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召喚士認定!

 冒険者の店の騒ぎが一段落つくと、俺とメリッサは店の奥に通された。

 ダリア一行とは離れ離れだ。


「ええと……これはどういう?」


 通された部屋には大きなテーブルと椅子があり、その前には身なりの良い白髪の男性が立っていた。


「第一階層店長、ガッドと申します。遠き海の果て、ユーティリット連合王国よりの使者、メリッサ殿をお迎えできて嬉しく思います」


 男性とメリッサが、握手を交わしている。

 冒険者の店の長ということは、この第一階層で一番地位が高い人間ということだ。

 それがどうして、メリッサはともかくとして俺に会おうというのだ。


「こちらが、召喚士殿で?」


「ええ、そうです。バブイル選王国に数百年ぶりに現れた、最新のスタイルの召喚士です。ね、クリス君」


「あ、はい」


「ここで、ペスを召喚してみて。まだ魔力はいけるよね?」


「いけるけど……」


「やっぱり……君って、魔力の量も並外れてると思うよ。魔物を召喚して、あれだけ魔銃を使って、さらに魔物を強化して……それだけやっても、まだ召喚する魔力が残ってるのって凄いことなんだから」


「そう……なのかな……? あの、本当にここで呼んでしまっていいんですか?」


 ガッドに尋ねる。

 彼は鷹揚にうなずいて見せた。

 俺は覚悟を決めて、魔銃を抜く。

 それを何もない方へ向けて、引き金に指をかける。


「出てこい、ペス!」


 名を呼ぶと、キメラが変じた弾丸が飛び出してくる。

 冒険者の店に戻る時、弾丸をポケットに入れておいたのだ。

 それがシリンダーに入り込み、青い光を放ちながら回転を始める。


「おお……これは……!! 魔銃を介しての召喚だというのか!!」


 ガッドが驚く声をもらす中、銃口からは轟音とともに、青い魔力の光が放たれた。

 それが、あっという間にキメラの形になり、部屋の上に降り立つ。


『ガオガオン』


「何度もごめんな、ペス」


『ガーオー』


「えっ、お腹空いたのか? あの、すみません。こいつに何か食べるものをもらえないですか? あ、お金は払うんで……」


 俺が顔をあげると、ガッドは呆然として立ち尽くしていた。

 他に、扉が開いていて、そこにはガッドの護衛らしき兵士が、やはり青ざめて立っている。


「モ、モンスターを呼び出した……!」


「モンスターが魔銃から出てきたぞ!!」


『グルル』


 兵士達の敵意を感じて、ペスが低く唸る。

 山羊の頭が口をむにゃむにゃ動かして呪文を唱え、竜の頭が炎の鼻息を吹く。


「待った! ペスは敵意はない! 俺の言うことを聞くんだ!」


「そ、そうか。召喚士が呼び出した召喚モンスターなら、命令を聞くはずだ。おい、お前たち、武器を下ろしなさい!」


 ガッドに命令され、兵士たちは恐る恐る、構えを解く。

 すると、ペスも唸るのを止めた。

 ライオンの頭が、喉を鳴らしながら俺の腕に鼻を擦り付けてくる。


「あの、それで、ご飯」


「あ、ああ! すぐに用意させるとも!」


 しばらくすると、調理前の豚がまるごと一頭運ばれてきた。

 ペスは『グロローン!』と嬉しそうな声を上げると、ご飯にかぶりつく。


「フャンフャン!」


「オストリカも一緒に食べたいって。いい?」


「いいか、ペス?」


『ガオ』


 ペスはちょこっと、子猫が入れるくらいのスペースを空けてくれる。

 そこに、メリッサの腕から飛び出したオストリカが収まり、豚を食べ始めた。


「やっぱり、魔物がご飯食べてる光景って萌えるよねえ……」


「は、はあ」


 メリッサが、あまり同意できない事を言ってきた。


「おほん。話を続けさせてもらっていいかな」


 ガッドが咳払いをするので、二人で彼の対面に戻って来た。

 冷たいお茶とお菓子が出される。

 お茶はいい香りだし、お菓子はとても甘い。

 こんな上等なもの、食べたことがない。

 ちょっとひとつまみのつもりだったお菓子が、止まらなくなる俺である。


「うっま……うま……」


「バブイルのお菓子もやるね……。これは美味しいわ。渋みのある冷茶との組み合わせとか、明らかに無限にお菓子を食べさせるコンボじゃない。太るの不可避だわ……恐ろしいところ……!」


「クリス殿! メリッサ殿!」


 なんだか悲鳴みたいな声になっているガッド。

 思わずお菓子に夢中になっていた俺達は我に返った。


「す、すみません! あんまりにも美味しくて」


「話を聞いてほしいんだったら、こんなに美味しいお菓子出しちゃだめじゃない!!」


「えっ!? なんでメリッサ逆ギレしてるの!?」


「本当に……本当に話を進めさせて下さい……!」


 懇願してくるガッドである。

 メリッサは選王侯家の賓客だし、強く出られないんだろう。

 国に仕えてる立場って、大変だな。


「それで、クリス殿は今後、身の振り方を考えておいでかな?」


「えっ、俺ですか」


「さよう。あなたは召喚士となった方だ。これは、古来から国策として行われている、重層大陸の迷宮探索に大きく貢献できる能力であることは間違いない。あなたを抱え込むかどうかで、選王侯家の勢力は大きく変わるだろう。間違いなく、次の王を輩出する家になる」


「そ、そんな大げさな……!」


 今朝がたまで、ただの魔銃使いだった俺が、今はバブイル選王国の未来を揺るがすような立場に……!?


「メリッサ、召喚士ってそんない凄いの?」


「凄いなんてもんじゃないよ。だって、バブイルに限ったとしても、迷宮の魔物を仲間にして一人で探索できちゃうような職業なんだよ? まだ一匹としか契約してない君が、ペス一匹でゴーレムを簡単に蹂躙したでしょ。契約する魔物が増える度に、君はどんどん強くなっていくの。すぐに、一国の騎士団に匹敵する強さになるんじゃないかな?」


「そ、そんな大げさなあ……」


「大げさじゃないよ。フツーに君の処遇を考えたら、いきなり選王侯家預かりになっておかしくないもの。……ということで」


 メリッサは、ちらりとガッドを見た。


「な、なんですかな」


「私は、ゴールディさんにこのことはしばらく報告しないつもりだよ。何百年ぶりに召喚士が現れたっていうのは、きっと何かの予兆。私たちの世界でも、同じようなことがあって、魔王が現れたの。だから、きっとクリスには大事な役割がある」


「はあ……。しかし、私は上に報告をせぬわけには……。それに、ダリアのパーティがクリス殿のことを知ってしまっているでしょう」


「ならば簡単。クリス君」


「ああ。俺もそのつもりだった。ダリアのパーティにしばらく世話になろう! どうせ選王侯家の預かりになるなら、パーティごと成り上がって、それでゴールディ家専属になったほうが、俺一人注目されなくて気が楽だよ!」


「うんうん!」


 嬉しそうに、メリッサは手をたたきうなずいた。

 冒険者の店の長、ガッドは胃を押さえて顔をしかめている。

 気の毒だけど、俺の身を守るためだ。



△▲△



「歓迎するわクリス!! わがパーティにようこそ!」


「まだ、中級レベルのパーティだけれども、あなたが加わればわたしたち、きっと上級になれるわ」


「冒険者のイロハってやつを教えてやるからな! 兄貴って慕ってくれていいんだぜ!」


「よろしく」


 ダリアたちは、大歓迎してくれた。

 俺の加入をこうも喜んでくれると、なんだか嬉しいけれど、むず痒いな。

 ちなみに、メリッサも当たり前みたいな顔をしてパーティに参入した。

 みんな、メリッサがどういう職業なのか全くわからないみたいだった。だけれど、彼女がジョージを一蹴りで天井に突き刺したのを見て、「多分モンク」という想像で一致したらしい。

 選王侯家ゴールディとつながりがあって、独立裁量証を持っていて、外国人のモンク少女……。

 うん、俺でも彼女が何者なのか、全くわからない。


「メリッサの豪腕にも期待しているわ! 我がパーティに、前衛が一人増えたわね!」


 ダリアに肩を抱かれて、メリッサが、「は!?」という顔をしているのは、ちょっと面白いのだった。

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