神殿前の決闘!
「出てこい、ペス!」
『ガオーン!!』
トリニティの銃口が輝くと、ペスが飛び出してきた。
キメラがその巨体を表すと、俺に迫ってきていた群衆は慌てて遠ざかった。
ペスは四つの頭があるから、死角がない。
全方位に睨みを効かせながら、俺に群衆が近寄らないようにしている。
「やはり……やはりお前、召喚士になっていたんだね……!!」
女盗賊が、憎々しげに俺を睨む。
「お前がジョージに魔銃を渡したばかりに、あたしはあいつに盾にされて……だけど、おかげでバラドンナ様にも会えたんだから、悪いことだけじゃないねえ」
バラドンナの名を口にした途端、彼女の顔はにやけた。
女盗賊の前には、何人もの群衆がひしめいている。
まるで、肉の盾だ。
「お前たち! あたしを守りな! クリスの魔銃ごときじゃ、この肉の盾は削りきれないさ! よーく知ってるんだから」
にやにや笑いながら、女盗賊は俺に迫る。
手にした魔銃は、いびつな棘だらけの形。
群衆が持っている聖印とはモノが違う。あれ、本物の魔銃だ。
「魔銃はね、あんただけの特権じゃなくなったの。あたしたち、大神官もまた、バラドンナ様から魔銃を扱う能力を与えられたのよ! そおら!!」
俺が、群衆を前にして攻めあぐねていたら、女盗賊は躊躇なく銃を構え、引き金を引いた。
「ウグワーッ!!」
弾丸が、何人かの群衆を撃ち抜きながら俺に迫る。
対する俺は……。
「サンダラーが、何も動かない……! 俺が全部決めろってことか……! いいだろう!」
目にも留まらぬ速度で、迫る弾丸。
だけど、不思議と俺にはそれがゆっくりに見えた。
サンダラーの銃口が、弾丸の軌跡を捉える。
「行け、サンダラー!!」
轟音が轟いた。
放たれた弾丸は一直線に飛び、俺を襲おうとしていた女盗賊の弾を撃ち落とす。
「ウグワー!」
「ウグワー!」
あいつ!
自分が盾にしてる人たちを次々貫きながら、こっちに向けて撃ってくる!
「ダメだぞ、これ。迷ってたら次々にみんな犠牲になる!」
『ガオン!!』
「ペス、お前がやるって?」
一瞬考えて、決断した。
「任せる!!」
『ガオーンッ!!』
前に飛び出してきたペスが、炎のブレスを吐き出す。
それが襲ってきた弾丸を焼き尽くし、山羊の頭が放った魔法で、群衆の足元が揺れ始める。地面が割れ、盛り上がる。
群衆が悲鳴を上げて、転んでいった。
たちまちの内に、女盗賊を守る人の壁はなくなってしまったことになる。
「ええっ!? お、お前たち、何を転んでるの! 使えない奴ら!!」
歯ぎしりをして、地団駄を踏む。
「終わりだぞ! 覚悟しろ!」
俺はサンダラーを撃った。
女盗賊は必死に魔銃を持ち上げて、これを受け止める。
「ひいっ! こ、このっ!! 魔銃使いじゃ、一日の長があんたにあるわね!!」
『ガオーン』
ペスが呆れたような声を漏らした。
うん、あれは負け惜しみだな。
「こうなったら、バラドンナ様から頂いた力を開放するよ!! 目覚めよ、あたしの力ァ!!」
女盗賊が、魔銃を握りしめて、力を込める。
すると、銃の半ばからポキリと二つに折れた。
壊れたんじゃない。
そうなるように作られていたんだ。
その形は、歪な三角形のような……。
「あ、ああ、あああ、ああああ──!!」
叫び声が響いた。
女盗賊の姿が、一瞬で黒い闇に包まれ、シルエットだけになる。
それが、ぐにゃりと歪むと、一気に大きくなった。
下半身が肥大化して、幾つにも分かれる。それはまるで、たくさんの頭を持つ肉食獣のようだ。
上半身だけ、女盗賊の面影を残したまま、影が晴れた。
「ああああああ──!! 力が、力がみなぎるよ!! これは……これが、あたしの力!!」
現れたのは、女盗賊の腰から下が、巨大な六頭のオオカミになったモンスターだった。
「だ、大神官様……ウグワーッ!!
一人食われた!
「アハハハハ!! 見てなよ! あたしの力を見せてやるよ! これが、これが本当のあたしさ!! クリスぅ! あんたもこいつらみたいに食い尽くしてやるよぉ!! あんたは、あんたはあたしらの下っ端だったのに、いつの間にか強い力を手に入れて、こんないいところで暮らしているなんて、ずるい!! あんたはずるいんだよ! あんたを喰らって、あたしはあんたの幸せを手に入れる! あは、あはははは!!」
「すっかりおかしくなってるな!」
『ガオン!』
ペスが獅子の頭で、俺の尻を押した。
乗れってことか!?
「分かった! 行くぞ、ペス!」
キメラの背に、俺は飛び乗る。
『ガウーッ!!』
それと同時に、ペスが高く跳躍した。
バックジャンプだ。今まで彼がいた場所目掛けて、女盗賊から飛び出してきた巨大オオカミが襲いかかる。
寸でのところで歯を噛み合わせたオオカミに、ペスのドラゴン頭がブレスを吐きかけた。
「ギャウーン!!」
オオカミが悲鳴を上げる。
慌てて、女盗賊の所に戻っていった。
いや、あいつとオオカミは、下半身が一体化して繋がっているんだ。どうやら、自在に伸びるみたいだな。
「ええい、逃げるなあ!!」
「逃げてるばかりじゃねえよ!」
サンダラーを放つ。
弾丸が猛烈な速度で飛び、女盗賊の体を穿った。
「ぎええ! 痛い痛い痛い!! おのれ、ちくしょう! このやろう!!」
撃ったはずだけど、まだ動ける……!
思わずやってしまったが、人の姿をしている相手を撃つのは、抵抗があるな……!
「お前たち、襲っておしまい!!」
女盗賊が命令を下すと、オオカミたちが動き出した。
一斉に俺の方を向き、次々に襲い掛かってくる。
これを、ペスは必死に躱し、返す刀で魔法を叩きつけたり、蛇の頭で噛み付いたり。
くそ、足場が安定しない。
俺の腕じゃ、揺れまくっていると銃が上手く決まらない……!
何発か放つが、それは女盗賊を掠りこそすれ、命中はしない。
一瞬……一瞬だけ隙ができれば……!
「クリスさーん!!」
その時だ。
叫び声がした。
風を切る音がする。
轟音と共に、降りてくる大きな影。
ペガサスだ。
『フォーンッ!!』
「戻ってきたのかい! ならあいつも引きずり下ろして……なっ!?」
「フャーン!」
空を見上げていた女盗賊だが、その間に、足元から忍び寄っていた赤い影が飛んだ!
オストリカだ。
赤猫が女盗賊の体をよじ登ると、その顔の上にぺたっと貼り付いた。
「うおわーっ!? 見えない! 見えない!! 何か貼り付いた! あっ、や、やめろー! あたしの顔でおしっこするなー!?」
そこに飛び込んでくるペガサス。
今度は寸止めじゃない。
飛び込んでくる勢いでもって、体当たりだ!
「ぎえーっ!!」
女盗賊であったモンスターが、吹き飛ぶ。
まとめて、オオカミがペスから引き離される。
『ガオン!』
「ああ、安定したぜペス! 行くぜサンダラー! ファニングだ!」
サンダラーが展開する。
女盗賊が吹き飛ばされた上空に向けて、超高速での魔銃連射だ。
弾丸が、雨のように撃ち放たれて女盗賊を穿つ。
「あぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!?」
ファニングの途中で、サンダラーが再び形を変える。
俺の中の魔力が、ごっそりと持っていかれる感触があった。
これは、凄い弾丸が生まれそうだ……!
「サンダラー!! 行くぜ!」
銃口が輝いた。
雷鳴が轟く。
周囲一帯に響き渡るほどの轟音だ。
放たれたのは、稲妻の一撃。
真っ直ぐに飛んだ弾丸が、女盗賊の頭を撃ち抜いた。
「ウッ、ウグワーッ!!」
強烈に魔力の籠もった弾丸を浴びた女盗賊は、打ち上げられた空の上にて、爆発四散したのだった。




