらく、俺たちは無言だった。
ドラゴンは空気を読んで、ゆったりとした滑空状態に移行する。
俺たちはふわふわと、バブイルの周りを飛んだ。
「や……」
後ろからかかる、メリッサの力が強くなる。
「やった……」
あっ、俺の足が浮く。
持ち上げられている……?
「やったー!! やったよ、クリスくーん!!」
ついに、俺はメリッサに後ろから抱き上げられてしまった。
「うおわー! メリッサ、ここ、空の上! 怖い怖い!!」
「やりました! まさか、邪神を倒してしまうなんて!」
レオンも興奮を隠しきれないようだ。
オストリカがメリッサを伝い、俺の服をよじ登ってきた。
そして、前足で俺の肩をぺちぺち叩くと、
「フャーン」
と労いの声を掛けてきたのだった。
俺もようやく、実感が湧いてくる。
「そっか……。勝ったんだよな、俺たち」
メリッサに下ろしてもらいながら、手にしたサンダラーを見つめる。
邪神を倒した一撃を放った魔銃は、いつもと変わらない顔を見せている。
ホルスターにあるトリニティもまた……。
……って、こいつ、点滅してるぞ。
「なあ、なんかトリニティが光ってて。ピコーン、ピコーンって」
「なんでしょうね」
「あれ? 点滅が早くなってきてない?」
メリッサが指摘したその途端。
『グオーン!?』
ドラゴンが悲鳴のような声を上げた。
そして、巨体が輝きに包まれ……ドラゴンは、一瞬で三匹のモンスターに戻ってしまったのだ。
空中に投げ出される俺たち。
「う、うわー!?」
「ひえー!!」
「ひやー!!」
モンスターもろとも、海面へ真っ逆さまだ。
「うおおおお!! ぺ、ペガサース!!」
ホルスターに収めたままで、俺は複合召喚を行った。
トリーとポヨンが一体になり、危うく水面に叩きつけられるかというところで、俺たちはペガサスに助けられた。
「制限時間があったか……!」
「邪神を倒したのに、運悪く死ぬところだったね……!」
「高いところは怖いです……!」
口々に感想を呟く。
いまいち、締まらない俺たちなのだった。




