決めろ、ツープラトン!
「よーっし、これで二対一! こっちが有利だね!」
メリッサが板を担いで、不敵に笑う。
俺は群衆を乗り越えて、既に彼女の隣に。
「二対一だとう!? 見てみろ、お前たちの周りを埋め尽くす我が教団の信者たちを! この全てが魔法を行使できる神官なのだ!」
魔法使いは、口角から泡を飛ばして叫ぶ。
「だけど、女盗賊のグループは俺がやっつけたぞ!! あいつ、モンスターに変身しやがった」
「な、なにぃ……!? クリスがあいつをやっただと!? そんな馬鹿な! 我ら大神官は、バラドンナ様から偉大なる力を与えられているのだ! お前ごときに負けるはずがない!!」
ゆけい! と群衆に命令を下す魔法使い。
彼の言葉は特別みたいだ。
群衆が持っている聖印が光りだし、みんなどこか操られるようにして俺たちへと押し寄せてくる。
俺はトリニティを抜くと、空に向かって撃ち放った。
「トリー! パワーアップだ! こいつらを妨害するんだ!」
『ピヨー!』
空に撃った弾丸が、光になってトリーへと降り注ぐ。
白い翼を広げ、ハーピーのトリーは猛然と、群衆向けて飛来した。
巻き起こる強烈な風。
ペガサスほどではないが、強烈な風圧で、群衆の足が止まる。
「うわーっ!?」
「目にホコリがー!」
「前が見えないーっ!」
トリーは、俺とメリッサ、商店街の人たちを囲むように飛び回っている。
俺たちがいるところは、ちょうど渦巻く風の中心で、静かなものだ。
群衆が全く身動き取れなくなり、魔法使いはギリギリと歯ぎしりをした。
「ななな、何をしているお前たち!! それでもバラドンナ様に選ばれた信者か!! 情けないぞ! こら、お前行け! お前も!」
「ひえーっ」
「ぎゃーっ」
押し出された信者は、風に巻かれて倒れる。
並の人間じゃ、パワーアップしたトリーの起こす、この渦巻く風に対抗できないのだ。
「お前が来いよ! 他人ばっかり行かせて、まだ後衛のつもりか!」
「なな、なんだとぉ!? クリスのくせに生意気なあ! お前だって後衛だったじゃないか!!」
あっ、俺の挑発に乗った。
やっぱり、昔から付き合いがあるから、あいつの事はそれなりに分かる気がする。
魔法使いは群衆を押しのけると、持っていた聖印……特別性の魔銃を掲げた。
「俺の力を見せてやる! バラドンナ様から賜った力をなあ! もう、俺は後衛じゃねえええええ!!」
ずっと後衛だったこと、気にしてたんだろうか。
魔法使いは叫びながら、その姿を変えていく。
全身が真っ黒に染まり、そのシルエットが縦に引き伸ばされる。
ガチャガチャと音を立てて、装甲に覆われたたくさんの足が飛び出し、自在に曲がる槍のような尻尾が飛び出した。
変化が終わると、そいつは巨大なサソリの下半身に、人間の上半身がついたモンスターに変わっている。
「ぶははははは!! どうだ、この強そうな姿! 俺の魔法とサソリのハサミ、針! 分厚い皮! 俺のどこにも隙はなぁい!!」
ガチャガチャと音を立てて、モンスター化した魔法使いが迫ってきた。
尻尾が振り回され、邪魔な信者を弾き飛ばしていく。
女盗賊もだけど、こいつら、他の信者たちを何だと思ってるんだ。
俺はムカムカしてきたぞ。
こいつら、なんかジョージに似てるんじゃないのか?
「おっ、クリス君が怒ってる。気持ちは分かる」
「だろ。だから俺、目一杯全力で行く! トリー、風はストップ!」
『ピヨ!』
俺の指示にしたがって、トリーが羽ばたきをやめる。
滑空しながら、くるくると上空を回りだした。
俺たちと、モンスター化した魔法使いを遮るものは何もいなくなる。
「クリスさん、メリッサさん、気をつけて! それは、アンドロスコルピオという恐ろしいモンスターです!! さっきの女性も、スキュラというモンスターに変身しました! 邪神から力を与えられた神官は、強いモンスターになるようです!」
群衆の輪の外から、アリナのアドバイスが飛んだ。
さすがアリナ、詳しい!
「サソリの魔物なんだね! よーし、じゃあサソリと戦う要領でいけるよね!」
「メリッサ、サソリと戦ったことが? ……っていうか、いつの間にそんな武器を?」
気がつくと、大きくて分厚いグレートソードなんか持っているメリッサだ。
「武器屋のおじさんに借りたの!」
「おうよ! うちの武器をついにメリッサちゃんが使ってくれるぜ! ありがてえ!」
おお、あれは商店街で、メリッサに武器を薦めていた店主!
こう言う状況だが、店主の望みが叶ったらしい。
「さすがに素手だと、針とか怖いしね。さあ、私が行ってハサミとか針を止めるから、クリス君は他お願い!」
「分かった!!」
メリッサが真っ先に、アンドルスコルピオへと駆け寄っていく。
「わはは! 馬鹿め、俺のパワーは凄いんだぞ! そおれ、綺麗な顔がズタズタにぃ!!」
敵はハサミを振り上げて、それをメリッサ目掛けて振り下ろしてくる。
「そぉいっ!!」
そこに、メリッサはグレートソードを下から振り上げる。
甲高い金属音がして、アンドロスコルピオのハサミがかち上げられた。
「なっ、なんだとぉ!?」
「ただでさえパワフルなメリッサが、武器を持ったんだからそうなるよなっ! それそれそれっ!!」
俺はサンダラーで援護射撃だ。
援護とは言うものの、全弾、サソリの上の魔法使いボディを狙っている。
「ひ、ひい!」
慌ててハサミを持ち上げて、自分をカバーする魔法使い。
「おのれ、飛び道具とは卑怯な!!」
「あんたも魔法使えばいいだろうが!」
「サソリの体に慣れてないから、一緒に魔法は使えんのだ!!」
あっ、弱点をばらした。
メリッサがにんまりと笑うのが分かる。
彼女はグレートソードを振り回して、棍棒のように扱う。
剣でガンガンと、アンドロスコルピオのハサミや頭、腹を叩き始めたのだ。
「ぐわーっ! そんな体格で、グレートソードをまるで棒きれみたいに! うわっ、危ない!!」
グレートソードが、魔法使いの顔をかすめた。
彼の頬から血が流れる。
「お、おのれーっ!! 手加減していれば調子に乗りおって!」
「手加減……?」
射撃しながら、俺は首をかしげる。
俺とメリッサに押されていたアンドロスコルピオだが、それは彼にとって手加減だったらしい。
魔法使いは、本気とやらを出すべく、大きな尻尾を持ち上げた。
「サソリの尾を喰らえ!! 猛毒で仕留めてくれる!!」
「わっ、あぶな!!」
やや緩慢だったサソリの動きとは打って変わって、尻尾の攻撃は速い。
メリッサはグレートソードが間に合わず、地面に転がって一撃を避ける。
彼女の顔の横の地面に、針が突き刺さった。
「メリッサ!! このやろう、やったな!!」
俺は頭に血が上る。
ちょうど、今はメリッサが倒れている。
つまり彼女に当たる心配は無いってことだ。
サンダラーを変形させ、ファニングショットを放つ。
猛烈な速度の魔銃の連射が、アンドロスコルピオを襲った。
「な、なんだそれはーっ!? ぐえええ、弾が多すぎる!」
魔法使いは慌てて、両のハサミを持ち上げて人間の体をガードする。
守る方に気を取られて、尻尾の動きがおろそかだ。
やっぱり、ずっと後衛だったから肉弾戦のセンスはないのかもしれない。
「ナイスだよ、クリス君! お腹ががら空き!!」
メリッサは倒れた姿勢から、アンドロスコルピオの腹の下に潜り込んだ。
そこから、グレートソードを突き立てながら肩を押し当てる。
「ぎゃあああっ!? し、下に入り込んだ!?」
「ふぬぬぬぬっ! お、重いーっ!!」
重いと言いながらも、メリッサがアンドロスコルピオの巨体を、少しずつ持ち上げていく。
サソリの足の半ばが地面から浮き、宙を掻く。
「今だ!」
俺は走った。
そして、メリッサの背中に足を掛けると、アンドロスコルピオの体を駆け上がる。
「私を踏み台にした!?」
「ごめん! 後でご飯おごる!」
「許す!!」
メリッサの許可をもらった所で、俺は魔法使いの頭上まで跳躍している。
頭ががら空きだ!
「ひ、ひいーっ!!」
慌てて尻尾を動かす魔法使い。
だけど、遅い。
「行くぜ、サンダラーッ!!」
叫びながら引き金を引く。
雷鳴のような轟音が響き渡り、弾丸は確かに、魔法使いの額を撃ち抜いていた。
アンドロスコルピオが、白目を剥く。
「こんな馬鹿な……! 俺は、俺は今度こそバラドンナ様の力を使って、栄光を勝ち取り酒池肉林……ウグワーッ!!」
モンスターの巨体が、爆発した。
「うわっ!」
俺は爆風を受けて、後方に吹き飛ばされる。
『ピヨヨ!』
そこへトリーが飛んできて、翼で風を起こして俺の勢いを緩和してくれた。
下の方では、メリッサがゴロゴロ転がっていく。
大丈夫かな。
「いったーい」
無事だ。
メリッサは頑丈だなあ。
とにかく、これで二人目を撃破だ。
レオンのところは大丈夫だろうか?




